たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2007年1月5日執筆  2006年1月9日掲載

ライオン戦士ゲディオン

いろいろな理由から、久しぶりに仕事場(川崎市)で新年を迎えた。依然、デジタルストレス極限状態。
元旦はニューイヤー駅伝、2日・3日は箱根駅伝をテレビ観戦。でも、起きるのが昼過ぎだったりするので、テレビを入れたときは、レースは後半戦に突入している。

箱根の「山の神」今井正人も凄かったけれど、上州路のゲディオンはもっと凄かったですね〜。
……と書いても、「なにそれ?」と言う人が多そう。
説明しよう。
日清食品陸上部に去年から加わった20歳の青年、ガトゥニ・ゲディオン選手のことである。

彼を初めてテレビで観たのは昨年11月23日に行われた国際千葉駅伝
これは、マラソンと同じ42.195kmのコースを、5km、10km、5km、10km、5km、7.195kmという、とっても分かりやすく区分した6区間に分けてリレーする。この2区10km区間に、ゲディオンはケニア代表として出場。26分51秒で走った。

ちなみにトラック1万メートルの日本記録はカネボウの高岡寿成が持っていて、27分35秒09。ゲディオンはこれより44秒も速く10kmを走ったことになる。
このレースは最初からケニアチームが独走ブッチ切りで、ゲディオンは別に頑張る必要がなかった。競る相手がいない退屈なレースでこの記録。真面目なのね。
しかし、あまりにも一方的で盛り上がらないレース(6区間中5区間でケニアチームが区間賞。唯一ボロボロだった4区の走者が、世界で二人しかいない「2時間4分台マラソン選手」サミー・コリルだったというのは皮肉)だったために、ゲディオンの快記録も、それほど騒がれることはなかった。

元旦のニューイヤー駅伝では、ゲディオンは3区(11.8km)に登場。
この駅伝の勝負区間は、最長区間の2区(22km)と、2番目に長く、登り坂もある5区(15.9km)なのだが、外国人選手はこの2区と5区には出場できないというルールがある。(どういうもんなのかなあ、このルール>日本実業団陸上競技連合)
ちなみに、日清食品には、ゲディオンの先輩にあたるジュリアス・ギタヒという、これまた速い選手(1万メートル27分11秒17、ハーフマラソン1時間1分33秒)がいるのだが、「外国人選手は一人しか出場できない」というルールのため、ゲディオンがチームに入ってからは駅伝の出番がない。
もし、ギタヒとゲディオンが2区と5区を走っていたら、日清食品はブッチ切りで優勝してしまうから、確かにレース全体としては面白くなくなるのだろうが……。

で、ゲディオンはこの3区11.8kmを30分43秒で走った。
11.8kmを30分43秒ということは、平均速度を割り出すと秒速6.4m。10kmに直すと1562秒だから、なな、なんと、26分2秒なのである。
ちなみにトラック1万メートルの世界記録は、エチオピアのベケレ選手が2005年に出した26分17秒53。ゲディオンはこの世界記録よりも15秒以上も速く10kmを駆け抜けたわけである。

ニューイヤー駅伝の3区は下り勾配なので、平らなトラックをぐるぐる回る1万メートルと同じ条件ではないが、競る相手がいなくてこのタイムなら、競ったら当然もっと速く走っていただろう。それを考えても、やはり驚異的なタイムだ。

元旦のゲディオンは、かつて30度を超す猛暑の1998年のアジア大会(バンコク)マラソンを2時間21分47秒で独走したときの高橋尚子と同じくらいものすごいことをしでかしたのだが、メディアはほとんど注目しなかった。なぜなら、日清食品は、ゲディオンが築いたリードを保てず、ズルズルと後退して3位になってしまったから。
お正月のニュースとしては、尻すぼみというのは扱いにくい。それと、駅伝ではどうしても個人記録には目が向けられないということもあるのだろう。さらには、やはりゲディオンが日本人選手ではないから……なのだろうな。了見が狭いね。

日本にはアフリカから「陸上修行」のために多くの青年がやってくる。
古くは、スーパースター瀬古利彦の陰に隠れるようにしながら、ヱスビー食品で黙々と走っていたダグラス・ワキウリ(1987年世界陸上ローマ大会優勝、1988年ソウル五輪2位)、いつもニコニコ笑っているエリック・ワイナイナ(1996年アトランタ五輪3位、2000年シドニー五輪2位、2004年アテネ五輪7位)などなど、名選手がたくさんいる。モンゴルの力士たちと同様、みんなすぐに日本語はペラペラになる。
こうした、アフリカに生まれて、日本で強くなったランナーたちを、日本人はもっともっと「楽しんで」もいいと思うのだ。

かつて、誰かがこう言っていた。
「それにしても、中山が出ないマラソンはつまらない」
本当にそうだった。中山竹通が引退してからというもの、男子マラソンでワクワクすることは少なくなった。
最後までトップ集団のペースに合わせ、トラックに入ってからラストスパートして優勝するというスタイルの瀬古に比べ、自分のスピードで最初からガンガン飛ばす中山は本当に痛快だった。
今、中山に匹敵するヒーローが日本の陸上界にはいない。
不景気で嫌なことばかりの時代にこそ、文句なく強いヒーローがいてほしい。

ゲディオンは、怪我をしない限り、今年もどんどん快記録を重ね、すぐに世界のトップランナーとして有名になるだろう。そうなってからにわかゲディオンファンになるのはかっこわるい。
今からはやばやとゲディオンにのっかって、これから先、楽しい思いをしようではないか。

ちなみに、ガトゥニという名前は「ライオン」という意味だそうだ。
マサイ族の戦士だった祖父が草原でライオンと格闘して命を落とした。その直後に生まれた孫だから、勇敢に戦って死んだ祖父にちなんで「ライオン」という名前をつけられたとか。
ものすごい話ですね。

ライオン戦士ゲディオン。
なんか、全身が超合金で覆われたロボットみたいでかっこいいじゃないか。
ガトゥニでは呼びにくいから、愛称は「ガッちゃん」(勝手に命名)。
え? あんまり強そうでない?
じゃあ、ヒップホップ風にGG(ジージー)ってのはどうか。……と思ったら……ガトゥニの綴りはNgatunyで、Nで始まるのだった。NGじゃ、まずいもんなあ。残念!
やっぱり「ガッちゃん」でいこう。

Go!Go!ガッちゃん。今年は君の追っかけをやることにしたので、ヨロシク。


白旗神社の狛犬
●ライオンの写真がないので……
(福島県浪江町白旗神社の狛犬)



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