たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年7月11日執筆  2003年7月15日掲載

キーボードストレス

最近、新しいパソコンを購入した。
世界的メーカーの製品だが、ひとつ型落ちのアウトレット商品(未開封)で、価格は7万円ちょっとだった。
Pentium4 2.4GHz。メモリ512MB×1枚。120GB HDD。CD-RW/DVDコンボドライブ……というような内容。OSはWindows XP Home Editionがインストール済み。
今まで使っていたのがディスプレイ一体型だったため、液晶ディスプレイもついでに買った。それで、送料や税も全部合わせて10万円少々。パソコンも安くなったものだとしばし感慨にふけってしまった。

新しいパソコンを買うと、一週間くらいは環境の移行、再構築で悩まされる。
あら、顔文字が出ないと思ったらATOKの辞書をコピーしてなかった、とか、右ドラッグでLHAファイルを一発解凍できないと思ったら、エクスプローラをカスタマイズしてなかった、とか、いろいろな「障害」が起きて、その度に仕事を中断して環境設定をする。

そうした中で、いつもいちばん腹が立つのがキーボードの環境再設定だ。
今日本で売られているパソコン(Windowsマシン)のほとんどには、日本語109キーボードなるものがついている。この腹立たしいキーボード、一体誰が設計したのか?

ちょっとだけ、日本語キーボードの歴史をおさらいしてみる。
IBM PC/AT互換機(今のWindowsマシンの原型。当初はDOSなどのOSで使われていた)が採用していたのが101キーボードと呼ばれる101個のキーがあるキーボード。最下段には横にビローンとスペースバーがあり、その両脇にAltという補助キー、その外側にCtrlという補助キーが一対、と、全部で5個のキーが並んでいた。上下左右にカーソルを移動させる矢印キーはその右、さらに右には数字入力用のテンキー。

これを基本に、日本語用の106キーボードというものが作られた。
英語版101キーボードよりも5個キーが増えているわけだが、それが「変換」「無変換」「カタカナ/ひらがな」「半角/全角」といくつかの記号入力用のキー。
「変換」「無変換」「カタカナ/ひらがな」という3つのキーは最下段に追加されたので、その分、スペースバーは短く切り刻まれた。

この「変換」というキー、かつて一世を風靡したNECのPC98マシンにもあったが、実際にはほとんど使われることがなかった。押しにくいので、「変換」にはスペースバーを使うIME(当時はFEP=フェップなんて言っていたっけ)が多かったからだ。
要するに「変換」なんていうキーは、よく考えると、必要なかったのである。

欧文タイプライターに慣れていた人たちは、日本語キーボードのスペースバーが短いことに不満を抱いた。日本語IMEは英語キーボードからも代用キーを割り付けて簡単に入力できたから、日本語入力環境においても英語版キーボードを使うという人が結構いた。
恐らく、海外居住者が多いAICの読者の多くは今でもそうなのではないだろうか。

ところが、Windows 95が発表されると同時に、英語キーボードの最下段にはWindowsキーというのが両側に1つずつ、アプリケーションキーというのが1つ、合計3つのキーが追加された。
これにより、ただでさえ狭苦しい日本語106キーボードの最下段は悲惨なことになった。
あろうことか、最下段に単純に3つキーを加えて「日本語109キーボード」にしてしまったのだ。
スペースバーはもはや他のキーよりちょっと長めという程度にまで切りつめられ、欧文入力と併用している人たちは「こんなんで文字が入力できるか!」と、怒り心頭に発した。

そもそも、Windowsキーって何? アプリケーションキーって何?
私は未だに使ったことがない。
Windowsキーを押すと、Windowsを終了するときしか見ることのない「スタートメニュー」が現れるのだが、まさか、これだけのことのためにキーを2個も追加したなんて、悪い冗談は言わないでしょ?
アプリケーションキーに至っては、押しても何も起きない。ファイルをポイントしたときやテキストを選択したときに押すと、マウスを右クリックしたときと同じプロパティメニューが表示されるが、これもまさか、それだけってことはないでしょ?

