たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年8月3日執筆  2002年8月6日掲載

「お役所仕事」に殺される日

首都高速道路の料金値上げが話題になっている。
この手の話が出るたびに指摘されるのは、値上げの前にやることが山ほどあるはずだろうということだ。大量の天下り族が、大した仕事もせずに役員に収まって高給を取り、辞めるときには高額な退職金を手にする。そうした無駄や不正を放っておいて、金が足りなくなれば料金を上げればいいというのでは到底容認できない、と、多くの人たちは考える。
当然だ。

昔から「お役所仕事」という言葉がある。いい意味で使われることはない。仕事に精を出しても出さなくても、給料は同じだし、クビになることもない、という皮肉が込められている。
首都高の値上げの話から始めたので、道路・交通の関連に絞ってみよう。
首都高の設計そのものが欠陥だらけなのは今さら言うまでもないが、まずはあの案内板、標識のでたらめぶりだけでもなんとかならないものか。
2車線の道が分岐して2方向に分かれる場合、右車線と左車線がきれいに左右に分かれていく場合と、どちらかの車線のみから枝分かれしていく場合がある。分岐する方向も、横に向かって急カーブを描く場合や、ほぼまっすぐ進めばいい場合など、様々だ。しかし、事前の進路指示標識には何の工夫もない。字形に描かれているだけでは、どういう分岐になっているのか、実際に分岐点にさしかかってからでないと分からない。車が高速で流れているときには命取りになる。
何十年も道路を建設しているプロが、こんな単純なことを学習し、改善できないはずがない。

信号機のプログラムも滅茶苦茶だ。
関越道から都内に入ると、環状8号線と交差する谷原交差点で必ず渋滞する。この交差点、一時は右折の青信号が長くとられていて、そこそこに流れていたが、最近どういうわけか短くなり、週末などは大渋滞の原因を作る。渋滞の最後尾が新座料金所にまでつながると、関越の出口を完全にロックした形になり、環8とは無関係の車も、問答無用で巻き込まれる。
交差点で、交差する道路の片方だけが異常に渋滞するのは、信号機のプログラミングがおかしいとまず疑うべきだし、信号機の適切なプログラムなど、工夫すれば今すぐ直せるはずなのに、なぜこんなことになっているのだろうか。

馬鹿な信号のために渋滞を引き起こされるのもストレスだが、中には人を殺す信号もある。
10年ほど前、多摩市内の「多摩卸売市場前」という大きな交差点で、左から赤信号を無視して猛然と突っ込んできた車に激突され、危うく死にかけたことがある。
信号待ちの最前列にいて、青信号になったので交差点に入ったのだが、その瞬間、左方向から猛スピードで突っ込まれたのだ。
赤信号を無視して(しかも減速どころか加速して)交差点に突っ込んできた車が100パーセント悪いのだが、突っ込んできた若い運転手は「だって、信号がいきなり変わるんだもん」と、訳の分からないことを何度も言っていた。

そのときは、なにを馬鹿なことを言っているのかと憤慨していたのだが、後日、その交差点を、青年と同じように右折しようとして、ようやく意味が分かった。右折の青信号がほんの2、3秒しか出ていなくて、黄色に変わることなく、いきなり消えてしまうのだ。しかも、右折青信号が消えた瞬間、交差する側の赤信号は青に変わっている。
交差点に入ろうとしたときにいきなり右折青信号が消えたため、青年は早く右折しようとして加速したのだろう。中央分離帯が緑地帯になっている大きな交差点で、視界も悪い。これでは事故が起きないほうがおかしい。

その交差点の信号は、10年以上経った今でも同じように動いている。変わったことと言えば、「事故多発地帯」という看板が立てられたことくらいだ。
なぜ事故多発地帯なのか。原因は信号機の馬鹿げたプログラミングにあることは歴然としているのに、まったく改善されていない。こんなことがあっていいのだろうか。
そもそも、右折青信号()に、黄信号を出さずに消えてしまうものと、黄信号を出すものの2種類あるということが理解できない。うちの近所では、多摩市内にこの「黄色なしでいきなり消える右折青信号」が多い。こんな危険なものを、なぜ長い間放置しているのだろう。

信号機ではないが、都内には「開かずの踏切」と呼ばれる踏切が多数存在する。朝夕のラッシュ時には、開いている時間のほうが少ない。西武線には特に多いようで、石神井公園駅そばの踏切などは、閉まっている遮断機を無視して人間が悠々と渡っていくことで有名だ。みんな走るでもなく、悠然と渡っていく。
つまり、この踏切は、明らかにプログラムがおかしいのだ。
関係者は「そのうち高架にするから、それまでは仕方ない」などと言っているようだが、踏切の開閉プログラムを見直せば、今すぐ、多少の改善はできるはずだ。それをせず、遮断機を無視して人が渡っていく状況を見て見ぬふりする神経が分からない。民間企業でも、儲けに関係のないところでは心のこもった仕事をしないというよい例だろう。

日本が今まで元気だったのは、こうした「お役所仕事」のマイナス面を上回って、多くの人たちが熱心に仕事をしてきたからだ。しかし、不況にあえぐ今、お役所仕事の弊害は、かつてより深刻なダメージを与え、見えない負債が蓄積されている。
お役所仕事は万人に影響する。我々は、あの店は品揃えが悪いから行かない、というような選択ができない。お役所の仕事ぶりがおかしいから、税金を払わないぞ、ということもできない。
お役所仕事の怠慢は、人々を殺すこともある。実際、多くの人たちが、間抜けな道路標識やがさつな信号機で命を落としていったはずだ。


花園神社・新宿の狛犬
新宿花園神社 囚われの狛犬 文政4(1821)年建立。銅製。村田整珉 作 (「整」の次は「王偏に民」。IBM外字なのでMACのかたは読めないはず。ご容赦を)
a dog in the summer

挿画 a dog in the summer
(c)tanuki (http://tanuki.tanu.net)







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