たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年2月21日執筆  2003年2月25日掲載

「アカウント」って何?

んが~~っ! 今週もデジスト漬けの日々であった。
先週「準備中」と書いたフリーゾーンミュージック(フリードメインミュージックと書いたが、意味が通らないと思い直し、その後「フリーゾーン」という言葉に変更)の試みは、原稿が掲載された火曜日(2月18日)前にはサイトを公開(http://chiaki.st)していた。
こういう作業はただでさえ神経を遣うが、奇しくも同じ日に(社)日本レコード協会では、LOVE MUSIC? SAVE MUSIC! という音楽ソフトの不正コピー防止キャンペーンを大々的に始めていた(まったくの偶然)。

これに関連して、今まで訪れる人もなくひっそりとしていた「著作権証明機構準備サイト」(http://chosakuken.org)を、より安定したサーバーに引っ越しさせたところ、どういうわけかDNSエラーが出てつながらなくなってしまった。
ORGドメインは今までCOM、NETと同じく旧Network Solutions Inc.(現在はVERISIGNに統合)の管轄だったが、今年からPIR(Public Interest Registry)というところに管理が委譲され、管理システムががらっと変わった。技術的な部分はINFOドメインと同じAfilias Limited社が担当するとのことなのだが、そのせいかどうか、突然レジストリのステータス表示がINACTIVEに変わってしまったのだ。
しかし、何度見直してもDNS設定は間違っていない。
困り果てながら、ネームサーバーを何度も再変更登録申請しているうちに、ようやくstatus:OKとなったので、まだアクセス不能だったが床につく。でも、おかげで眠りが浅いまま。
なぜそんなことになったのか、未だに原因不明。一時は「陰謀か? それとも圧力か?」なんて妄想してしまったわ。
ああ、デジタルストレス。

翌日、TTL(Time To Live)が消えて著作権ORGが復活しているのを見届け、今度は公開した「千亜紀ストリート」(http://chiaki.st)に置いた音楽ファイル4つを、ベクターに「フリーソフト(データ)」として登録する作業にとりかかった。問題がなければこのコラムが掲載される頃にはぼちぼち登録され、ベクターのサイトからダウンロードできるようになっているはず(あい ほうぷ そー)。
その間、ファイルの修正回数数えきれず。
ああ、デジタルストレス。

というわけで、疲れ果てた頭のまま、今週は小ネタをひとつ。

イーネットのサポート窓口には、メールソフトへの新規「アカウント」の設定が分からないという問い合わせがよく来る。例外なく、Outlook Expressを使っている人からだ。
多分、最初は説明書を見ながらなんとか設定したものの、時間が経って忘れてしまったに違いない。パソコンを買った直後は、メールソフトの設定だけでなく、インターネットへの接続設定やらLANの構築で手間取るから、無理もない。なんかいろいろやったことは覚えているけど、何をどうやったのかは忘れちゃった、ということなのだろう。
問い合わせのメールを送信してくるくらいだから、インターネットには接続できているわけだ。
「今使っているメールソフトに新しいアカウントを設定するには、POPサーバー名、SMTPサーバー名、POPユーザー名、POPパスワードの4つを入れてやればいいんですよ。後はあれこれいじらなくても動きます」などと説明するのだが、考えてみると、この説明で使っている「アカウント」という言葉がトラブルの元になっているのだ。

メールソフトでは、1つのメールの設定を「アカウント」と呼ぶことが多い。
メールソフトに新しい「アカウントを設定する(追加する)」などと言う。
今まで使っていたメールアドレスの他にもう1つアドレスが増えたときなどは「新しいアカウント」を追加設定するのだが、この「アカウント」という言葉、実にいろいろな場面、いろいろな意味合いで使われており、混乱を招いている。

Outlook Expressでは、「ツール」という項目の中に「アカウント」という項目があり、新しい設定を追加するにはここから「追加」で行う。
そもそも、なんでアカウントの追加が「ツール」(道具)という項目に入っているのかが理解不能なのだが、もっと困ったことには、新しいアカウントを設定するとき、「サーバー」という項目の「受信メールサーバー」という項目の中に、また「アカウント名」という項目が登場するのだ。
この「アカウント名」というのは、普通には「POPユーザー名」とか「POP ID」などと呼ばれるもので、POPサーバー(受信用サーバー)にログインするときのログインIDのことだ。
たいていの人はこの「アカウント名」で悩んでしまう。

最初に出てきた「アカウント」は、メール送受信の設定単位(1セットごとの名称)のこと。ここで出てきた「アカウント名」は、メールサーバーにアクセスするときのユーザー名(ID)のことで、全然違うものなのだが、同じ「アカウント」という名前にしているために、不要な混乱を招いている。

