たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年5月27日執筆  2005年5月31日掲載

ブランド信仰とOEM

少し前、サンヨーの2004年度デジカメ出荷台数が目標の1800万台を大きく下回って1100万台と落ち込んだ、という新聞記事を読んだ。
この記事を読んで「ん?」と思った人は少なくないはず。サンヨーって、1000万台以上デジカメ作っていたの? と

そもそも、つい5年前の2000年、全世界のデジタルカメラ市場は約850万台だった。それが翌2001年で1800万台強へと急増し、デジカメ時代到来なんて騒がれていた。5年前なら世界中のデジカメをサンヨー1社で作っているような数字である。しかし、サンヨーが1000万台以上のデジカメを作っていることは事実だ。

サンヨーのデジカメは95%がOEMで、自社ブランド以外の製品として世に出ていく。
今さらながらの用語解説だが、OEMとはOriginal Equipment Manufacturingの略で、自社以外のブランドで製品を製造し、供給すること。家電製品や自動車など、ほとんどの工業製品ではもはや常識になっている。

かつて、SONYがHi-8規格のビデオカメラを出したとき、OEMでフジ、京セラ、リコーにもまったく同じモデルを供給していた。(レンズ部分は逆に京セラあたりから提供されていたかもしれない)
まったく同じものなのに、店頭価格はSONY以外の3社のブランドのものは数千円安かった。少しでも節約したい僕はリコーブランドのモデルを買った。思えば、あのときがOEMというものを強く意識した最初だったかもしれない。

OEMはデジカメの世界でもたくさん行われているのだが、もっと複雑怪奇なことになっている。また、有名なカメラ専業メーカーが家電メーカーからOEM提供を受けていたり、他社のレンズを使っていたりするから、自社ブランドのイメージを損なわないようにするため、OEMの内容がほとんど明かされていない。そのへんが自動車などのOEMとはかなり事情が違うようだ。
例えば、某S社(デジカメのCCDを作っている最大手で、自社ブランドでデジカメも出している家電メーカー)では、高級機のレンズには某ドイツの有名レンズメーカーのブランド名を冠しているが、似たようなスペックのレンズでも、型番が古いほうはペンタックス製で新しいほうはタムロン製、などという噂がある。別にどこ製であってもきれいに写るレンズであればそれでいいのだが、「うちはレンズにはこだわってます」という姿勢を示すためにドイツの有名レンズメーカーのブランド名を使っているようだ。
日本国内のカメラ専業メーカーでさえ、自社ブランドの交換レンズの一部はタムロン製であるという噂がある。
内容を明かされていない以上、はっきりしたことも書けないわけだが、大雑把に言えば、サンヨーとかコシナとかタムロンといったメーカーは、一般に思われているよりずっと「一流」で「大したもの」だってことなのだ。
そういえば、貧乏だった20代、ディスカウントショップで数千円で売られていたコシナ製のコンパクトカメラを長い間使っていた。デザインなんてあったものじゃない、ただの箱。操作感もひどかったが、撮れる写真が実によかった。
38mm/F2.7固定焦点のレンズにはCOSINONと記されていた。それまではコシナなんていうメーカーを聞いたことがなかったが、この不細工なカメラで撮れるきれいな写真のおかげで、すっかりこのメーカーへ信頼を置いてしまった。
しかし、もしコシナがキヤノンやニコンのような日本を代表するカメラブランドに成長していたら、今頃は逆に別のレンズメーカーからレンズを供給され、そこに「コシナ」の名前を刻んでいるのかもしれない。
まあ、そんなものなのだなあ。

デジカメの世界では、OEMはほとんど、ブランド力のないメーカーがブランド力のあるメーカーに製品を提供することになる。ライカやコンタックスが、サンヨーやカシオに製品を提供するということは、まずない。
さらには、メーカーによってCCDやレンズなどの得意分野が違うため、パーツやアッセンブリーユニットの供給(これはOEMとは言わないが)にまで広げれば、実に複雑怪奇なことになる。
ネット上でも、そうした話題はよく取り上げられていて「ええ~! C社のXXXはT社が作ってるの?」なんて話が飛び交う

レンズに関しては特に話がやっかいで、同じレンズが、P社ではライカになり、S社ではカールツァイスになったり、T社ではC社製になったりもする。そのC社製というレンズが、実は別のレンズ専門メーカーの製品だったり、そのレンズ専門メーカーのレンズとS社製CCDを組み合わせたユニットがあちこちに供給され、別のデジカメに仕上がったり……。

カメラの命はレンズである。デジカメも光の入り口部分はアナログだから、レンズの質が最終的な性能に大きく関係する。カメラの歴史の中で築きあげられてきたブランド力は、もちろんデジカメの世界でも根強く生きていて、コンタックス、ライカ、カールツァイスといったブランド名が使えるだけで売れ方が違ったりする。値段の付け方も強気になれる。

で、何を言いたいかというと、ブランド名を冠したOEMはけしからんとか、そういうことではない。ユーザー側が賢くなるしかないでしょ、ということだ。使ってみて、よければいいのである。
ブランドの魔力については、現代ではどんどん正体が怪しくなってきているが、少なくともカタログ値から読み取れる情報はたくさんある。F3.5-5.6というズームレンズがセット販売でくっついてくるデジタル一眼レフを買っても、そのままではフラッシュなしで室内撮影することさえ難しい。これはもう、カメラを知っている人なら分かることだ。

「ようやく10万円を切ったので、念願のデジタル一眼レフを買ったんだけど、うちの赤ん坊の写真、ほとんど赤目になっちゃうんだよね。なにがまずいんだろう?」
……こんな会話を耳にするたびに、う~~~~む、と唸ってしまうのである。
それってブランド信仰同様の「一眼レフ」信仰ではないのかしら。(フラッシュたいて人物を撮れば、テカテカになるのはコンパクトデジカメでもデジタル一眼でも同じこと)

よい製品はよいユーザーが育てる。でも、趣味なんだから楽しければいいじゃんって言われると返す言葉がない。
趣味の世界って、難しい。その難しい世界での商売の仕方となると、また別の難しさがある……のは分かるけど、今のようなデジカメ商戦は嫌だぁ。
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●懐かしいコシナの「コンパクト」ではないコンパクトカメラ
(携帯電話と比べるといかにコンパクトでないか分かる。でも、まだ動くよ)
(c) Takuki Y. http://takuki.com

コシナのカメラ

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