たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年6月17日執筆  2005年6月21日掲載

勝ち組・負け組の論理

 6月16日付のasahi.com地方政治欄に、「助役答弁『町長選負け組みは入札遠慮を』 青森・東北町」という記事が掲載されていた。
青森県東北町の助役が、町議会予算審査特別委員会において、町長選で敗れた候補を支援した土建業者について「1年間は(町発注工事の入札を)遠慮するのが筋でしょう」と発言したことが波紋を呼んでいるという記事だ。

 この短い記事内容の中には、実に多くの問題が含まれている。
1)首長選において特定の候補者を業者が支援しているという事実
2)首長選の結果は、即、公共事業受注に影響して当然とされている事実
3)そのことを自治体上層部が認めているという事実

実はこうした実態は東北町に限ったことではなく、全国津々浦々で昔も今も「当然のこと」のように行われている。
上記の3つの事実にさらに付け加えるなら、
4)こうした官民癒着構造を、住民(選挙民)の多くが半ば当然(あるいは「仕方のない」)ことのように受け止めている事実
5)その結果、「勝ち組」首長や議員はその癒着構造ゆえに何度も再選されうるし、果ては批判をあびるどころか、叙勲までされるという事実

普通の感覚では考えられないことだが、地方自治体によっては、選挙の際、選挙公報をまったく出さない。メインの選挙運動はラウドスピーカーによる名前の連呼と札束付きの戸別訪問。
そんな土壌では、助役が「あんたら負け組には入札する権利なんてないよ」と平然と言ってのけたとしても、不思議ではない。
まさに「この程度の民にしてこの程度のリーダー」なのだ。

ところで、最近、再び発覚した鋼鉄橋梁工事談合には、一種この裏返しのような構図がうかがえる。事件になったから当事者たちは頭を下げているが、決して悪いことをしたなどとは思っていない。くだらない図式の中で働かねばならない自分の運命を呪うことはあったとしても、現場を知っている人間ならみんな「今さらなんだよ」と思っているだろう。

公共工事の予定額は、事前に建築士などに依頼して見積額を秘密裏に出させ、それを元に決めている。予定額から大きくかけ離れて高い金額を入札した業者は、次からは入札指定業者から外されることもある。それを恐れ、業者は談合し、共存共栄をはかる。つまり、談合は、勝ち組・負け組を生じさせないようにしようという業界内の「発明」であり、「構造改革」なのだ。また、当然、行政内部から予定価格が漏れてこなければスムーズな「談合」は難しい。

談合ができるほど大きな業者であれば、実際の仕事はほとんど下請けに出している。
下請けはさらに孫請けに発注している。そうなると、最初の見積額が正当なものであればあるほど、下請け、孫請け業者は厳しい額で工事をしなければならない。
受注したゼネコンは、「談合」の部分こそ自分たちの仕事だと思っているかもしれない。

こうしたことを考えていくと、公共事業の発注では、むしろきちんと「勝ち組・負け組」が生じなければならない。また、勝ち組・負け組と発注元である自治体は、完全に無縁でなければならない。
自治体の首長と縁故のある業者は入札権がない、というくらいの厳しいルールでも定めなければ、問題の根本解決にはならないだろうが、小さな村レベルではそれも難しい。
いっそ、建築士や企業診断士のOBなどが集まり、自治体とは何の利害関係もない、業者選定のための第三者機関を作ったらどうか。全国的に公共工事そのものの必要性指数、実施したときの適正価格情報などを公開した上で、入札管理も請け負うのだ。その経過はすべてネット上に公開され、住民の監視の下に行われる。第三者機関の提言を無視して、不自然な発注があれば、一目で分かるようになる。

ところで、最近いちばん目立つ「勝ち組・負け組」の構図は、国連の新常任理事国問題だろう。イラク戦争でアメリカに媚びた国が勝ち組、同調しなかった国が負け組なのだそうだ。(もっとも、アメリカに媚びた日本が「勝ち組」とは到底言えないし、実際「勝ち」そうもないが。)
そもそもアメリカは、国連決議を無視して戦争を仕掛けたわけで、そんな国によって国連の構造が決定されるとしたら、これほど悲惨な「勝ち組・負け組論理」はない。


●花と蠅(2005年6月4日 選挙公報のない某村にて)
DiMAGE A200、1/320秒、F3.5、f=50mm(35mm換算200mm)、マクロモード

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