……とずっと思っていたのだが、どうも本当に「それだけ」のことらしいのだ。
マウスなんか絶対に使わないぞ、という硬派のキーボード派は、そもそもスタートメニューなどというまどろっこしいものをたどってソフトを起動しないだろう。ホットキーを割り当てるとか、ランチャーソフトを常駐させるなどしているのではなかろうか。

マウス操作を極力避けたいと思っている僕も、右クリックで出るメニューを、わざわざアプリケーションキーなどというものから表示させようとは思わない。
こんなもののためにキー3つ! しかも、最も地価の高いキーボード最下段の優良地に無神経に空き地を作るとはどういう神経なのか。銀座四丁目交差点角に会員制ゲートボール場を作るようなものだ。

この109キーボードなるものを許してしまった時点で、日本は完全にコンピュータ植民地になったと思う。自分たちの文化を自分たちで築けない。与えられたものがどんなに理不尽でも、逆らわずに受け入れるばかりか、言われたままに金まで巻き上げられる。

馬鹿な日本語キーボードが存在するおかげで、キーボードレイアウトを変更する常駐ソフトというものがいくつも出ている。
猫まねきとかKEYLAYなどが有名だが、これを使って「変換」や「カタカナ/ひらがな」キーはスペースバーの延長にしてしまっている人も多い。
あるいは、英語104キーボードを買ってきて、Windowsキーやアプリケーションキーを「無変換キー」や「変換」キーに変更してしまうという手もある。

僕は右WindowsキーはPageUpキーに、アプリケーションキーはPageDownキーに変更している。「変換」キーはIMEのON/OFFに使っている。
「無変換」キーは「部分確定」用に使うことに慣れてしまったので、そのまま残している。

それにしてもである。こんな悲惨な日本語キーボードがこのまま定着してしまってよいものだろうか? 今からでもいい。まともな日本語キーボードを開発し直したらどうだろう。
キーボードだけなら、弱小メーカーが独自開発してもいいではないか。かつて、JUSTYというメーカーは、最初から左CapsLockキーと左Ctrlキーを入れ替えた日本語106キーボードを作って売っていた。左CapsLockキーとCtrlキーは入れ替えて使う人が多いので、そうした人がいちいちキーボードユーティリティソフトなど使わなくてもいいようにという発想で作っていたものだ。
WindowsやMac OSで使える親指シフトキーボードというものも売られていた。
今も売っているかどうかは分からないが、ささやかな抵抗、いや健全な商品だったと思う。

親指シフトキーボード、トロンOSなどなど、日本人の貴重な発明を、日本人は大事に育てなかった。
このままアメリカ企業に理不尽な環境を押しつけられたまま、IT属国となり続けるのだろうか。今からでもいい。誰か強力なリーダーが現れないものだろうか。
全世界の101キーボード派の日本人Windowsユーザーがコンソーシアムを作り、まともな日本語キーボードのレイアウト案を練るなどという動きは出てこないものだろうか。
キーボード改革は、簡単にできるその第一歩になると思うのだが。

例えば、Windowsキー、アプリケーションキーはもちろん除外。変換キーとカタカナ/ひらがなキーの位置には「日本語用1」というような仮の名称で1つだけキーを配置。その他、キー配列をもっと煮詰めた形にしたキーボードを発表したら売れるかもしれない。
キーボード配列変更ユーティリティソフトと一緒に売れば、Windows側が何も規格変更しなくても、今よりずっと使いやすい入力環境になるだろう。



2003年9月6日追記:

このコラムにはかなりの反響があった。
その多くは、PFU の Happy Hacking Keyboardというものを知らないのか、というお叱り。
はい、知りませんでした。サイトを見ると、確かにこれはユニーク。でも、僕にはちょっと使いづらい。ファンクションキーとの複合でないといろいろな機能キーが効かないのが最大の問題。
また、JUSTYは倒産したそうだ。残念。

義経神社の狛犬
■凄い顔の狛犬
(北海道沙流郡平取町 義経神社)
(c)http://komainu.net


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