たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年4月21執筆  2005年4月26日掲載

ETC「通勤割引」狂想曲


東名高速・厚木IC、中央自動車道・八王子IC、関越道・東松山IC、東北道・加須IC、常磐道・谷田部IC、中国道・西宮北IC、名神高速・大津IC、西名阪道・天理IC、阪和自動車道・岸和田和泉IC……。
これからゴールデンウィークが始まるが、連休中、もしかしたらこれらのICで変な動きをしているクルマを見かけることがあるかもしれない。
インターをおりたと思ったら、すぐまたUターンして同じICから高速にのる。それが午前6時~9時、あるいは夕方の5時~8時の時間帯だったら、そのクルマはほぼ間違いなく、数百円を節約するために、わざわざ高速道路を一旦途中下車したのだ。

種明かしをしよう。今年1月11日から、ETCの時間帯割引というものが始まった。
深夜割引、早朝夜間割引、通勤割引の3種類。
ざっと説明すると、
●深夜割引
午前0時~早朝4時までの間にETCを使って高速道路を通った場合、料金の全額が30%OFF

●早朝夜間割引
「大都市近郊区間」を含む1回100km以内の連続走行で、午後10時~翌午前6時までに入り口または出口を通過した場合、その100kmまでの区間料金が50%OFF。

●通勤割引
午前6時~9時、または夕方5時~8時までの間に入り口または出口を通過し、100km以内の連続走行の場合、その100km以内の区間の料金が50%OFF。ただし、「大都市近郊区間」は対象外。

この3つのうち、いちばん分かりやすいのは「深夜割引」だ。とにかく、走行が深夜時間帯に少しでもかかっていればOK。距離の制限がないので、長距離移動の場合は特に割引額は大きい。例えば、東名に東京ICからのって、東名、名阪を使って西宮ICまで連続走行した場合、通常は11,150円(536.0km)だが、深夜割引が適用されれば、7,800円となり、3,350円得する。往復すれば6,700円。これは大きい。
これによって、午前0時直前には、ICに近いパーキングエリアで時間調整して、0時過ぎに高速をおりるクルマが増えるはずだ。
上の東京→西宮536kmの例では、東京を明るいうちに出て、はるばる536km走った後、西宮ICを午後11時59分におりてしまったら通常料金なのである。1分遅くして、午前0時過ぎにおりていれば、それだけで3350円得する。となれば、利用者は時間調整しないわけにはいかない。

早朝夜間割引と通勤割引は非常に分かりづらい。
まず「大都市近郊区間」というキーワードが出てくる。
「大都市近郊区間」というのは、東京と大阪近郊の指定区間をさし、具体的には冒頭に列挙した各ICがその境界になっている。つまり、東名であれば、厚木ICから東京側が「大都市近郊区間」だ。
早朝夜間割引では「大都市近郊区間」を含むことが条件で、逆に、通勤割引では「大都市近郊区間」は適用外となる。
また、このふたつの割引は、どちらも1回の連続走行が100kmを超えたらアウト。割引適用外となる。

レジャーの利用などで適用できそうなのは、早朝深夜割引よりむしろ通勤割引のほうだ。
通勤割引といっても、通勤に使っている証明などできるわけではなく、上記の条件を満たせば、お花見だろうが法事だろうが「通勤割引」として自動的に割引を受けられる。
となると、当然次のようなことを考える人が出てくる。
目的地まで一気に走るのではなく、大都市近郊区間の境界であるICで一旦おりてまたすぐにのり、その後100kmまでの通行料金を半額にしよう、と。

