たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2006年6月2日執筆  2006年6月6日掲載

奪う側の論理

今週は「著作権」について、否応なしに考えさせられることが続いた週であった。
和田義彦氏の盗作報道にはびっくりした。あまりにもお粗末で、論評するのもアホらしい。当人の釈明がまた驚くべきものだった。
「比べてみれば違う作品だと分かる」
と言っているそうだが、本当なのだろうか。
「私はポール・マッカートニーより歌も楽器もうまい。私が歌う『Yesterday』とビートルズの演奏を比べてみれば差が分かる」と言っているようなもので、ここまでくると、なんだかひたすら哀れさを感じるだけだ。

かと思うと、朝日新聞土曜版beのIT関連記事をそっくりそのまま掲載しているブログが存在する、という話をbe編集部から知らされて、これまたびっくりした。
すでにブログの場を提供していたライブドアによって削除されているが、タイトルは「パソコンお役立ち情報 by 朝日新聞 @ソフ得、ネッ得」というのである。beに掲載された記事をそのまま掲載しているだけ。
「ブログ運営者の○○です。このブログは朝日新聞へ鐸木能光さん他によって掲載された役立ちソフトの情報です」なんて断り書きまでしてある。もちろん、僕はこのブログのことなどまったく知らず、be編集部から問い合わせがあって初めて知った。
これもすごいな、と思う。
無断転載という概念がこのブログ運営者にはまったくなかったということなのだから。

この「ソフ得!」のネタ探しにはいつも苦労しているのだが、ネタ探しをしている中で、悲惨な例に行き当たったのも今週のことだった。
『Win高速化』という、フリーソフトの世界では『窓の手』と並んで有名なレジストリカスタマイズソフトがあるが、このソフト、一時期、某企業と契約して製品版を出していた。その企業が、作者とのライセンス供与契約期間終了後、契約更新せずに類似製品を出した。IT関連のニュースなどでは「まさに庇を貸して母屋を乗っ取られた図」と評された。
その製品は今なお売られている。作者は傷心と心労で、一時期はこのソフトの開発をやめてしまっていたが、ここにきてようやく少し元気を回復したようだ。

他にも似たような話にはよくぶつかる。
ある印刷会社の社長が、「自分史」を本の形にできるアイデア商品を開発した。中身は「日記」形式で、質問に答えるようにして自分の過去の出来事などを書き込んでいくと、最後には自然と自分史ができあがる。表紙には名前が印刷され、見た目も立派な本になる、というもの。
ところが、某出版社が、このアイデアはもちろん、中身のレイアウトまでコピーした商品を売り出した。「あまりにひどい」と憤っていたが、その後どうなったのだろう。

盗む側と盗まれる側。強盗や空き巣事件であれば、盗んだほうが罪に問われ、罰を受けるのが当然なのだが、ビジネスの世界ではそう簡単ではない。
企業対企業の争いであれば、法的トラブルに対応する力の強いほうが有利にことを運ぶ。これが、企業対個人となれば、個人が泣き寝入りしてしまうことが多くなる。

それゆえ、相手が個人だと分かると、途端に「法的手段に出る」と脅しをかけてくる企業がある。裁判にするぞといえば、相手が個人なら黙って引っ込むと思っているのだ。
僕も何度か経験がある。「どうぞご自由に。問題の所在が明らかになり、広く世間のみなさんがこの問題を考えるきっかけとなるのではないでしょうか」と応じると、すぐに黙ってしまう。

ソフトを作る力やオリジナリティは財産である。その内容が優れていれば、利用したい、所有したい、楽しみたいという人がたくさん現れ、巨大なビジネスになる。

「オリジナルを乗っ取れるかどうか」は、ビジネスゲームのひとつ、という風潮が、今や完全に定着してしまった。
有名な話だが、今日のマイクロソフト社の世界支配は、シアトル・コンピュータ・プロダクツ社のティム・パターソンが開発したQDOSというOSにちょっとだけ手を加えたMS-DOSをIBM社にライセンス供与することから始まった。
QDOSのライセンスをマイクロソフト社はわずか5万ドルで買い取っている。