ついでに言えば、この「サーバー」という設定タブの中の項目建ても非常に分かりにくい。

サーバー情報 受信メールサーバー
……となっているのだが、インターネット中級者以上なら、この項目の並べ方がいかに誤解を招きやすいかお分かりだと思う。

「受信メール(POP3)」というのは、「受信メールサーバー(POP3サーバー名)」とすべきだ。同様に「送信メール(SMTP)」は「送信メールサーバー(SMTPサーバー名)」とすべきであり、要するにこの2つは「サーバーの名前」(pop.xxx.comなど)を入れるところなのである。
「受信メール(POP3)」などと書かれていたら、サーバーのことではなく、メールそのもののことかと思う人が出てくるだろう。
しかもその下には「受信メールサーバー」という項目があるのだから、ますます混乱する。

他のメールソフトではどのようになっているか見てみた。

EdMaxでは「基本」という設定タブの中に次のようにある。
これなら間違えようがない。
ちなみにこの最初の「アカウント名」というのは、「設定の名称」というような意味で、ユーザーが自分で分かるように好きな名前をつけておけばよい。

DATULAでは、SMTPとPOP3というタブに分かれており、SMTPのところで を記入させ、POP3のところで
を記入させるようになっている。
SMTPとPOP3は別物なのですよ、という認識をよりいっそう明確化していて、これも理にかなっている。
DATULAでも、「アカウント」はメール設定単位の名称として使われていて、新しい設定をすることを「アカウントの開設」という。

つまり、どちらのメールソフトでも「アカウント」は「メール送受信の設定単位」という意味で使われており、IDやユーザー名のことを「アカウント」とは呼ばない。
SESNAも見てみたが同じで、「アカウント」は設定の名称のことで、POPユーザー名のことは「ログイン名」としていた。

こうした用語の不統一による混乱を少しでも避けるようにと、昨年6月、インターネットプロバイダー協会(JAIPA)が、インターネット接続サービスに関連する用語の「標準名称」を策定した。

その一覧表がここにあるが、それによれば
……だそうだ。
しかしこれも問題がある。
「接続ユーザー名」は、インターネット回線に接続するためのユーザーIDのことだろう。しかし、「メールアカウント」の定義が不明瞭だ。
一般にメールアドレスにおける@の左側(xxx@yyy.com ならxxxの部分)を「メールアカウント」と呼ぶが、これがPOP3サーバーに対する「ユーザーID」と同一かどうかは分からない。
多くのプロバイダでは、接続IDが意味のない記号(xyz-123 などのような)の場合、メールアカウントは覚えやすいように別名のものを用意してくれるサービスがある。
(例:接続ユーザー名はxys-123で、xyz-123@xxxx.ne.jpというメールアドレスを発行するが、他にyamada@xxx.yy.ne.jpといったメールアドレスも同じように使えるように設定できる。@NiftyやAsahi-Netなど、多くのプロバイダで行われている)
このyamada@xxx.yy.ne.jpを常用する場合、「メールアカウント」はxyz-123なのかyamadaなのかが分からない。
つまり、「アカウント」「ユーザー名」「ID」などと呼ばれる可能性があるものには、
「回線への接続ID」(インターネット回線に接続するとき必要)、「POP3サーバーへのアクセスID」(POP3サーバーに接続してメールを受信するときに必要)、「メールアカウント」(メールアドレスの@の左側の部分)の3つがある。

従って、プロバイダによって、この3つの関係は次の5通りが考えられる。
  1. 接続ユーザー名=POP3ユーザー名=メールアカウント
  2. 接続ユーザー名≠POPユーザー名=メールアカウント
  3. 接続ユーザー名=POPユーザー名≠メールアカウント
  4. 接続ユーザー名≠POPユーザー名≠メールアカウント
  5. 接続ユーザー名=メールアカウント≠POPユーザー名
(実際には、5のケースはほとんどないだろうが……)

上の等号や不等号は、単に使う値(文字列)が同じという意味であり、これら3つは本来別々のものである。

だから、JAIPAも、定義するなら、「メールアカウント」は「メールアドレスの@の左側部分」のことと定義して、(たとえ同じ文字列が使われていても)「POPユーザー名」とは厳密に区別すべきなのだ。(つまり、定義項目が1つ足りない)

しかも、前述のように、メールソフトの中での「1つの独立したメール設定」のことを「アカウント」と呼んでいるのだから、JAIPAの定義ではどうしても混乱が出てくる。

アカウントという言葉は、かくも面倒なものなのである。
アカウント(account)という英語のそもそもの意味を調べてみても実に多様で、明確な定義がしにくい。
困ったことに、インターネットとは直接関係がないが、最近では「アカウンタビリティ」という言葉もよく使われているようだ。
これは日本では「説明責任」などと訳されているのだが、日本語の「説明責任」と英語のaccountabilityには相当なズレがあると指摘する人もいる。(だから外交や海外企業との取引現場ではトラブルが続出するのかしら)

多分、 on one's own account というフレーズ(1 : on one's own behalf 2 : at one's own risk 3 : by oneself : on one's own ) ~Merriam-Webster OnLineより~ で使われる意味合いがいちばん現代的なaccountなのだろうが、英語には弱いので、あんまり適当なことは言わずにおこう。

結論:「アカウント」には注意せなあかん、と。(ああ、貧弱な結論)
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A reindeer and a skinny tree
■挿画 A reindeer and a skinny tree (c) tanuki




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