たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年8月19日執筆  2005年8月25日掲載

芝居仕立て選挙の恐怖

告示後(選挙期間中)だと書けないこともあるので、今のうちに今度の衆院選挙のことを少し書いてみたい。

メディアの報道、特にテレビを見ていると、今度の選挙は完全にドラマ仕立て、田舎芝居仕立てにされてしまった感がある。
出し物は、将軍と守旧派殿様集団の戦い。
将軍の言い分は、この国を守るには、権力者たちが甘い汁を吸える構造を一旦壊し、民に開放するしかない、というもの。
領地を減らされそうな殿様たちは、将軍を引きずり下ろそうとするが、将軍は民草に人気があり、演説もうまい。
自分の政策が間違っておらず、民草にも支持されていることを守旧派殿様たちに思い知らせるため、民草に投票をさせることにした。
自分に刃向かった殿様の領地には、民草の人気を得られそうな「刺客」(主に美人くノ一軍団)を送り込んだ。このことが、芝居仕立てにされ、面白おかしく伝えられているため、今や国中が劇場化してしまった。

この国の民草は芝居が大好きで、ドラマチックな筋書きや情緒的なストーリーに動かされる。かつて、パッとしない将軍が戦の前に急死したときなどは、同情票と呼ばれる供物が幕府に大量に届けられた。
今度の戦はなかなか筋書きが読めない。それ故に、普段は芝居小屋に足を運ばない民草も、興味津々で結末を見守っている。
しかし、はっきりしているのは、芝居の主役は将軍と将軍に刃向かった殿様たち、そして将軍が放った刺客たちであり、その他の出演者は完全な脇役、下手をするとエキストラにされてしまっているということだ。

芝居に目を奪われているうちに何が起きているのか。この戦が終わった後に何が残るのか。
民草はそこまで考えが及ばない。
後に、あのときのバカ騒ぎがこの国にとって命取りだったと知ることになるのかもしれない。

ところで、忘れてはいけないことがひとつある。
この「芝居好き」の国に目を向けているのはこの国の民草だけではない。
スペインの首都マドリードで列車爆破テロが起きたのは国政選挙の3日前だった。
国民の総意を無視してアメリカのイラク攻撃に対して即座に支持表明し、派兵したアスナール政権は、このテロの影響で選挙で大敗、退陣した。
日本の現首相も、アメリカのイラク攻撃をまっ先に支援表明し、イラクに自衛隊を送った。
今度の選挙は、その首相が「自分の政策は間違っていない」ことを国民に確かめる選挙である、と位置づけられている。

東京で無差別テロが起きるとどういうことになるかは、地下鉄サリン事件のときである程度分かっている。
今から選挙投票日まで、東京を特別警戒するだけのゆとりが、為政者たちにあるだろうか。彼らはみな選挙区に戻っている。
無差別殺人仕掛け人たちにとって、これほどの好機はない。
殿様たちが自分たちの保身に躍起になっている間も、役人たちがしっかりと自分の部署を守ってくれることを祈りたい。

奇しくも、今度の選挙は「9・11」である。

(05/10/01 追記)
幸いにもこの予感は当たらず、衆院選前にテロは起きなかった。その後、「テロは米国の謀略である」という陰謀説にほんの少しだけ傾きかけた。米国政府にとっては、なにがなんでもこの時期に日本でテロが起きてはまずいだろうから。
あるいは、テロリストたちにとって、日本は「相手にするのもばからしい国」なのかもしれない。それはそれでとても好都合。この先もずっと相手にしないでいてほしいものである。

●蚊取り線香入れ


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