たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年9月16日執筆  2005年9月20日掲載

日本を諦める?

今回の衆院選は、なんだかもう、何も論評したくないほど、とんでもない結果になった。
しかし、この国に住み続けるしかない身としては、どんなにひどい現実を前にしても、問題を探り、考え続けるしかない。ふうう。

今回の選挙が浮き彫りにした問題点はたくさんあるが、2つ取り上げてみる。

1)今の選挙制度を続ける限り、議員の資質とは関係なく、政党のトップが思うままに議員を誕生させられるという危険性

2)「政党を選ぶ選挙=政策論争」が進むのではなく、個人のカリスマ性やメディア戦略によって、数の力を得られることを実証してしまった。その結果、政治の衆愚はますます加速するという危険性

まず、1)の問題。
比例区を見てみると、民主党や社民党は、選挙区の立候補者を同一順位で並べるという方法がメインで、「比例区は選挙区のすべり止め」の役割と考えている。比例区での復活当選は選挙区での惜敗率で決まるから、国民の投票結果が候補者の当落に結びつく。これはある意味「民主的」と言えるだろう。
一方、公明党と共産党は名簿順位を完全に決めている。つまり、選挙をやる前から、上位順位の候補者は事実上当選している。党が名簿を提出した時点で、選挙の結果に関係なく何人かは議員になれるわけだ。
これははたして民主的な選挙といえるのだろうか。

今回、自民党は比例区において、極めてえげつないことをやってのけた。
郵政民営化法案に反対した自民党議員が無所属で立候補した選挙区にはすべて「刺客」と呼ばれる候補を送り込んだことは、さんざん報道されたから今さら説明する必要はないだろう。問題は、これら「刺客」候補者はすべて特待扱いにして、比例区の重複立候補において、他の選挙区の候補者より順位を上にしたのだ。自民党比例区で1位や2位を与えれば、その時点で事実上当選は決まっている。
例えば、北海道比例区。


1位   飯島夕雁 新 [北海道10区重複]
2位   今津 寛 前
以下3位候補者が11人、14位が1人、15位が1人。



単独1位候補者の飯島夕雁氏は、名簿登載時点で事実上当選である。
彼が立っている北海道10区には、郵政民営化法案に反対票を入れた山下貴史氏が無所属で立った。
結果、当選は民主党の小平忠正氏で109,422票。山下氏は78,604票で次点落選。飯島夕雁氏は62,100票で3位だった。

同じことが、郵政民営化法案に反対票を入れた議員が立候補する選挙区でことごとく行われた。
メディアが「刺客」だの「くノ一軍団」だのと面白おかしく報道した候補者たちはみんな、選挙の結果に関係なく、「刺客」として選ばれた時点で衆議院議員としての身分を保障されたのである。

分かりやすいのは比例区東海ブロック。


1位  片山さつき  46  元財務省課長   新  [静岡7区]
1位  藤野真紀子  55  料理研究家    新  [愛知4区]
1位  佐藤ゆかり  44  外資証券会社員  新  [岐阜1区]
4位  平田 耕一  56  経済産業政務官  前  [三重3区]
5位  倉田 雅年  66  財務政務官    前  [静岡6区]
(以下、重複立候補の6位候補者が27人ずらっと並び、33、34、35、36位に「予備駒」的候補者として、党の職員がひとりずつ入っている)



1位に並んだ3人の女性たちについては、今さら説明するまでもないだろう。選挙前、彼女たちの映像がどれだけテレビ画面を独占し続けたことか。この3人は1位候補者となることで、選挙前から議員の資格を与えられた。27人の6位候補者たちとはまったく違う立場にいたのである。
4位の平田氏が立つ三重3区は、民主党代表・岡田克也氏の選挙区。
5位の倉田氏までがいわば「特別扱い」で、事実上の「選挙結果に関係なく議員になれる」特権を党から与えられていた。
実際には、片山さつき氏は選挙区で勝利したのだが、これは党本部も予想していなかった結果だろう。

東京比例区では、
1位 猪口 邦子  53  上智大教授  新
2位 土屋 正忠  63  都市長会顧問 新 [選:東京18区]
(以下、3位候補者が23人続く)



