たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年3月11日執筆  2005年3月15日掲載

温暖化が先か炭酸ガスが先か

(2005/3/11執筆)
京都議定書が発効した、というニュースが少し前に流れていた。
京都議定書がらみのニュースは、ほとんどが「アメリカが批准しないのはけしからん」という論調で、その他の視点はあまり提示されていない気がする。
例えば、以下のような論旨は、もはやあまりに明々白々のことであって、議論の余地などないという感じになっている。


●炭酸ガスが増えると地球が温暖化する→地球が温暖化すると困る


実はこの「大前提」部分に疑問を投げかける学者もいるのだが、メディアでは無視されている。そこで、この「前提がそもそも違うのではないか」という「少数」意見を、今回はあえて紹介してみたい。

まず、「炭酸ガスが増えると地球が温暖化する」という部分だが、そうではなく、「地球が暖かくなると炭酸ガスが増える」のだ、という説がある。
ハワイ・マウナロア観測所で長年大気中の炭酸ガス量を観測しているC.D.Keelingらの報告によれば、地球の気温が上がった半年から1年後に、それに追随する形で大気中の炭酸ガス量が増えているという。気温と炭酸ガス量のグラフを重ね合わせると、きれいに炭酸ガス量の変化グラフが気温の変化グラフより一拍遅れて重なる。
北極圏の気温の変化を記録したデータを検証しても、気温上昇は単純に太陽光の照射量に関係しており、気温が上昇すればやはり一拍遅れて、炭酸ガス量が増える。

こうしたデータを根拠に、槌田敦名城大教授(環境経済論、元理化学研究所研究員)は、「炭酸ガス量が増えるから気温が上がる」のではなく「気温が上がると炭酸ガス量が増える」のだと主張している
気温の変化は炭酸ガス量などで決定されるのではなく、主に太陽活動の変化、地球の受光能の変化によって影響を受けていて、気温が上がれば海面温度も上昇し、海から炭酸ガスが供給され、大気中の炭酸ガス量も増えるという論だ。

「地球の受光能」というのは分かりにくいが、例えば、大規模な火山の噴火があると、成層圏が埃に覆われて地表に届く太陽光が減る。そうなると気温は下がる。実際、ピナツボ火山の噴火があった1991年以降2年間は気温の上昇がなく、その間の大気中の炭酸ガス量はそれまでよりずっと減っている。
また、炭酸ガスは確かに温暖化効果ガスではあるが、温暖化ガスの筆頭は水蒸気であり、炭酸ガスの影響よりずっと大きい。

次に、「地球が温暖化すると困る」の部分。
槌田教授はこれもおかしいという。
炭酸ガスが温暖効果ガスであることは間違いないが、それによって地球の平均気温がどれくらい上がるのかといったら、上限でも2度程度であろう。その程度の「温暖化」は地球の歴史の中で過去何度もあったこと。しかも、そうした温暖の時代には文化文明が栄えていた。温暖化して海面が上昇して南海の島が沈むなどというのも根拠のない話で、気温の上昇による海面上昇が仮にあったとしてもせいぜい数センチ。大地震による津波のような惨劇が起きるかのように喧伝するのはでたらめである。
極地の氷が一部溶けたとしても、極地がいきなり零度以上になるわけではなく、むしろ大気中の水蒸気が増えてそれが極地に流れ込めば氷になる分、海水は逆に減るのではないかとさえいう。(冷凍庫の温度が上がれば、中の氷が溶けるよりも霜がついて冷凍庫中が氷だらけになる現象を考えると分かりやすいかもしれない)
特に、炭酸ガスが温室効果ガスとして働くのは、寒帯や温帯地域の冬に放射冷却が起き、水蒸気が少なくなったときのこと。寒い地域で冬暖かくなるのであれば、それはいいことであって、むしろ寒冷化のほうが農作物の収穫が激減するのでよほど問題だ、という。

では、なぜ世界中で温暖化温暖化と大騒ぎしているのか。
以前は、原発推進のための口実(原発は炭酸ガスを出さないから環境に優しいという論)として利用されたが、世界的に原発がもはや衰退方向に向かっている今は、別の理由があると槌田教授は指摘する。
ズバリ「炭酸ガス排出権売買」というニュービジネスへの思惑が背景にあるというのだ。

京都議定書(2001年)では、炭酸ガスの排出量基準を前年の2000年とせずに10年前の1990年とした。これによって得をした国の代表はドイツで、損をしたのは日本だという。
1990年当時、東ドイツの電力は効率の悪い石炭火力発電が主力で、大量の炭酸ガスを排出していた。一方、日本は1990年には火力発電を石油中心に切り替えていて、石炭火力をしていた国に比べれば炭酸ガス排出量が少ない。ドイツはその後、発電所を天然ガス主力に切り替えており、1990年を基準にすれば基準はもうクリアしている。
こうして1990年時点で環境対策をしていなかった国のほうが余分に排出権を得て、余った排出権を足りない国(日本など)に売って儲けることができる。
また、それで足りなくなっても、途上国から「炭酸ガス排出権」を買うことで、途上国への経済支配力を強めることができる。

