たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年6月23日執筆  2002年6月24日掲載

CDの作り方

前々回、「本の作り方」というのを書いたので、今回は「CDの作り方」について書いてみたい。

音楽CDを作るという場合、中身の音楽を作る作業と、それをCDという製品に加工する作業は別のものとして分けて考えたほうがいいだろう。
音楽CDの中身を作ることを「原盤制作」といい、マスターテープのことを「原盤」という。最近ではテープを使わずに、ハードディスクなどに録音することもあるので、「マスターテープ」という表現も古くなりつつあるかもしれない。

CD以前のレコードの時代、レコード制作費の大半は「原盤制作費」で、スタジオを使って音楽を録音することに大変なお金がかかった。ミュージシャンのギャラやスタジオ代などだが、一般的なポップスの場合で1曲最低100万円くらい。アルバムとなると1000万円単位の原盤制作費がかかった。

今は音楽の創り方が激変してしまい、音楽の種類によっては、個人の部屋でも高品質なレコーディングができる。デジタル技術による機材の低価格化も大きい。
例えば、音に残響(リバーブ効果)をつけるのは、音楽録音の基本的な技だが、かつては「エコールーム」といって、スタジオの地下などに残響を得る空っぽの部屋を作り、そこにスピーカーとマイクを設置してリバーブ効果を得ていた。
コントロールルームから出した音をエコールーム内で再生し、部屋の中で発生する残響をマイクで拾って、元の音に付け加えるのだ。
「○○スタジオのエコールームは弦楽器には最高だね」といった、アナログな会話が、録音技術者の間で交わされたものだ。

しかし、この方法ではあまりにも場所もコストもかかるし、一種類の残響しか得られないので、エコーマシンと呼ばれる残響付加装置が考案され、普及した。鉄板式、スプリング式、テープ式などいろいろあったが、どれもプロ用のものは数十万円から数百万円した。
デジタル技術がこの世界に入ってくると、こうしたエフェクター(音に様々な効果を付加する装置)もデジタルに置き換わった。世界で初めてプロ用のデジタルリバーブ装置を作って発表したのはSONYだったと思うが、最初のモデルは900万円くらいしたと記憶している。今では2万円くらいのデジタルリバーブレーターでも、同じような性能を誇っている。

録音機に関しても、デジタル録音があたりまえになり、マルチチャンネルのハードディスクレコーダーが10万円を切るような価格で売られている今は、アマチュアとプロ機の差がほとんどなくなってしまった。かつて、プロ用の録音環境とアマチュア録音(いわゆる「民生機」を使った自宅録音)では、お話にならないくらいの差があったことを思うと、録音に関しては、完全にデジタル革命が起きたと言えるだろう。

録音のノウハウについては書き出すときりがないので割愛し、次に、録音したものをCDという製品に加工する段階の話をしよう。

僕が音楽CDを最初に作ったのは1994年のことで、自分でCDのプレス工場を探し出し、値段の交渉をして、500枚プレスしてもらった。確か、1枚220円だったと思う。
CDをプレスするには、最初に「スタンパー」という雛型を作る。鯛焼きの型みたいなものだ。大体、スタンパーを作るのに7万円くらいかかる。

このスタンパーを作るための最終的な録音物(マスターテープ)の形式は、かつてはSONYのUマチックという、放送局で使われているプロ用ビデオテープの形式だった。このテープにサンプリング周波数44kHzでダビングしてからスタンパーが作られる。だから、48kHzのDATテープなどで渡した場合は、そのDATテープから変換する作業が必要なため、この作業にさらに3万円くらいの編集費というものを取られた。

今は、CD-Rでマスターを渡す方法が普及している。最初から音楽CDと同じ形式で書き込まれているため、基本的には納品したマスター用CD-R(プリマスターCDという)とまったく同じ品質でCDが作られる。
このプリマスターCD-Rは、普通のCD-Rライターで作れるが、注意しなければいけないのは、「Disk At Once」という方式(1枚のCD-Rに全データを1回で一気に書き込む方式)で記録されていなければならないという点だ。コンピュータ用のデータCDなどは、後からいくらでも追記ができるように「Track At Once」という方式で書き込むことが多いが、この方式では音楽CDのマスターとしては使えない。

このプリマスターも自分で作る場合、録音したものを、一旦、パソコンに取り込んで、Windowsの場合ならWAVというファイル形式に変換し、それをCD-R書き込みソフトで曲順に並べ、Disk At Once 方式でCD-Rに焼けばよい。注意したいのは、パソコンに取り込む際にノイズが入ったり、データエラーが発生したりする事態を極力減らすこと。パソコンに内蔵されているAD/DAコンバータなどは、基本的にはプロのレベルでは使えないと思ったほうがいい。

専用の外部コンバータ(3万円前後)を使ってもいいが、僕はこの変換作業を、業務用CD-Rレコーダー(実売で5万円前後からある)とパソコンの併用で行っている。業務用CD-Rライターで一旦音楽CDフォーマットにしたものを、パソコンの内蔵CD-ROMドライブで読みとり、WAVに変換。そのWAVファイルで前後の空き(無音部分)の長さ調節などをする。それを曲順に並べて、外部CD-Rライターで最終プリマスターに焼き直す、というものだ。

CDを少量プレスする場合、CD工場に直接頼むか、インディーズCD制作を請け負っている会社に頼むかは、ケースバイケースだろう。CD工場に直接頼んだほうが安いはずなのだが、実際には逆であることも少なくない。
また、印刷物をどうするかも大きな問題だ。CDでは、お皿のプレス代(ケースやフィルムラップ包装なども含む)より、印刷物のコストのほうが高くつくことが多いからだ。
タヌパックでは、Illustrator形式のファイルで印刷所に直接入れて別途作ってもらう。いろいろやってみたが、それがいちばん安かった。
このような形でCDを作る場合、8ページのブックレット型ジャケット(表面はフルカラー、中は1色)、フルカラーのバックインレイ(CDケースの裏側と縁の部分に渡って織り込まれている部分)をつけて、500枚のCDを作るのに十数万円というところだろうか。

100枚以下の場合は、自分でCD-Rに1枚ずつしこしこ焼いていく方法も考えられる。
最近は無地のCD-Rや、そこにダイレクトプリントする専用のプリンター(1万数千円くらい)が出ているので、こうした手造りCD-Rも、きちんとした見栄えのするものになる。
これなら、一種のオンデマンドプレスが可能で、コストも、1枚100円くらいで済む。

音楽だけでなく、話芸や講演会のCD。デジタル写真集(これはデータCDの形式)なども作れる。特に写真集の類は、印刷物にするよりはCD-ROMのほうがはるかに安い。
本を作るのと同様、CDを作ることは、今や誰にでも可能だ。
ただし、音楽にしろ写真にしろ文章にしろ、著作物にはすべて作者の著作権がある。自分の作品ではないものをCDにする場合は、著作権問題には必ず留意し、きちんとした対応をしてほしい。
問題は作った後の流通だ。音楽CDの流通に関しては、ある意味、本の流通以上に問題が多い。
が、この問題はまた別の機会に……。


急須