たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年6月12日執筆  2004年6月15日掲載

日本人は縛られ好き?

人名漢字の拡大が、変な議論を呼び起こしているらしい。
法制審議会人名用漢字部会が6月11日に「見直し案」を発表したところ、、「糞」「呪」「屍」「癌」「痔」などという「名前としてふさわしいと思えない」字も含まれていることから、「そんな字を入れる必要があるのか」「いや、お上からの束縛は少ないほどいい。あとは親が責任を持って決めればいいだけのこと」という意見の対立があるという。
驚いてしまうのは、前者の「ふさわしくない字を入れるな」という意見だ。日本人は上から縛られるのが好きなのだなあと、つくづく思う。こういうときにこそ「自己責任論」って言葉を使えばいいのに。
親は、自分だけではなく、子供という「他者」の人生に対して、あるいは自分が所属する社会に対して責任を負っている。誰が見てもおかしい、不快になる名前を子供につけるという行為が持つ意味を考えられないような親は、その時点で子供を作るべきじゃない。

「名前としてふさわしい」かどうかを、国に決めてもらう必要はない。ただし、とんでもない名前をつけられた本人への救済措置は十二分に設けておくべきだろう。名前をつけられたほうには「自己責任」は生じないのだから。
名前(命名)に限らず、子供を虐待する親から子供を守るための社会的システムは、今以上に必要だと思う。

それにしても、どうも、メディアは「ふさわしい字論争」を、必要以上に仕掛けている気がする。
常用漢字(当初は「当用漢字」)、人名用漢字、字形のことなどは、拙著『テキストファイルとは何か』にもかなりのページをさいて書いたし、以前、このコラムでも書いたことがあるが、一般に日本人は「漢字のこと」を知らなすぎる。「漢字」が読み書きできないという意味ではない。漢字をめぐる制度やルールについて知らなすぎるという意味だ。
「岡島」さんや「上岡」さんはあたりまえに存在するのに「次郎」という名前は許されなかったという現実を知らない。
そもそも「常用漢字」というものが必要なのかどうかという議論があまり出てこない。不思議なことだ。

さらに今回の「見直し案」に含まれている字をよく見てみると、面白いことに、JIS漢字以外の漢字も相当数含まれている。森鷗外の「鷗」(鴎の偏が正字体の「區」)や、手偏に「國」の「掴」、しんにょうの点が2つある「逗子」の「逗」など、印刷業界で常に問題にされる文字も含まれている。
これをやるならば、いっそあの悪名高き83JIS改訂にまで戻って、「やっぱり常用漢字以外の漢字については、偏や旁は正字体のままを正しい字形とします」という根本的訂正を先にしたほうがいいのではないか。(僕個人としては、その際、例外として「しんにょう」だけは、全部点1つで統一してもいいと思うけれど……)

……ん? となると、常用漢字の制定はやはり必要ということになるのだろうか。でも、必要だとしても、「略字形を常用として認める漢字」という意味合いになる。
国を「國」と書きたければどうぞお好きにしてくださいな。しかし、「国」は常用漢字なので、普通は「国」と書くことにしますし、一般の印刷物でも「国」という字形を使いますよ。
……という意味合いだ。

どうも、今回の「人名漢字見直し案」は、人名漢字というものを飛び越して、今までやってきた国の漢字行政?の杜撰さ、不備を問い直す意味も含まれている気がする。
メディアもしっかりそこを伝えてくれなければ。
「糞太郎」という名前がふさわしいかどうか、というような話では、決してないのである。
兎金次郎
●写真 兎金次郎
(c)Takuki Y.

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