たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年12月10日執筆  2004年12月14日掲載

地上波デジタル計画中止は可能か

タヌパック越後の後片づけのため、中越地震後3度目の越後行きから昨日戻ってきた。
集落がさっさと集団移転を決めてしまったため、もはやライフラインの復旧はないという。集団移転の条件は、「元の土地には二度と住まない」「家も建てない」ことだとか。
ほとんど新築に近いような家で、倒壊を免れた建物でも、集団移転決定後は住居としては修理することはできない。物置や作業小屋としての利用ならばOKなのだという。傾いた新築の家を物置として利用するなんていうのは、全壊以上に哀しいかもしれない。
その集落のいちばん奥にあるタヌパック越後(もちろん全壊)は、もはや復活の望みもない。

家財などの荷物の搬出のため、引っ越し業者に問い合わせをしたが、大手3社からはことごとく断られてしまった。あんな怖いところにトラックを向かわせるわけにはいかないというのだ。
ようやく引き受けてくれたのは準大手くらいの業者の群馬支店。
「道が相当荒れているんですが、なんとか通れますので……」
「はい。震災後、小千谷にも入りましたので大体分かっております」
ほっとした(やっぱり商売、「ハート」が大切だわね)。

少しでも安くするために、搬出・搬入時期はトラックの都合優先ということになった。
荷造りのために朝から現地に入らなければいけない。なるべく川口町に近いところで前夜泊まりたいのだが、小出や浦佐あたりのホテルはどこも工事関係者などで連日満室。
少しずつ現地から距離を置いて探し回った挙げ句、六日町のスキー場に併設されているホテルが空いていた。スキー場オープン前なので素泊まり5000円。部屋は普通のビジネスホテルよりずっと広く、これは大正解だった。

そのホテルの部屋で、備え付けの古い小さなテレビを見ながらふと思い出した。
2011年、地上波アナログ放送の完全終了……。
旅館やホテルの部屋でよく見るこの手の古いテレビ。こんなところでまだまだ頑張っているんだなあと、なんとなく嬉しくなるものだが、このテレビも2011年には何も映らないゴミになってしまう。
我が家の29インチのテレビ(数年前、近所の電器店で3万円弱で購入)も、ただの粗大ゴミになる。
なんで? そんな馬鹿なこと、一体どこの誰が言い出したのだ。それを誰が許したのだ。
2011年というのは今からたった7年後のことだ。それまでに現在の地上波テレビ放送を全廃してデジタル化するというとんでもない計画……。

現在1億台をはるかに超えるテレビ受像器が日本中に存在する。それが全部粗大ゴミになる。こんな馬鹿な話はない。
それと引き替えにどんなメリットがあるのか?
電波帯域の有効利用?
双方向番組?
横長画面の細密映像?

どれもこれも現在のテレビ放送システムを全廃するだけの理由になどとうていなりはしない。
特に、小型のテレビには16:9画面も高解像度放送も向いていない。小型のテレビは安売り店では数千円くらいで買える。6畳一間のひとり暮らしで、32インチワイドテレビを見たいなどという人はほとんどいないだろう。そういう人たちにも、とてつもなく迷惑な計画である。
多くの人たちが、当初からこの計画を「実現不可能」と切り捨てていた。少し考えれば、いかに馬鹿げた計画かすぐに分かりそうなものだ。それなのに、真っ向から反対したのは共産党だけだという。
議員も、一体何人がこの問題をちゃんと理解しているのか疑問だ。精力的に反対を唱えているのは、平岡秀夫議員くらいしか見あたらない。
自治体では、田中知事の長野県は、反対表明をしている
WEBで検索すると、坂本衛氏のサイトが相当気合いを入れてこの問題を取り上げている
どれもしごくまっとうな意見、分析が並んでいる。

端的に言えば、テレビなんてものは放送の技術部分だけ「高品位」になっても仕方がない。今のままで十分である。
中身がこれほど低品位になってしまったのだから、まずはそっちの問題に集中すべきことは論を待たない。
しょーもない番組を無意味に横長な画面で見て「きれいだ」とか「毛穴まで見える」とかはしゃいで何になるのか。

おそらく、2011年に地上波デジタル完全移行というのは無理だろう。しかし、今までの例から考えても、政府は無理なものをだらだらと言い訳しながら先送りして粘るに違いない。その金と労力の無駄を、なんとか減らせないものかと思う。
とりあえず、民主党は次の選挙までに「地上波デジタルをやめる」宣言をしたらどうか。その頃には国民もこの計画の馬鹿さ加減に今よりは気づいているだろうから、強力なアピールになりえるぞ。少なくとも「高速道路無料化宣言」よりはリアリティがある(残念ながら、あれはみんな信用していなかったよね)。

金をかけるなら、日本全国のブロードバンド化のほうである。今のままでは、通信網が重要な田舎ほど、いつまで経ってもブロードバンドが引けない。過疎化に悩む村は、まずなによりもブロードバンド環境を手に入れることだ。通信さえできればどこにいてもできる仕事というのは今後どんどん増えていく。プログラマーや顧客サービスセンターのオペレーターなんて、都会に住む必要はさらさらない。自然豊かな環境の中で仕事ができれば、少しはデジタルストレスも軽減するというものだ。
総務省が、2010年代前半にも国内の固定電話通信網をIP通信網に完全移行させる方針を検討し始めたらしいが、それが田舎のブロードバンド環境を無理矢理にでも促進してくれるなら、そっちが正解。ちょっと前はIP電話の品質がどうのこうのといって、IP電話網の自由化を邪魔していたきらいもあったようだが、少しは考え方が変わってきたのだろうか。

地上波テレビは所詮一方通行のメディアだ。デジタル化したって本質は何も変わらない。
そうではなく、ブロードバンドを使って、個々の視聴者が見たい番組を好きなときに選んで見られるように改革する、というなら、大いに金をかける意味がある。放送局は番組データ配信センターであり、ストックしてある膨大な番組の中から見たいものを選び、自分の時間に合わせて購入するというスタイルが一般化すれば、番組の使い捨てが減り、番組制作側にも、将来にわたって恥ずかしくない、よい番組をきちんと作ろうという意欲が戻ってくるかもしれない。

今からでもいいから、まず地上波デジタル計画を凍結、撤回。その金を、ブロードバンド網を広げること、真のメディア改革に向けましょうよ。
ほんと、頼むからこれ以上わけの分からない金の使い方するのはやめて!
と、最後は哀願調で絶叫したくなるのであった。

神楽坂の喫茶店にて
●ある一角(神楽坂の喫茶店にて)
(c) Takuki Y. http://takuki.com

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