たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年7月31日執筆  2004年8月3日掲載

モバイル地獄・パケット地獄

 仕事上、旅行していてもノートパソコンを携帯し、旅先からインターネット接続してサーバーメンテナンスやメールチェックをする必要がある。DDIポケットのPHSカード端末でつないでいるのだが、接続可能エリアが狭いので、滞在先でつながるかどうかは賭けみたいなものだ。
 従来、モバイル機からまともにインターネットを利用できるのはPHS(32kbps~64kbps)経由くらいのもので、携帯電話では9600bpsなどという「パソコン通信」時代の速度しか得られなかった。それが、このところ「第三世代携帯」というものが現れて、携帯端末からでも高速通信が可能になってきたとのこと。遅ればせながら、各携帯電話会社のモバイル通信対応状況を調べてみた。
 その結果分かったのは、
1)携帯電話のパケット通信は、同時に接続しているユーザーが多ければ実際の速度はどんどん落ちてしまい、使い物にならないことがある。
2)携帯電話のパケット定額料金オプションは、本体から接続するサービス以外(つまりパソコンからつないで普通にWEB閲覧やメール送受信をする場合)には適用できない。
 ということだった。
 以下、少し詳しく解説を試みたい。

 携帯端末をモデム代わりにしてパソコンからインターネットを利用するには、パケット通信という方式と、32kbpsや64kbpsでのデジタルデータ通信方式がある。
 最近の第三世代携帯が「高速データ通信」と謳っているのは主にパケット通信のほうである。
 パケット通信は、通信速度だけを見ると、最速はauの受信2.4Mbps/送信144kbps(CDMA1X WINのPacket WINシングルサービス)だが、現在、この受信2.4Mbpsが使える端末には電話機型はなく、カード型一機種のみだ。携帯電話型端末をパソコンにつないでインターネットを利用しようとすると、受信144kbps/送信64kbpsの性能に留まる。
 DOCOMOの第三世代携帯FOMAでは、送受信共に最大384kbpsという速度。
 ボーダフォンの第三世代型携帯(ボーダフォン・グローバル・スタンダード)は、受信384kbps/送信64kbps。
 受信に2.4Mbpsだの384kbpsだのという数字が打ち出されているため、従来の携帯端末でのデータ通信速度(9600bps)やPHSのデータ通信速度(32kbpsから始まり、64kbps、最近では一部に128kbpsも出てきた)よりずっと速いという印象を受けるが、実はここに大きな落とし穴がある。これらの数値はあくまでも「理論値」であり、同時にアクセスしている人間が他にたくさんいればどんどん速度が落ちてしまうのだ。
 同じ通信エリアからパケット通信に接続しているユーザーがひとりだけなら、この最大速度が出る可能性はある。しかし、同時に接続しているユーザーが増えれば速度はどんどん落ち込み、実速度は数kbpsにまで落ちることもあるし、それ以上アクセスがあると接続不能となることもあるという。
 念のため、DOCOMOショップでこのことを質問してみた。
「実際問題として、数kbpsまで遅くなることはあるんですか?」
「う~~~ん、そうですねえ。夜間など混んでいる状態では、そういうこともあります」
 念のため、都心のDOCOMOショップと、地方都市のDOCOMOショップの両方で訊いてみたが、同じような答えだった。
 このデメリットは、将来、ユーザーが増えれば増えるほど深刻化するかもしれない。
 日本でのインターネット黎明期がそうだった。プロバイダへの加入者数が増えるにつれ通信速度が下がり、設備増強をして状況が緩和され、さらに加入者が増えてまた悪化し……の繰り返しだった。契約時直後はサクサク利用できていたが、どんどん実速度が遅くなり、使い物にならなくなってくることもありえるだろう。

 このことは、携帯電話のパンフレットではしっかり説明されていない。ところが、PHSでは、それを逆手にとって広告している。
 DOCOMOがやっているPHS(@FreeD)では、こんな売り口上でPRしている。

//「@FreeD」は、64kbps/32kbps回線交換方式を採用。パケット通信方式よりはるかに快適で、速度低下のないデータ通信方式です。安定した通信スピードを求めるなら、やっぱり「@FreeD」です。//

 これを「解読」すれば、「パケット通信の最高速度なんてあてになりませんよ。実用を重視し、安定した速度を得たいなら、パケットではなく回線交換方式のほうがいいですよ」と言いたいらしい。