という構成だった。
2位の土屋氏が立つ東京18区は、民主党の前代表・菅直人氏の選挙区。勝ち目がないと踏んでの単独2位の名簿登載だったのだろうが、結果は菅氏の辛勝で、土屋氏は他の候補者同様3位に登載されていても、楽々復活当選を果たせた。
東京は、選挙区で自民党候補がことごとく勝利したため、比例復活議員がひとりもおらず、

当 1位 猪口邦子
当 2位 土屋正忠
当 26位 愛知和男
当 27位 安井潤一郎
当 28位 若宮健嗣
当 29位 大塚拓
当 30位 清水清一朗

……と、なんと「予備駒」(失礼)として埋めておいた30位候補まで全員が当選。しかも、もうひとり当選できるだけの得票を得た。31位候補者を埋めておかなかったばかりに、自民党はここで1議席損をしたのだが、前代未聞の出来事だ。
この中には、大学の先輩である武部幹事長から「おまえなら、(予備人員として名前を借りても)お疲れさんでしたの一言で済む。選挙運動もしなくていいよ」と頼まれた食料品店経営者もいる。
神奈川県では選挙区で民主党が全滅したため、比例区南関東ブロックでも、29人いる4位の重複立候補者で復活に回ったのは4人だけで、「ネットでたまたま自民党のサイトを見たら候補者の公募をしていたので応募してみた」という26歳の会社員(35位候補)も当選した。(26歳は今回の当選者最年少。公募論文で選ばれたというからには、よほど文章がうまいのかと思ってブログまで読んでしまった。)

これを見ていると、自民党は「比例区」というシステムを、法案採決の際に、党のトップの意志を確実に遂行するためのロボット製造機として使っているのではないかと思える。
今の選挙制度では、党の中で、名簿上位に名前を入れてもらえなければ議員になれない共産党、公明党には、「国民の投票によって選ばれた」と呼べる議員はいないのではないかと、以前から思っていたが、自民党もこうした「党内決定で議員が誕生する」3番目の政党になったと言える。

もうひとつ困ったことは、政治の衆愚化である。
現行の選挙制度では、選挙区で無所属候補が勝つのは非常に難しい。よほどの有名人か「時の人」(今回では「反対派の前自民党議員」や「刺客」)でなければ票を得られない。
そこで、衆議院議員になるためには、政党に所属して公認される必要が出てくるが、今回、「刺客候補」が選挙をする前から事実上議員の身分を約束されたような露骨な「優待」があたりまえになれば、民主主義のための選挙ではなくなってしまう。

また、政治を知らない素人どころか、国民の代表としてふさわしい基本的な知力、理解力、判断力が欠けていても、名前さえ知られていれば票が集められるということも実証されている。
権力者が暴走しようとするとき、それを止められるのは同じ場所にいる政治家である。国民が自分たちの間違いに気づいても、暴走政治を止めるために国会に直接乗り込むことはできない。
自分の頭でしっかり物事を考え、判断し、決断・実行していける「プロの政治家」でなければ、議員として国政の場に送り込む意味がない。
ひとりの権力者が、自分の意のままになる「過半数採決ロボット」を大量に手に入れたとき、どういうことが起きるか。
それはもはや、独裁者国家と変わりがない。むしろ、「民主主義という名の正当化システム」を手に入れた独裁者であるだけタチが悪い。

むろん、こうした危機的状況を招いたことに対しては、民主党の責任も大きい。「二大政党」「政権交代」といいながら、あまりに下手すぎる選挙戦を展開した。PR会社へ丸投げしたようなテレビCMにはがっかりさせられたし、自分の言葉で政策を訴える候補者も少なかった。
「日本を諦めない」などという抽象的なスローガンを出してきたとき、すでに勝敗は決まっていたのである。

解散がなければ、次の衆院選まで4年。自民党が「なんでもできる」この4年間で、本当に「日本を諦める」しかないような状況が生まれるのではないかと恐れている。

(c) Takuki Y. http://takuki.com

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