たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年2月25日執筆  2005年3月1日掲載

金の話はつまらん

大滝秀治と岸部一徳が父子役で出ているテレビCMで、何か言おうとする息子に父親(大滝)が突然「つまらん! おまえの話はつまらん!」と怒鳴る、というのがあった。何のCMだか覚えていないが、そのシーンだけは秀逸で記憶に残っている(といっても、ごく最近のCMだけれど)。
このところ毎日テレビに出てくるライブドアの堀江社長を見ていると、あの大滝秀治の一喝を思い出す。
「つまらん! おまえの話はつまらん!」

シナジーだのなんだのと、よく分からない言葉を並べているけれど、要するにそれってお金の話でしょ? 儲かるかどうかって話でしょ? そのための理由づけをもっともらしくやろうとしても、「つまらん!」としか感じないのだ。

テレビもラジオも、今はせいぜい番組のホームページを作っている程度だが、我々と組めば、物販や双方向通信など、面白い展開がいろいろできる……っていうようなことを堀江社長は繰り返し言っている。
つまらん!
もしかしたら面白くもなりえるのに、お金のことしか考えていない人が言うと本当につまらなく聞こえるから不思議だ。

いや、実際、つまらんのだ。彼が言っていることは。

例えばテレビドラマも、作るだけじゃなく、視聴者が参加できるシステムができれば、ストーリーが視聴者の反応次第でどんどん変わっていくようなダイナミックなものになりうる……って、なんだそりゃ。
つまらん!
IT会社の入社試験でそんなつまらんことしか言えない若者がいたら、即、
「つまらん! 不採用!」
だな(はい、わたしゃ社長じゃありませんから言えませんが)。

デジタル放送のメリットのひとつと言われる「双方向性」の正体が、せいぜいクイズ番組への疑似参加とかアンケート結果のリアルタイム表示程度のことであることに、もうみんな気づいている。そんなにありがたいものですか、それって。
悪貨は良貨を駆逐する現象がメディアに入ってきたからこそ、つまらんドラマが増え、骨のないドキュメンタリーもどきが増えたのではないか。
いくら道具を揃えても、作る人間に才能と根性がなければ面白い文化は生まれてこない。何がうけるかなんて考えていたら面白いものなんて作れるわけがない。まず自分が面白くなければ他人は動かせない。
現在のデジタル衛星放送を見ればよく分かる。あれだけチャンネルがあっても、くだらない地上波番組を超えるユニークな独自番組ひとつ作れないのだ。ジャパネットたかたの社長がいちばん優秀なエンターテイナーだなんて、情けなさすぎる。

今のライブドアくらいの資金があれば、CSのチャンネルを1つ買って、低予算で面白い番組を作りだすことくらい簡単だろう。「池袋演芸場完全中継チャンネル」とか、「衛星で2ちゃんねるアゲ!」とかは楽勝だろうし、もうちょっとお金出せば「帰ってきたスネークマンショー」とか「マニアックでごめんねイギリスお笑いチャンネル」(「モンティパイソン全部見せます」)とか、「ネタ以外禁止!365日W1(笑いがいちばん)グランプリ」とか、ニッポン放送株を買うよりはるかに安い投資で、低調なメディアに殴り込みを仕掛けることはできるはずだ。
そうしたゲリラ戦で勝利を重ねたら、次は思いっきり高品質なドラマ作りに挑む。大河ドラマ「憤怒の星──アテルイと田村麻呂」とか「ライブドア日曜ドストエフスキー劇場」とか。
でも、ライブドアは、そんな面倒なことはやらない。面白い番組を作るのは手間がかかって儲からない。それよりも、面白い番組を作れる会社を傘下に抱えればいい、という発想だからだ。

ライブドアが、何かひとつでも「文化」として評価できる行動を起こし、その苦しみと成果の上でメディア進出を図るというなら分かる。でも、そうじゃないもんね。
昨年のプロ野球再編騒動のときは、相手に滅茶苦茶分かりやすい超悪役がいたし、誰が見ても理不尽な権力行使の図式があったから、そこに入ってきた堀江社長は自動的にいい役回りになった。でも、今は、「お金vsお金」の対決を見せられるだけで、ひたすら胃がもたれる。
堀江社長が今「旬」なのは、お金にしか興味がありませんという分かりやすいキャラクターとして遊ばれているからだろう。いくら熱弁をふるっても、お金の話以外、何も見えてこない。俺は誰がなんと言おうと野球が好きなんだ、相撲が好きなんだ、エンターテインメント産業が好きなんだ……というオーラを発していない。見ている我々には、この人は本当にお金が好きなんだなぁ、ということだけが伝わってくる(その点では確かに「本物」なのだろう)。

「おまえの話はつまらん!」と一喝できる傑物にはお金は集まらないらしい。つまらん人間にばかりお金は集まるのね。
面白い世の中にするにはお金も必要。でも、お金のおかげでつまらない世の中になっていくスピードのほうがずっと速い。
誰か言ってくれ。
つまらん! こんなマネーゲームをいつまで「番組」として続けるのか、と。


(c) Takuki Y. http://takuki.com
神楽坂・毘沙門天の虎
●ストロボをたいてはいけません!
(神楽坂・毘沙門天の虎 伝・嘉永元=1848年建立)



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