たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年6月27日執筆  2003年7月1日掲載

「ハイファイ」は死んだか?

hi-fi(ハイファイ)という言葉、最近めっきり聞かなくなった気がする。もしかしてすでに死語なのだろうか?
そもそも、オーディオマニアと呼ばれる人たちが激減したようだ。

ハイファイは high fidelity の略だから、オリジナルの音に忠実であるというのが本来の意味だ。
「原音に忠実」……しかし、今の音楽は生の楽器の音が少なくなっている。生の楽器音だと思って聴いているものも、実際にはサンプリング音源だったりする。
それをデジタルエフェクターで積極的に加工してミックスダウン。そうして作られた音楽を、リスナーはさらに音質・音場を変えて聴いている。特に、カーオーディオや携帯用プレイヤーでは、低音を強調する音質補正スイッチを入れっぱなしにして聴いている人が多い。
これでは、オーディオ再生装置に「忠実性」を求めても虚しいのだろう。

最近、5.1chサラウンドシステムというのが流行っているらしい。
オーディオ製品売り場に行くと、家の居間をミニ映画館にするようなシステムが展示されている。
前と後ろに2つずつのスピーカー。前中央に1つ。さらに、超低音用のスピーカー(これは定位性が低いので、置き場所にはあまりこだわらない)を1つ、という構成だ。

その昔、4チャンネルオーディオというのが発表されたことがあった。前に2つ、後ろに2つのスピーカーを置いて聴くのだが、最初から4つのチャンネルを独立して録音したディスクリート4チャンネルという方式と、2チャンネルを4チャネル再生用に変換するマトリックス方式というのがあったと記憶している。
どちらもすぐに飽きられ、忘れられてしまった。
多くのオーディオマニアが、そんなものは音楽の楽しみ方としては邪道だと思ったからだ。
僕も高校生の頃はいろいろ実験してみたが、すぐに飽きて、普通の2チャンネルオーディオで、よりよい音質を求める方向に戻った。

5.1chサラウンドも、同じようにすぐ飽きられると思っていたが、今のところは定着していきそうな気配だ。
恐らく、娯楽のあり方が変化したのだろう。
音楽よりも、映画。クオリティよりも迫力と刺激。
飛び交う銃弾や戦闘機の轟音。後ろから前に走り抜けていく車。それらはかつての「4チャンネルオーディオ」でも定番のデモンストレーションだった。あのときはすぐに飽きられたが、今は映像とセットで求められているということらしい。

初めてレコーディングスタジオや放送局の調整室に入ったとき、スピーカーから出てくる音のよさに驚いたものだ。あの音は、今思えば確実に高級「アナログ」の音だった。
最初からデジタルで作られた音は、どんな高級機で再生しても大して感動はないように思う。
今の若い人たちは、ゲーム機のBGMや通信カラオケの音で育っている。生まれて初めて耳にした音楽がデジタル音源のMIDI音楽なのだから、「原音に忠実」なんて言われても意味が分からないかもしれない。
「ハイファイ」の感動が喪失したために、5.1chサラウンドという別の刺激が必要になったのだろうか。
そう思うと、オーディオ売り場の中で広い面積を占めている「ホームシアター」システムが、なんだかいじましいものに見えてくる。

Can you swim into the night?
■挿画 Can you swim into the night?

(c)tanuki


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