たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年2月27日執筆  2004年3月3日掲載

酒税の根拠

先日、焼酎を買って封を切るとき、ふと容器を見ると「酒税446.58円」と記されているのが目にとまった。
1.8リットル入りの黒糖焼酎で、値段は1600円程度だった。そのうちの500円弱が酒税なのだなあ、と、思わずため息が出た。

焼酎といえば、ウイスキーなどに比べて酒税率が低いということで税率が上げられたはずだ。正確にはどうなっているのだろうとネット上を探したところ、ここに一覧表があった。
アルコール分1度あたりの税率で見ると、ビールが異常な突出ぶりを示している。
ビール業界が悲鳴を上げるのはよく分かる。
ちなみにビール酒造組合が出している「ビールの酒税減税に関する要望書」というPRページがここにある。これによれば、ビール大瓶1本(633ml)337円(希望小売価格)のうち、消費税は16.05円、酒税は140.52円である。実に半分近くが税金なのだ。

当然、次のような疑問がわいてくる。

1)なぜ消費税を払った上で、酒税も払わなければならないのか?
2)なぜ酒の種類によって税率がこんなにも違うのか?

そもそも、酒類の製造販売に酒税というものをかける根拠はなんなのだろうか。

かつてトランプ税というのがあった。トランプを購入すると、封印がしてあり、印紙が貼ってあったのを記憶している人は多いはず。このトランプ税を逃れるため、裏(表?じゃないよね)の模様の中に分かりにくい識別マークを埋め込み、「これは裏が1枚1枚違う模様のカードだから、トランプではない」と言って安く売っていたものもある。
なぜトランプに特別な税金がかけられたのだろうか?
思うに「贅沢な品物だから」という理由なのだろう。どうも「贅沢品には税金をかける」という基準があるらしい。
自動車やゴルフクラブと並んで、トランプも「贅沢品」と見なされていたわけだ。
「そんなものはなくても生きていける。庶民はみんな生活必需品を入手するだけで苦労している。よって、贅沢品を購入する者は、税金を払うべし」
……そういう理屈なのではないかと想像する。

この発想がそもそも無理だ。
何が贅沢で何が贅沢でないかという判断は難しい。個人の価値観や生活スタイルによってまったく違ってくる。世の中には風呂なしアパートで暮らしながらポルシェに乗り続ける人もいる。先日、貧乏人ウォッチング番組(なんだそれ)を見ていたら、月収8万円で家賃が1万5000円。食費が1万5000円。しかし毎月3万円を風俗店にかけるという若者がいた。彼にとっては、性生活は衣食住より重要なことなのだ。

僕は、これからの税金は「環境負荷税」という理念で制定し、徴収していくべきだと考えている。環境負荷の高いもの、ゴミとなったときに処理困難なものを製造したり売買したりする時点で税金をかける。

酒税と一緒によく論じられるのがたばこ税だが、「環境負荷税」の課税対象として考えた場合、酒とたばこでは似て非なるものと言える。
たばこは住空間の空気汚染という環境負荷を生む。レストランや喫茶店などで、非喫煙者が被る迷惑はとてつもないものだ。
酒は、適量を飲んでいる限り周囲に迷惑をかけることはないが、喫煙は行為そのものが周囲に対する暴力だ。こう書けば猛反論がくるのは分かっているが、これに関しては愛煙家のみなさんがどんなに反論しても、僕は聴く耳を持たない。(公共の場での喫煙は暴力です。きっぱり!)
百害あって一利なしと言われる喫煙をやめさせるきっかけを与えるためにも、たばこ税が高額なのはよいことではないかと思う。

もちろん、単純に酒はOKだとは言わない。酒を飲むことで飲酒運転が生まれ、事故が起きる。
酒が原因で暴力をふるう人もいるし、身体を壊す人もいる。それは社会にとっての大きなマイナス要因となるわけで、環境負荷税の精神からも、アルコール飲料が課税対象となることには反対しない。

しかし、酒の種類によって税率が大きく違うということには、誰がどう考えても納得のいく説明は生まれないのではなかろうか。

ビールの税率の高さにたまりかねたメーカーは、「発泡酒」というものを発明した。
発泡酒は酒税区分では「雑酒」に分類され、原料が麦芽50%以上ならビールと同じ税率だが、25~50%未満ならビールの約8割、それ以下なら約6割になる。
先にあげたビール大瓶1本(633ml)337円(希望小売価格)のうちの酒税140.52円が、麦芽25~50%未満の発泡酒なら約113円に、それ以外の雑酒なら約85円にまで下がる。140円と85円では55円違う。337円で売っているビールと「似たような雑酒」を作れば、280円程度で売れることになる。
この場合、ビールは「贅沢品」で、雑酒は贅沢度が低いということになるのだろうか?
実際にはそうさせられているのだが、そんなばかな……と、みんな思っている。
同じアルコール量を得るのに、ビールはワインの7倍以上「贅沢」であるという考え方も成り立つはずはない。
酒を飲むという行為が「贅沢」かどうかという議論は棚上げしたとしても、飲む酒の種類に贅沢の等級をつけるなどできるはずがない。
要するにこの理不尽極まりない酒税率は、お上が、一度作り上げてしまった税の既得権を失いたくないだけのことだ。
税を取り立てる側にとって、「ビールほどおいしい酒はない」。
まちがいない。


白髭神社の狛犬
■白髭神社(長野県上水内郡鬼無里村)の狛犬
建立時期は不明だが多分昭和初期

(c)狛犬ネット


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