つまり「炭酸ガス排出権」というのは、企業活動の抑制に働く面よりも、「そこまでは排出してよい権利」として意識され、売買されることにより、本来ありえないビジネスを新たに生んだだけなのではないか、という見方である。

炭酸ガス排出は、確かに企業の生産活動のバロメータにはなる。やみくもに物を作りすぎ、大量のゴミを捨てることが地球環境を圧迫していることは間違いない。どこかで歯止めをかけなければならないことは確かだ。
しかし、それならば「排出権」などという怪しげなものではなく、環境に対する負荷を問題にし、それを軽減するための技術水準や生産量上限を定めて国や企業が努力すべきだ、と槌田氏は主張する。
事実、ドイツは、自国の水質汚染対策では、技術水準をもとにした課徴金方式でコントロールしようとして成功しているという。

炭酸ガスは本当に地球温暖化の有力原因なのか? 仮に地球が多少温暖化したとして、それは悪いことなのか?
WEB上を検索するまでもなく、こうした議論は以前から環境保護派を自認する人たちの間でも侃々諤々交わされていた。
槌田氏は『環境保護運動はどこが間違っているのか』などの著書で、今まで何度も「環境派」の人々から目の敵にされてきた。この文章を読んでいるかたの中にも、槌田氏の名前を目にしただけでカリカリする人がいるかもしれない。
C.D.Keelingのデータにしても、炭酸ガスこそ温暖化の原因とする学者の論拠にも利用されていて、この議論は判断が難しい。
しかし、槌田氏のいう、
「人間による地球気候への影響について、もっとも考慮すべきは、炭酸ガスではなく、大気汚染である」
「文明批判が目的であれば、結果として発生する炭酸ガスを論ずるのではなく、石油など資源の大量使用を直接論ずるべきである」
「最大の環境問題は、農地と森林の喪失である。この原因は、過剰農業、過剰放牧、過剰伐採といわれているが、そもそもなぜ過剰になるのか、ということの議論が欠けては、対応できるわけがない」
といった主張は、まったくその通りだと思う。

上の主張を端的に言い換えれば、
「大気汚染問題をもっと真剣に考えろ」
「石油などの資源の大量消費をやめろ」
「農地と森林を守れ」
ということである。この主張に反対する「環境派」はいないはずだ。
それなのに、どこかで議論がすれ違っている。なぜ?
炭酸ガス温暖化説によって、何か重要なことがすり替えられているのではないか。何か見られてはまずいものから目をそらされているのではないか。
一度くらいはそう考えてみてもいいだろう。

もともと炭酸ガス(二酸化炭素)は毒物ではない。空気の一部である。
環境負荷をかける物質を抑制することを本気で考えるなら、未来永劫管理し続けなければいけない核廃棄物という猛毒物をこれからどうするのかとか、環境対策が遅れている国(特に中国)がこれから急速に工業化したときに出てくる大規模な大気汚染、環境破壊をどうするのか、急速に進む森林の喪失を止められるか、といった問題のほうが、ずっと切羽詰まっている。
しかし実際には、世界の大企業、大商社は、未開拓の市場でいかに新しい需要を増やすかに躍起になっている。その姿を見ている限りでは、炭酸ガス排出権という「発明」は、「商売するためにはこの新しい権利書が必要なのよ」という怪しいニュービジネスにしか見えない。

もちろん、京都議定書を持ち出すまでもなく、自国の大量消費社会を継続させるために石油資源を持つ他国に攻め入るアメリカの傍若無人ぶりは厳しく糾弾されるべきだ(それに対して思考停止状態で無条件追随する日本政府はもっと無責任)。
しかし、そうしたことに腹を立てるあまり、冷静な目を失ってはいけない。あらゆる情報をよほど注意深く見ていないと、知らないうちに、ものすごく無意味な、あるいはむしろ環境負荷を増やす方向で踊らされていた、ということにもなりかねないのではないだろうか。
情報というものは精査しなければいけないし、特に現代のように、情報コントロールが簡単にできる時代では、あたりまえと信じ込んでいることにこそ大きな落とし穴がある。どこかで論理がすり替えられ、情報がいいようにねじ曲げられた結果、よかれと思って突き進んでいた道のゴールがまったく誤っていることはよくある。
目的に対して、本当に正しい手段であるのかどうか。その見極めを誤ると、問題がどんどん悪化することだけは、間違いない。


●阿武隈の雪景色



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