たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年4月4日執筆  2003年4月8日掲載

ラーメンが日本を救う?

現代の戦争は、ほとんど「経済行為」なのだなあ……と、次第に確信していく今日この頃。
地雷製造メーカーが、義足製造メーカーと大元では資本がつながっているというような話はよくある。経済においては、人間もまた、消費されるものなのか。
戦争反対と唱えることは誰にでもできるが、では、自分は戦争という「経済行為」にまったく無関係なのかと問われれば、どこか遠くでは何本かの糸がつながっているのかもしれないと、みんなが感じている。
大企業に所属していたり、政府関連の仕事をしていれば、きっとどこかではつながっているし、そもそも日本人というだけで、戦争には無関係とは言えないのかもしれない。
実際、朝鮮戦争のとき、日本は「朝鮮特需」にわいたらしいし。

若いときは、「大きな仕事をする」ことが夢だった。
大きな仕事をするためには大企業に入るしかない、と考える人も多い。
僕は企業に勤めることはハナから考えていなかったが、大きな仕事には憧れた。
創作活動においての「大きな仕事」とは、自分が有名になることであり、作品が売れまくってお金が動くことだと思っていた。
今は、その意味での「大きな仕事」に対するこだわりは薄れた。
売れる、売れない、有名になる、ならないは、巨大メディアの存在なしには考えられない。巨大メディアが動くということは、創作の本質とは別の、あるいは創作の本質を殺す、面倒な関わり合いが増えることだと分かってきた。

また、不景気で、海外では理不尽な殺人がまかりとおっているこのご時世では、毎日の基本的生活を維持していくだけで疲れてしまい、小説を読んだり音楽を聴いたりするゆとりも失われがちだ。自分がそうなのだから、小説や音楽が売れないことを単に嘆いていても仕方がない。

自分の意志が貫けて、才能・実力が正当に認められ、しかも人から必要とされる仕事ってないものだろうか……と考えていくと、例えば、料理人などはまさにそうかな、と気づく。

身近なところで、ラーメン屋のオヤジ(別に「おねえさん」でもいいけど)なんてどうだろう。
うまいラーメンとまずいラーメンの差ははっきりしている。どんな繁華街にあっても、まずいラーメン屋は絶対に繁盛しない。逆に、辺鄙な場所でも、うまいという評価が確立すれば、遠くからも客が来る。
才能と実力がはっきり結果に出る商売だ。
しかし、実体は非常に厳しい。

材料費や手間をケチっていてはうまいラーメンは作れない。となれば、1日に作れるラーメンの数は限られ、おのずと儲けも見えてくる。
一杯1000円以上するラーメンでは、庶民が気軽に楽しめるというラーメン道(そんな「道」があるのか……多分、ある)から外れてしまうし、それこそメディアの力でも借りなければ売れないだろう。
しかも、ラーメン屋の利益率は非常に低い。一説には20パーセント前後だという。500円のラーメンのうち、利益になるのはせいぜい100円程度。そうなると、1日5万円儲けるためには500食売らねばならない。10時間営業したとしても、1時間あたり50食。ほとんど1分1食ペースで作り続けて、初めて500食という数が達成できる。
1分1食は非現実的かもしれない。少し条件を落として、3分に1食ペースで1日10時間作り続けても、儲けは2万円だ。
普通に考えたら、とても「おいしい」商売ではない。

儲けようとしたら、支店をたくさん作って拡大経営の道を歩むしかないが、それをやった途端に味が落ちていく店が後を絶たない。
長い間味を保ち続けるラーメン屋ほど、大儲けしているようには思えない。
彼らは地元に密着して、進出しようとか、大きくなろうなどという欲望は抱かない。お客様が喜んでくれることがいちばんの生き甲斐。自分はラーメン作りで生きていければそれでいい。
考えれば考えるほど、ラーメン屋の店主が神々しく見えてくる。

一方、最近感心してしまうのは、カップラーメンの味が劇的によくなったことだ。
1個300円前後で売られている高級カップラーメンの中には、そんじょそこらのラーメン屋で食うよりよほどうまいものがある。特にスープの出来は素晴らしい。
本格的に作ったスープを濃縮加工している液体スープだから、本来のスープの味とほとんど変わらない。麺はさすがに乾麺の限界があるが、それでも一昔前の乾麺とは段違いだ。

こういう「インスタントラーメンの傑作」を味わうと、それ以下のラーメンを出すラーメン屋の店主が許せなくなる。あなた、この程度のラーメン出していていいの? 隣のコンビニで売っているカップラーメンのほうがずっとうまいじゃないの、と言いたくなる。多分、そういうラーメン屋(たくさんある)は、放っておいてもつぶれる運命だろうが。

