たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年12月6日執筆  2002年12月9日掲載

ロボコンストレス


NHKで毎年「ロボットコンテスト」というのをやっている。通称「ロボコン」。高専ロボコンと大学ロボコンなどがあるが、単に「ロボコン」といえば、全国の高等専門学校62校がすべて参加する高専ロボコンのことをさすことが多い。
毎年課題が決められていて、その課題をクリアするべく、各チームの製作したロボットが対決する。
地区予選からずっとNHKが放送しているので、一般にもファンが多い。僕もついつい見てしまうのだが、今年はいつになく悲惨な内容だった。

今年の課題は「プロジェクトBOX」という。細かいルール説明や規定項目は公式サイトに譲るが、概要としては、高さ1メートルのスタートゾーンに置いたロボットを遠隔操作し、競技フィールドにある3か所の台に段ボール箱を積み上げるというもの。
スタート地点が1メートルの高さにあり、そこから競技フィールドにつづく傾斜角45度の斜面をどのように克服するかというのが大きなポイントだ。
また、自分の色のボックスをいくら高く積み上げても、その上に1つでも相手が別の色の箱を積んでしまえば、その台の得点は相手のものになってしまうというルールがあり、この逆転劇をめぐるフィールドでの攻防も見物(みもの)になるはずだった。

ところが、各地区大会はそうした主催者側の思惑を大きく裏切るものになった。
まず、ロボットが動かない。スタート台から降りられないどころか、まったく、うんともすんとも言わず、動かないロボットが続出した。
もっとひどいのになると、ロボットがルール規定を外れていて失格というお粗末なチームも複数あった。重量が25kg以内と決められているのに、27.5kgもある。数百グラム程度なら測定誤差とも思えるが、2.5kg(10パーセント)もの超過は「うっかり」では済まされない。

対戦する双方のロボットがどちらも動かず、そのまま「判定」に持ち込まれるというお粗末な場面も多々あった。
近畿大会などは、出場14チームのうち、得点をあげられたのはわずかに3チームだけ。残り11チーム(79パーセント!)は1得点もできなかった。
スタート直後、落下してグシャっと壊れるロボット。一方の相手はまったく動く気配もなく、そばで製作者がはんだごてを持って結線作業をしている。故障なのか、そもそも完成していないのか……。
やむなく、グシャッと落ちてそのまま動かなくなったロボットのほうが、まだ「動いた」というだけましだということで判定勝利を収めるというお粗末さ。
おかげで1点も取れないまま準決勝に進んでしまうチームもあった。1得点もできないどころか、1勝もできなかったチームが、最後の「推薦枠」で全国大会へ進めてしまったりもした。

今年は課題が難しかったからという弁護もできるだろうが、見ていると、それ以前の問題なのだ。規定重量を守れなかったり、まったく動かなかったり、誰がどう見ても、そりゃ無理だろうというひどい設計だったりしているのだから。テストにテストを重ねて万全を期したものの、本番では不運にもトラブルに見舞われて……というのではない。

ロボットの出来が悪いことも問題だが、醜態をさらしながら、少しも悪びれることのない子供たちの態度にも驚かされた。悲惨な結果でも、勝てば大袈裟にガッツポーズをしてみせるし、胴上げまでするチームもいる。
まともに動かないロボットで、無様な結果に終わりながらも、マイクを向けられると「残念ですね。でも一生懸命やったので悔いはありません」などと笑顔で答える。まったくケロケロっとしているのだ。

最初は「だみだこりゃぁ」と笑ってみていたが、そのうちになんだか空恐ろしくなってきてしまった。
この子供たちが、「技術大国」ニッポンをこれから支えていくのだろうか?
支えられるのだろうか?

例えば、25kg以内と決められている規定を10パーセントもオーバーしていながら本番まで気づかないなんて、実社会(工業の世界)ではありえないことだ。
競技の規定発表の際には、競技場の床や「スポット」と名づけられた得点台の寸法はもちろん、素材まで、具体的なメーカー名や商品名を公表している。同じビニールシートや段ボール箱でも、メーカーや型番によって摩擦係数が微妙に違うことを配慮してのことだ。
競技開催者がそこまで考えていても、肝心の参加者たちが、あまりにもおおらかすぎて、平気で失格マシンや動きそうにないマシンを作ってしまう。それが1チームや2チームではないところが怖ろしい。

日本の工業製品の品質はどんどんひどくなっている。これは、修理工場やメーカーのサービスマンなど、現場で働いている人たちも異口同音に指摘していることだ。
長持ちさせずに早めに買い換えさせるという戦略ゆえとも言えるが、根本的に「壊れちゃってもいいや」という甘えが出ているのではないだろうか。
原子力関連の施設などでは、今後、人類の歴史が続く限り、厳密な管理が永久に求められていく。ちょっと放射能が漏れちゃいましたけど、予測できなかったし、努力はしたから悔いはありません……なんてことでは済まされない。

人生幸朗のぼやき漫才じゃあるまいし、子供のゲームに対してそこまで大袈裟に心配したりムキになるなんて、大人げないと思われるかもしれない。しかし、大人だからこそ、駄目なものは駄目だとはっきり言わなくては。物わかりのよさそうな大人ほど、いざとなるとき信用できないことくらい、子供でもすぐに学習する。

まあ、ぼやいてばかりだけでも能がないので、最後にロボコン競技主催者にひとつ提言を。
ぜひ、「模範作品」を見せてほしい。こう作ればいいという、素晴らしいロボットを見てみたい。
それを誰が作るか?
技術畑一筋を歩いてきながら、定年やリストラで職を離れてしまったエンジニアたちにお願いするのだ。現役を退いた(あるいは退かされた)老エンジニアたちが、高専の生徒たち相手に、見事な「模範解答」を示す。素晴らしいではないか。

これは、子供たちに「大人の凄さ」「プロの厳しさ」を教えるためにもいいことだと思う。今のままでは「失敗しましたが、一生懸命頑張ったのでよかったです」で、すべてめでたしになってしまっている。世の中、そんな甘いもんやおまへんでぇ。機械を作るということは、人間の命や地球の環境を左右することにつながる。つまらない設計ミスや整備不良が人を殺すこともある。
技術者は結果がすべて。言い訳はしない。そうした技術者魂を、老エンジニアたちが無言で示すことは、技術大国ニッポンを死なせないでくれというメッセージにもなるだろう。
優勝マシンとのエキシビションマッチにすれば、子供たちも燃えるだろう。
そうなれば、ロボコンが一層深みを増すと思うが、どうだろう?

壕太
■装画 Gota (c)tanuki

小説『鬼族(kizoku)』のカバーのために、tanukiさんが描いてくれた20数枚の原画の中の1つ。


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