 現在、どの携帯電話会社も、従来型から第三世代携帯への移行を強力に推し進めている。DOCOMOは従来型のMOVAからFOMAへ、auはCDMA1X WINに、ボーダフォンも新方式に。
 FOMAの宣伝では「最大384kbpsの高速通信が可能」と謳っているのに、同じDOCOMOでもPHSでは「パケット通信なんてあてになりませんよ」と言って、データ通信におけるPHSの優位性を主張している。なんだか二枚舌の印象がぬぐえない。
 FOMAは、機種によっては64kbpsデータ通信も併用できる。状況によっては、パケット通信よりこちらのほうが速いこともあるという。しかし、それではPHS端末による従来のデータ通信と変わらない。

 もうひとつの落とし穴は、利用料金だ。
 本格的にモバイルマシンからデータ通信をするにはどうしても定額料金制度がほしいところだが、現在のところ、どの携帯電話会社も定額サービスは提供していない。
 FOMAの「パケ・ホーダイ」、auの「EZフラット」は、携帯電話端末でのメール送受信やWEB閲覧に限られており、パソコンとつないでインターネット利用する場合には適用されない。
 そのことを、どの携帯電話会社も積極的には説明していないように見うけられる。パンフレットにも、虫眼鏡で見なければ読めないような小さな文字での断り書きしか表記されていない。定額サービスを申し込めば、携帯端末をモデム感覚でパソコンにつないで使用できると思いこむ人が多いが、そうではないことに注意したい。

 では、携帯端末の高速パケット通信をモバイル通信に利用した場合、実際にはいくらかかるのか?
 FOMAの場合、パケット通信時の通常料金は0.21円/パケット(税込)である。
 1パケットとは128バイトのこと。128バイトで0.2円ということは、1KBで2円。1MBで2000円!ということになる。
 ブロードバンド時代の今、1MB程度のデータ量を持つWEBページはざらにある。デジカメ写真の画像一枚でさえ、高解像度機が普及したので数MBあることが珍しくない。デジカメ写真数枚が添付ファイルで付いているメールなどを受信しようものなら、それだけで数千円からあっという間に万単位の金額となってしまい、とても気軽には使えない。ましてやFTPでサーバーに大きなファイルをアップロードなどという作業をしようものなら、目も当てられない。
 そこで、「パケットパック」という割引オプションを併用せざるをえない。
 いちばん使いでのある「パケットパック60」は、月額6300円プラスで30万パケットまで使える。これとFOMAのいちばん安い料金プラン(FOMAプラン39)と組み合わせると、基本料金が4095円、パケットパック60が6300円で合計1万0395円(税込)になる。これで通信できるのは30万パケット(30MB)まで。それを超えた分は、0.021円/パケット(1MBあたり210円=税込)の追加料金が加算されていく。
 auでは、パケット通信料は税込0.105円/パケットで、FOMAより安い。安いとはいっても1MBで1050円は辛いから、やはり「パケット割WIN」という割引オプションを併用することになる。4200円プラスして16万パケット。7875円プラスで50万パケット。
 2.4Mbpsが使えるデータ通信専用カード端末のコース(パケットWINシングルサービス)は基本料金が1575円。50万パケット(50MB)分の通信料込みのオプション(パケット割WINスーパー)料金が7875円。合計9450円(税込)。超過分には0.01575円/パケット(税込)の追加料金がかかる。
 運よくエリア内での同時アクセス者が他におらず、2.4Mbpsでつながる幸運に恵まれたとしても、調子に乗ってWEB閲覧を続けると、快適環境という幸運があだとなって、とんでもない通信料が請求されることもある。
 ボーダフォンも似たような料金設定だ。
 いちばん安い料金コースは3675円だが、これには通話料金が15分程度しか含まれていないので、事実上はその上のバリューパック(4095円)がいちばん安いコースと考えていいだろう。このままだと1パケット0.21円(税込)がかかる。
 ハッピーパケットスーパー(月額3097.5円)というパケット通信割引オプションをつけると、月額合計7192円。これで7万3750パケット分がまかなえる。バリューパックのいちばん安いコースに含まれている2000円分を全部パケット通信にあてると5万パケットに相当するので、合計約12MB強までならこの金額(月7192円)で収まるが、超過すると、0.04円/パケットがどんどん加算されていく。

