たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年12月12執筆  2003年12月15日掲載

「仕事」だから仕方がない

昔から、「仕事」とは何か、ということをよく考える。
というのは、世の大人たち、特に男性が、二言目には「仕事だから仕方がない」と言うのに違和感を覚えるからだ。
「仕事だから仕方がない」
本当にそうだろうか?
「仕事」は、あらゆるものより優先するのだろうか?
いや、そもそも「仕事」とは何なのか?

学生時代に、授業でこんなことを習った。
世の中には2種類の「仕事」がある。

・自分でなければできない仕事
・自分でなくても他の誰かができる仕事

また、別の視点から分ければ、

・誰かがしなければならない仕事
・べつにしなくても、人はそれほど困らない仕事

の2種類がある、という。
「困らない」というのは乱暴な言い方だが、この場合の「困らない」は、特定の人ではなく、世の中全体、その人が生きている社会の全体(あるいは一部)というような意味である。お父さんが死んだら家族は困る……のはあたりまえなので、そういう次元の話は除外する。
そうすると、最初の2種類と後の2種類を組み合わせて、世の中には、

1. 誰かがしなくてはならず、自分にしかできない仕事
2. 誰かがしなければならないが、自分がしなくてもいい仕事
3. べつにしなくても世の中の人はあまり困らないが、自分にしかできない仕事
4. べつにしなくても世の中の人はあまり困らず、かつ、自分がしなくてもいい仕事

の4種類の仕事がある、ということになる。

仕事に貴賤はないというが、そう言う人のどれだけが本気でそう思っているだろうか。
多分、僕も含め、世の中の多くの人は、2か4の仕事をしているような気がする。
で、心の中では、3の仕事をしたいと願っている。

1の仕事は、厳密に考えていくと、そうそうはない。
例えば、目の前に暴走寸前の原子炉があるとする。このままではメルトダウンは必至。一刻の猶予もならない。
コントロールルームには、暴走を止められる知識と技術を持った人間が自分の他には誰もいない。……なんていう状況なら、1の仕事だろう。1の仕事はあんまりやりたくない。

「俺が今倒れたらみんなが困る」と思いこんでいる人は多いが、実際その人が突然死んでしまっても、必ず代わりが現れ、世の中はそうそう変わらず動いていく。
そもそも、多くの人々にとって、「仕事」をこのように分類することはあまり意味がなく、単純に「お金を得るための手段」という意識が支配的だったりする。どれだけの労力、拘束時間と引き替えに、いくら手に入るのか。そうした視点でしか仕事を考えたことがないという人もいるに違いない。

……で、なんでこんなことをぐだぐだと書いているのかというと……。

イラクへ向かうことになるであろう自衛隊員たちへマイクを向けるシーン。必ず返ってくるのが「上から命令されれば行くだけです」というような受動的な答えだ。こうした答えはいつものことだが、今回はいつにもまして引っかかる。

上からの命令だから行く……つまり、イラクへ向かう自衛隊員たちは「仕事」だから行くのだろう。その命令を下す「上」のいちばん上、最高司令官は小泉首相だ。
首相は質問の内容がなんであれ、「イラク」という言葉が出てくれば、「テロには屈しない」と、壊れた人形のように繰り返すばかり。
日本が今まで中東諸国から攻撃されたことはあるのか? 理不尽な攻撃を受けても屈しないぞ、という話ではない。
自衛隊員は「仕事」としてイラクに向かう。その結果、日本人全体が今より危険な状態に陥ることは間違いない。自衛隊の「仕事」は、国を守ることではないのか? 彼らは自分たちの「仕事」の内容を、どう定義すればよいのだろう。

一方、自爆テロを行う者たちは「仕事」でやっているわけではない。自分の命を捨てることと引き替えに、相手に対する憎悪のメッセージをぶつけている。「上から命令されれば行くだけです」という自衛隊員たちとは、まったく意識のレベルが違う。
なぜそこまでの憎しみが生まれるのか。相手の心を見つめない限り、問題が解決するはずがない。理由のない憎しみなどありえないのだ。

テロリストと呼ばれる者たちの暴力という手段を、イラクの人々が認めているわけではない。当然だ。
しかし、自爆テロをする者たちの気持ちをまったく理解できないイラク人もまた、少ないだろう。イラク人だけではない。中東の国々に暮らす人たちの多くは、アメリカ政府のやり方に、共通した怒りと憎しみを抱いている。

なぜ憎まれるのか。これだけの怒りが積もりに積もるまでにはどういう歴史があったのか。彼らは何を憎み、何を求めているのか。彼らの精神性や文化を、我々は理解しようとしているのか。
そのことに思いをはせることもなく、「危険地帯に日本人を行かせていいのか」「安全なのか」というような論調ばかり出てくるこの国の民度は、本当に恥ずかしい。
彼らの憎しみの内容を直視しないまま「支援」などできるはずがないではないか。

小泉首相は、もしかすると「なにがなんでもアメリカ政府の心証を害さないこと」が、日本政府のトップである自分にとっての「仕事」なのだと思いこんでいるのかもしれない。
「仕事だから」あるいは「仕方がない」という言葉によるひとりひとりの思考停止が、近い将来、取り返しのつかない悲劇を招くのではないかと怖れている。

烏天狗像
■烏天狗像
(大雄山最乗寺)

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