同じ300円のカップラーメンでも、うまいものとまずいものが歴然とある。今のところ、うまいものは3割もないだろう。残り7割以上は、従来のカップラーメンと大差なく、値段だけが高い。概して、大手メーカーのものよりも、中小メーカーの製品がうまい。本当にうまいカップラーメンは、テレビCMを流していない。
北海道に本社がある、一度倒産した製麺工場が手がけているものなどは、どれも外れがなく、傑作揃いだが、数がこなせないのか、いつでもどこでも売っているわけではないようだ。

高級インスタントラーメンの総需要が同じなら、一部の大手メーカーがまずい高級ラーメンを宣伝力や営業力で大量に売るよりも、うまい高級ラーメンを作る中小メーカーが多数存在しているという状況のほうがはるかに幸せだ。
どちらの状況でも、総売り上げが同じなら、経済的には同じ価値なのだろうが、人間の満足や幸福度指数は違う。
また、まずいラーメンを広告や宣伝力で無理矢理売る世界には発展性がないが、日本中にうまい高級インスタントラーメンを作るメーカーが出てくれば、高級インスタントラーメンという新しい市場が確立し、それが発展していく可能性が開けてくる。

……と、ここで気づくのだ。
今の日本経済を救うのは、「ラーメンの精神」ではないか……と。(え? 無理矢理すぎる? まあまあまあ)

安直に大儲けしようとする経営姿勢を戒め、地道な努力を惜しまない。質の向上と、それに対するユーザーの評価を生き甲斐にしていく。
地域密着の精神を重視し、物作りと同時に人作りに力を入れる。
その結果、商売だけではなく、あらゆる面で「日本人」の質が向上し、困難な状況にあっても簡単には負けない体力と知力が育つ。
(以上、神々しいラーメン屋の精神)

と同時に、いかに上質な商品・サービスを安価、広範囲に届けられるかを工夫する。
安いだけのものを大量に、ではない。手造りの製品やサービスに負けないような満足度の高いものを届けるための徹底的な工夫と努力が大切。
ムードや宣伝力で売るのではなく、本質的部分の品質で勝負する。そのためには、規模の拡大を敢えて求めない勇気も必要。
(以上、高級カップラーメン作りの精神)

……どうだろうか。ラーメンの精神が日本経済を救うという奇論も、あながち的はずれではないのでは? とGIF、いや自負してしまうのである。

さて、最後にオマケ。
一部の高級カップラーメンがあまりにうまいので、僕としてはさらにこんな要望を出してみたい。

麺、スープ、具を完全に分けてパッケージし、客が好みの組み合わせで「カスタムラーメン」を楽しめる「えり好みシリーズ」

……実は、コンビニではまだ見つけたことがないのだが、最近、近所のスーパーでこれに近いものを見つけた。有名メーカー(ラーメンでは有名とは言えないが)の製品で、液体スープが数種類、麺が2種類あった。スープは40円、麺は80円程度で、合わせて120円。300円のカップ麺よりはずっと安い。

さっそく食べてみたのだが、全然感動がない。
麺はまだしも、スープは「何かが足りない」。これではアイデアだけで実質が伴っていない。スープが100円してもいいから改良してほしいものだ。スープが100円になっても、麺と合わせて180円。これに「具」パックが80円で加わったとしても、合計260円で、高級カップ麺と価格競争ができる。
麺は生麺と乾麺の両タイプが選べるようにする。
時間がないときは乾麺にお湯を注ぐだけ。ゆとりのあるときは生麺を鍋で茹でる。味だけでなく、作り方も選べるのだ。売れるぞぉ。
さあ、全国の食品メーカーさん、頑張って作ってみよう!

「小さな贅沢」路線はラーメンに限らない。
例えばアイスクリーム。

もっともっと小さな高級アイスクリーム

今、売られているミニカップのさらに半分の大きさ。まさに二口か三口で食べられてしまうような大きさのミニミニカップを発売すれば売れる。
食後においしいデザートを食べたいが、肥満が気になる。でも、この大きさなら……と思う人は多いのだ。
今、高級アイスクリームのミニカップは250円くらいする。100円で売っているミニカップは、250円クラスのものよりは、やはり味が落ちる。
250円クラスのアイスクリームを、量を半分にして150円で売れば、絶対に売れる。
ああ、もっと食べたい……と思うところでぐっと我慢するから、飽きることがない。ついついまた買ってしまう。今まで1か月に1度しか食べていなかった人が、1週間に1度食べるようになれば、売り上げは数倍である。
これは、思いっきり小さくすることが鍵だ。こんなに小さくても150円というのが安心感にもつながるし、実際においしければいいのだ。
さあ、全国のアイスクリームメーカーさん、頑張って作ってみよう!

……とまあ、こういう工夫が、これからの日本経済が生き延びるヒントになるのでは、と思うのである。
それにしても、企画料ただでアイデアを公開するなんて、ああ、やはりあたしゃ商売人には向いていないなあ。


小さな狛犬
■小さな小さな狛犬
(江名諏訪神社・福島県いわき市)
(c)http://komainu.net



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