小泉さん(仮名、63歳)は、連休を利用して富士山観光ドライブを計画した。東名高速道路を富士ICまで走り、国道139号線で富士宮方面へ。白糸の滝、まかいの牧場、富士ミルクランド、朝霧高原などをめぐる、よくあるドライブコースだ。
何事も合理化がモットーの小泉さんは、当然ETCの時間割引を知っている。そこで考えた。
東京から富士ICまで普通に走れば、通常の高速利用料金3,350円(121.5km)がかかる。
しかし、厚木IC→富士ICまでの区間に通勤割引を適用できれば、その区間の料金は半額になる。
東京エリアの東名方向、大都市近郊区間境界点は厚木ICである。厚木から富士ICは100km以下だから、バッチリ割引適用範囲だ。
そこで、行きは少し早起きして、朝9時の前に厚木ICに到着するようにして、厚木ICで一旦おりてからまたすぐにのる。帰りは夕方5時~8時までの時間帯に富士ICからのって、その後、一気に東京に入らず、一旦厚木ICでおりて、またすぐにのる。こうすれば厚木IC←→富士ICまでの料金は「通勤割引」が適用され自動的に半額になるはずだ。
厚木IC~富士ICの料金は2,400円(86.5km)。これが半額になるので、この区間の料金は1200円。東京~厚木は通常料金1,250円(35.0km)だが、それと足しても2450円で、東京~富士を一気に走るより900円安くなる。往復なら1800円。
かくして、小泉さんは富士山家族旅行において、まんまと「通勤割引」を利用して1800円の節約を成功させた。

しかし、この技?も万能ではない。
東京→富士で往復1800円得をしたことに味をしめた小泉さんは、次に、大阪での法事にクルマで一家5人移動という機会にも同じことを試みてみた。
東京を午前4時前に出れば深夜割引が適用されるので簡単だが、さすがに4時前に東京ICにのるのはきつい。東京を出たのは朝8時。前回の富士山麓ドライブのときと同様、厚木ICを順調に9時直前に一旦おりることに成功。またすぐにのった。
次は、100kmを超えると「通勤割引」はご破算になるので、厚木から100kmぎりぎりの富士ICでまたおりる。前回同様、2,400円(86.5km)分が半額になり、この区間の料金は1200円だ。
再び東名にのって大阪をめざすが、途中、何度も休憩をしたので、関西エリアに近づいたときは午後もかなり遅くなっていた。お、ラッキー。夕方の時間帯の通勤割引もいただきだぜ。小泉さんは思わずほくそ笑む。
名神高速での大阪圏の「大都市近郊区間」の境界は大津ICである。そこから100km手前ぎりぎりのICは大垣IC。大垣ICに近づいたときは、すでに午後5時を過ぎていたので一旦ここでおり、またすぐにのった。
次に、大阪エリアでの大都市近郊区間境界である大津ICでおり、またすぐにのる。
大垣IC→大津ICは2,750円(99.4km)だが、ここは今の一旦おりてのる裏技で「通勤割引」が適用されるので半額の1400円(50円以下の端数は24捨25入)になる。
やったね。1日のうち、朝と夕方、バッチリ2回も通勤割引適用しちゃったもんね。
小泉さんは得意満面で同乗している家族に説明した。

でも、それを聞いていた息子の孝太郎くんが首をかしげながら電卓を取り出して計算を始めた。
東京→厚木は通常料金の1,250円(35.0km)
厚木→富士は通常2,400円(86.5km)のところ、半額の1200円
富士IC→大垣IC間は通常料金なので、5,650円(253.4km)
大垣IC→大津ICは通常2750円(99.4km)のところを半額で1400円
大津IC→西宮ICは通常の2,050円(61.7km)

合計は、1250円+1200円+5650円+1400円+2050円=11550円。

「……あれぇ? オヤジよぉ、東京→西宮って、普通に走っても11,150円(536.0km)じゃなかったっけ? もしかして、まったく同じですからぁ~~~、残念!」
……そうなのだ。苦労して4回もおりてのってを繰り返したのに、今回はまったく得をしていない。おりてのっての繰り返し分、疲れ損となってしまった。

以上、高速道路での長距離移動に「通勤割引」を適用させて得をするのは、計算する手間と時間を考えれば、なんだかなあ、というお話でありました。
通勤割引は、100km未満にしか適用されないから、得をしてもせいぜい数百円どまり。
僕が常に利用する常磐道のルートで試算したところ、下りで250円、上りで300円の得にはなったが、途中のICで一旦おりてのるという馬鹿らしい行動の代償としては微妙な額である。でも、深夜割引は1450円得するので、これはやってみるつもり。
……と、これを書いて編集部に送信したら、僕も連休モードに突入。目的地のICを深夜0時ちょっとすぎにおりるように逆算して東京脱出だっ。
みなさま、楽しいゴールデンウィークを!


●刺身定食 980円!
(常磐自動車道上り線四ツ倉PAの食堂にて)


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