 ここまで分かった上で、改めて見直されるのが、データ通信でも定額料金コースのあるPHSだろう。PHSは、今では電話機としてよりデータ通信の手段としての利用がメインになっており、パンフレットの案内でも、電話機型端末よりもパソコン用のカード型端末やUSBケーブル型端末が先に紹介されているくらいだ。
 DDIポケットのAir H"の場合、通信速度はパケット通信で最大128kbps。
 128kbpsで無制限定額にするためには、オプション128(月額3675円)というのをつけなければならない(これをつけないと32kbps)。オプション128とつなぎ放題コースの基本料金が6090円で、合計9765円。
 64kbpsのPIAFS方式によるC@rd H"というコースもあり、これは3か所のアクセス先を固定(指定)することで月額1029円(税込)。しかしこちらは定額制ではなく、通信料金は一律10.5円/70秒。旅行や出張でたまにしか使わない場合はこれが得だろう。僕が旅行時に使っているのはこれである。
 PHSでは、NTTの@FreeDが料金的には最も魅力的だろうか。定額月払い5124円(税込)/月。一括年払い5万0400円(税込)という方法もある。速度は64kbpsが最大(パケットではなく回線切り替え方式)。
 以上、すべてプロバイダ関連の料金は別である。
 調べた結果分かったことは、月額1万円以下で、パソコンから無制限データ通信が行えるのは、今なお(2004年7月末現在)、PHSしかないということだった。

 知人に、モバイルのヘビーユーザーがいる。彼はPHSが出始めたとき、「空白エリアをなくすため」とかで、全社のPHS端末を持っていた。
 CDMA-ONEが出たときもまっ先に契約した。FOMAのパケット通信も当然経験済みである。
 彼は今はもうFOMAでのパケット通信はしていない。FOMAのパケット通信は、エリア内であれば新幹線内からでも接続可能だったが、定額料金が適用できないため料金が悲惨なことになり、続けられなかったそうだ。彼が今、モバイル用に使っているのは@FreeDだそうだが、利用可能エリアはあまり広くない。
 あれこれ試してみたものの、「今はまだ、コレ! というのがない状態」だという。

 もちろん、携帯電話の世界は日進月歩だから、半年も経たないうちに状況はガラッと変わっている可能性もある。ただし、パケット通信に関しては、同時接続のユーザーが多いほど通信速度が落ちるという宿命を背負っているため、普及すればするほど実用速度は落ちて、設備増強を余儀なくされるといういたちごっこが続くだろう。

 僕の場合、日常的にモバイル通信を必要としているわけではないので、今まではDDIポケットのPHS(C@rd H"による専用カード端末契約)だけ契約していた。
 しかし、PHSはサービスエリアが狭く、ちょっと街中から離れた宿などでは使えない。これからエリアが広がるとも思えない。
 そこで、予備手段として、まずは今使っている携帯電話(ボーダフォン)を新世代方式に変更して、旅先で高速パケット通信を使えるようにしようとした。
 店に行って機種変更を申し込もうとしたところ、
「使用する電波帯域が違ってきますので、念のためデモ機を貸し出して、ご利用頻度の高いエリアでの電波受信状況をご確認いただいてから変更を承っております」
 とのこと。自宅で入りさえすればいいと思って気軽に構えていたのだが、なんと、自宅でまったく使えなかった。さすがに自宅で使えない携帯には移行できない。
 そこでFOMAを1台新規契約したが、電話としてエリアが狭まることを懸念し、1台でMOVAと自動切り替えができる機種にした。これは一機種しかなく、在庫がなかったので取り寄せてもらった。DOCOMOショップの店員の話では「今はもうFOMAのエリアがMOVA並みに広がったので、切り替える必要がほとんどなくなった」とのことだったが、実際に自動切り替え可能なこの機種を持ってあちこち移動してみると、MOVAしか使えないエリアは結構たくさんあった。
 さらにauの2.4Mbps用のカード端末も契約しようかとも思ったのだが、1年に数回の旅行時、しかもPHSもFOMAもつながらないエリアでauだけがつながる状況に遭遇する可能性がどれだけあるか分からない(ほとんどないような気がする)。そのわずかな可能性に対する保険のためだけに月々の契約料を支払い続けるのはどうにも馬鹿らしいので、見合わせることにした。
 それにしても、家や仕事場から離れても通信をし続けなければならない現代人とはなんなのだろうか。
 ペースメーカーをつけられて生きているようなもので、こんな生活を続けていたら、どんどん不幸になるし、寿命も縮むに違いない。本当の意味でのモバイル地獄は、この息苦しさのことだろう。
「つながりません。はい。あとはよろしく」
 それで許してもらえない社会って、なんなの。

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