QDOSは、デジタル・リサーチ社のゲイリー・キルドールが開発した8ビットマイコンの標準OSであるCP/Mをモデルにしている。キルドールは生前、パターソンがCP/Mをパクッたと憤慨していた。
ちなみにQDOSとはQuick and Dirty Operating System の略。なんと皮肉で意味深な名称だろう。

世界一の富豪を誕生させたWindowsの歴史がこんな調子だから、個人が作ったフリーソフトを企業が乗っ取ることなど、ニュースにさえならないのだろうか。

最近「ソフ得!」でも紹介した『マヨヒガ』というゲーム
これなどは、3000円くらいの市販ゲームとして売られていても、感謝しながらプレイするようないい出来だが、無料で配布されている。
作者のサイトの日記を見ると、彼は「朝日新聞」で自分の作品が取り上げられるらしいと知ってから、急遽、ゲームを作り直している。
このゲームはRPGツクール2000というゲーム制作ソフトで作られているため、プレイするにはRPGツクール2000のランタイム(共通プログラム)をインストールしないと動かないのだが、新聞の読者はコンピュータやゲームオタクとは違う人たちが大多数だろうから、この「ランタイムをあらかじめインストールしておく」ということが分からないだろうと判断し、ランタイムなしでも動くように改造してくれていたのだ。
他にも、ゲームマニアなら悩むことのない操作方法なども、分かりやすいように改善してくれていた。
日記の中で彼は「だんだんめんどくなってきた」と告白している。そう言いながらも、より多くの人たちに余計なストレスなく楽しんでもらえるようにゲームを修正してくれていたわけで、そういう気苦労や真面目さに頭が下がる。

こういう例に出くわすと、ついつい自分の境遇と重ね合わせてしまうのだ。
「儲かるわけでもないこと」に膨大なエネルギーと時間を注ぎ込んで、人に創作の楽しさや魅力を届けようとする姿勢。彼は迷惑かもしれないけれど、自分と同じ人種なのかなあと、勝手に想像したりする。

否応なく著作権を考える羽目になった一週間。最後の話題はホリエモン。
僕がtanupack.comというドメインを取得し、自分のWEBサイトを立ち上げた頃、書店で買た参考書に『Webページ制作実践テクニック』(技術評論社、1998)というのがある。これが、今日気がついたのだが、「堀江貴文・著」となっていた。
分厚い本で、タイトル通りの「実践的」なテクニックが詳しく書かれている。当時はまだあまり知られていなかったスタイルシートのことや、サイトを作った後のPRの仕方(サーチエンジンへの登録やメーリングリストの広告宣伝活動への活用など)にも触れている。
当時、「へえ、WEBサイト制作も、プロとしてやるには、ここまで厳しくならなければいけないのね」と感心したものだ。

「他人のページからアイディアを盗む」なんていう項目があったり、「コラボレーション体制の確立」という項目では、共同作業の進め方を具体的に組織図や分担方法の提案をあげながらレクチャーするなど、HTMLの技術解説だけに留まっていないところに、ホリエモンの才覚がかいま見える。
本のタイトルからして「ホームページ」ではなく「WEBページ」と、正しい言葉を使っているところに彼のこだわりが感じられて面白い。
一言で言えば、骨のある「なかなかの本」なのである。

ホリエモンも8年前はこんな本を1冊上梓するほどの技術者であったのだなあ。
WEBクリエイターでは儲からないことを身に染みて分かって、どんどん虚業世界に入っていったのか。それとも、最初から目標は大金持ちになることであって、そのための手段としてのインターネットに興味があり、その過程で「ついでに」ものした一冊なのか。
彼が、金儲けは目的ではなく手段だと理解したとき、面白いことがいっぱいできるはずだ。御巣鷹山に登って、そのへんのことを理解したかしら。
海外に進出して、また株関連をちょこちょこ動かし、再起するなんてことではなく、じっくりいいものを見て、感動する心を取り戻し、今度こそ本物のコンテンツプロバイダーをめざしたらどうか?
ソフトは俺がいくらでも持っているんだがなあ。




●靖国神社の狛犬(昭和41年建立)
京都府の籠(この)神社にある古い狛犬の完全なコピーだが、なぜか石工名だけでなく「作者」名も刻まれている。

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