たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年2月13日執筆  2004年2月17掲載

マイナスイオンって何?

アナログレコードに代わってCDが出始めたとき、「デジタル対応」という言葉が乱発された。
例えば、「デジタル対応」のヘッドフォンやスピーカーなどというものがたくさん売られていた。
音を記録する、あるいは伝達するのにデジタル信号を使うのであれば、これは「デジタルレコーダー」とか「デジタルアンプ」と称していい。しかし、「デジタルスピーカー」というものは存在しない。何かが振動して音が出るという原理である限り、それは「アナログ」である。デジタルアンプやデジタルミキサーはあっても、デジタルスピーカーやデジタルマイクロフォンはないのだ。
光ケーブルを接続して音が出るスピーカーなら、スピーカーの内部にDAコンバーターが内蔵されているということだろうから「デジタル対応」と言えるだろう。しかし「デジタル対応」と金色で大きく書かれたパッケージに入って売られていたヘッドフォンは、普通のヘッドフォンだった。
あの「デジタル対応」の「対応」とはなんだったのか?
まさか、「これでCDも聴けますよ」という意味だったとは思いたくないが、多分、メーカーに問いつめたらその程度の答えしか返ってこなかっただろう。

……とまあ、このへんのことは明解に分かるのだが、ことが化学系、物理系の分野になると、いささか自信がない。

最近、部屋の中の空気があまりに汚れているので、空気清浄器なるものを買ってみようかと思いたった。
ところが、調べれば調べるほど分からない。
例えば、「マイナスイオン発生器」なるものが存在する。うたい文句は「マイナスイオンの技術を使って空気をビタミン化させる! 」。
なんじゃこりゃ。
空気をビタミン化????!!! いくらなんでもあんまりではないか。
ちなみに88,000円である。

この製品の説明には、マイナスイオンの効能とともに、「オゾンの害」も強調されている。
「光化学スモッグの成分は90%がオゾンなのです。光化学スモッグによって目がチカチカしたり、倒れたりする子供が出るのもオゾンの害なのです」
オゾンは発癌性物質であるとも断じている。

かと思えば、その逆で、
「マイナスイオンをうたった商品に惑わされていませんか? マイナスイオンは、気分をリフレッシュさせる効果があると言われていますが、人体への効果などの究明はまだ不十分で、安易にマイナスイオン効果を強調するのは問題です」
と警告した上で、
「マイナスイオン空気清浄器では得られない強力オゾンパワー!で強力脱臭、強力殺菌!!」とうたった「オゾン空気清浄器」なるものもある。
こちらは3~20畳程度の部屋用で24,000円。目覚まし時計くらいの大きさである。

大手家電メーカー製品にも、マイナスイオンシャワー(シャワーヘッド)とかマイナスイオンドライヤーとかマイナスイオン掃除機とかマイナスイオンブラシなどというものがある。
いわく、
「40万個/cc以上(滝壺の40倍以上)のマイナスイオンを大量発生」
「ドライヤーの風といっしょに、イオンチューブからマイナスイオンがたっぷりと髪の中へ」
「大量のマイナスイオンによって、髪の中からうるおって、さらに水分コート」
「お掃除しながらお部屋の空気もリフレッシュ」

う~~む。髪の中からうるおうとはどういう状態なのだろうか?

そもそも、マイナスイオンって何?
マイナスイオンの定義を求めてあちこちのサイトを巡ってみたが、結局よく分からなかった。もちろん、僕が理科系に弱いということがいちばんの問題なのだが、なんだか分からないようにさせておこうという確信犯的な文章も多々見うけられる。

こうしたマイナスイオン商法のいかがわしさについて警鐘を鳴らしているサイトもたくさんある。
その中のひとつでは、
//「多種多様な物質」をプラスイオンという一つの言葉でくくり、また、マイナスイオンもその実態には、恐らく「水の微粒子、オゾン、場合によっては放射線利用」という三種類があるにも関わらず同じ名前でくくることによって、それらの差があることを覆い隠している//
ことが問題だと指摘している。
だとすれば、「オゾンは有害だからマイナスイオンを」と訴えるマイナスイオン発生器と、「マイナスイオン製品は怪しいが、オゾン空気清浄器には実績がある」としているオゾン脱臭器の構造が、実は同じだった、などということもあるかもしれない。

マイナスイオンだけではない。
トルマリンとか遠赤外線とかアルカリイオン水とか波動なんとかとか、怪しいものはこの世に充ち満ちている。

薬事法関連の表記などにはかなりうるさい日本の行政も、科学「もどき」の記述の正当性についてはずいぶん甘い気がする。
例えば、オゾンは量によっては人体に有害だというなら、オゾン発生器の安全性ガイドラインを明示してほしいものだ。市販されているオゾン発生器程度の量なら全然心配いらないのか、それとも実は脱臭・殺菌効果より有害な面のほうが強いということもありえるのか。
身体によく……と思って購入したものについて、新たな健康被害の不安を抱くなんて馬鹿馬鹿しいもの。
よくある「ラドン温泉」の類もそうで、結局のところ健康にいいのか悪いのか、よく分からない。(本当に「ラドン」温泉なのかどうかも分からないかもしれないが……)

……と書いているうちに頭が痛くなってきた。温泉にでも行きたいなあ。
a sheep
■挿画 a sheep (c)tanuki

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