たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年6月7日執筆  2002年6月11日掲載

本の作り方


5月に「本の本質」というタイトルの文章をこのコーナーに書いた。今回は、本の中身のことではなく、純粋に「モノ」としての「本の作り方」について、具体的な情報を簡単に提供してみたい。

印刷の世界では、目下、活版から写植に変わっていったときと同じような技術変革が起きている。言うまでもなく、DTPの登場だ。
写植は、文字を印画紙に1字1字焼き付けて、それを版下にして印刷フィルムを作る技術だが、今では写植は完全に時代遅れのものになりつつある。それでもまだまだ写植が消えないのは、写植の設備投資が大きすぎて、簡単には捨てられないという印刷所側の事情があるからだ。

また、日本ではDTPが、当初、高価なマッキントッシュのシステムで普及したために、今なお、「DTPはあまり安くない」という印象を持つ人が多い。しかし、これも最近ではかなり変わってきている。

僕が知る限り、いちばん簡単な本の作り方は、印刷所にPDFファイル(Adobe社のAcrobatというソフトで作成したファイル形式)を持ち込み、そこから直接出力してしまうという方法だ。デジタルファイルがそのまま版下になるから、従来、写植を打っていたオペレーターなどは不要になる。
フィルムを作ってオフセット印刷するか、フィルムも作らないでダイレクトに印刷するか(CTP=Computer To Plate という)、オフセット印刷にせず、ドキュテックなどの商用コピー機で印刷するかは、作る部数や内容によって選べばいい。とにかく、入れるデータはPDFファイルでOKなのだ。

PDFファイルを作成するのは簡単だ。ワープロソフトなどで作ったレイアウト済みの文書ファイルを、Acrobat Distiler という印刷ドライバで出力するだけだ。Acrobatをインストールすると、「プリンタ」としてこれが登録されるので、ワープロソフトの「印刷」コマンドから、Acrobat Distilerを選んで「印刷」してやるだけでいい(実際には紙に印刷されるわけではなく、ファイルができあがる)。このときに、「フォントを埋め込む」というオプションで出力するのが大切で、フォントを埋め込んでやれば、たとえ印刷所に同じフォントがなくても、使ったフォントがきちんと再現される。

僕はこの作業に、ワープロは使わず、QXというテキストエディタソフトを使っている。このエディタソフトは、印刷機能が非常に優れていて、ルビ振りや段組などはもちろん、フォントの個別指定などもできる。小説のような、文字情報だけの本を作るなら、ワードや一太郎などは必要ない。ましてや、高価なDTPソフトなどを買う必要はまったくない。
PDFファイルを作成するAcrobatは、実売価格で3万円弱。安いとは言えないかもしれないが、役に立つソフトだから買って損はない。

この方法だと、フォント(文字)は、Windowsが標準形式として採用しているTrue Type Fontというものが使える。True Type Fontは、マックのDTPで使うPost Script Fontよりずっと安いので(ただで入手できるものもたくさんある)、それだけでも圧倒的に有利だ。
印刷関係の人たちの中には、True Type FontはPost Script Fontに比べると品質が劣るから使う気がしないと言う人も多いが、高品位なTrue Type Fontだってあるし、解像度の低い安価なTrue Type Fontを使って印刷したからといって、普通の人たちにはその違いはほとんど分からないだろう。ルーペで文字を拡大して見て、縁がちょっとギザギザしているなどと文句を言う人は、やはり世の中ではごくごく少数派なのだ。

もちろん、画像が入っている本も同じ方法で作れる。画像入りの場合は、さすがにテキストエディタだけでは無理なので、ワードや一太郎などのワープロソフトを使えばよい。DTPのよいところは、どんなに画像の点数が増えても、自分でデータファイルを作る限り、印刷のコストは変わらないことだ。
カラーの写真集なども同様に考えていけばいい。画像中心なので使うソフトは違ってくるだろうが、印刷所にデータで渡せばいいという意味では同じことだ。カラーのオフセット印刷はコストがかかるが、少部数ならば、カラードキュテックを使えば安くできる。

去年、試しに自分で本を作ってみた。内容は小説だが、400字詰め原稿用紙350枚程度の作品を、A5の判型で132ページの並製本(カバーはカラー印刷)にして、ドキュテックで100部作成するのにかかった費用は6万数千円だった。この6万数千円は、印刷代と紙代、製本代で、印刷所にPDFファイルを入れるまでの工程は、表紙のデザインも含めて全部自分で行ったから「ただ」だ。ちなみに、表紙原稿は、イラストレーターやフォトショップなどのデータで渡せばいい。他にもいろいろなソフトの形式に対応しているはずなので、印刷所に確認すること。
もし、表紙のデータ作成に自信がなければ、知り合いでそれらのソフトを使っている人に頼んで、安くデザインしてもらうのも手だろう。あるいは、イラストや写真素材だけ自分で作成して、レイアウトと最終データ作成だけを経験者に頼むという方法もある。

100部という極少部数でも、1冊あたり原価が千円かからないとなれば、自費出版を考えているかたたちには朗報ではないだろうか。
ただ、PDFファイルをデジタル版下として受け入れている印刷所はまだそれほど多くはないようだから、最新デジタル事情を勉強している印刷所を見つけることが先決かもしれない。GOOGLEで、「自費出版 PDF入稿」などという検索語で検索すれば、いくらでもヒットするはずだ。(僕は岡崎市の某印刷所にいつも頼んでいる。早い時期からWindowsのDTPを取り入れている先進的な印刷所だ。本当かどうか知らないが、印刷所は、東海地方と北陸地方が安いという話を聞いたことがある。)

自費出版専門の出版社に全部頼むと、面倒なことを全部やってくれるので楽だろうが、費用はまったく違ってくる。自費出版専門社に頼むメリットは、技術的なことをすべて引き受けてくれるということと、ある程度(あくまでも「可能性」として)販路が用意されているということだろう。ISBNコードが振られると、アマゾンコムなどからも注文できる道が開ける。
「国会図書館にあなたの本が並びます」という殺し文句もよく使われるが、国会図書館には、個人の自費出版物でも、実物を送れば収蔵してくれるはずだ。友人は、十数ページのゲリラ的小冊子を国会図書館に送りつけて、ちゃんと「収蔵報告書」を受け取ったそうだ。

デジタル時代の現代においては、個人がたった一人で本を作ることは難しいことではない。数万円で美しい装幀の本が作れる。
パソコンとつき合う目的を「本を作ること」と据えてみれば、アナログ派の中高年世代でも、意外と楽しく取り組めるかもしれない。

★そのうち、「CDの作り方」というのも書いてみるつもりだ。


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