たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年8月8日執筆  2003年8月12掲載

「ヤフオク」族たちの戦い



IMD(国際経営開発研究所)のWorld Competitiveness Yearbookによれば、日本は現在、人口2000万人以上の国の中で11位の国際競争力なのだそうだ。アジアではマレーシア、台湾、タイよりも下だ。
10年前は、日本が世界1位だったらしい。
このままでは本当に大変なことになるだろうが、どうも国民には危機意識がない。「構造改革」という言葉も、いつしか過去の流行語のようになってしまって、その意味の大きさ、深刻さが理解されていない。
しかしまあ、僕は経済評論家ではないので、構造改革論をぶつのはやめておこう。その代わり、お上が惚けている間に、この国の底辺でどんなIT戦争が起きているか、最近経験した小さな実例を2つ紹介してみたい。

ひとつはIT詐欺とも言うべき犯罪だ。
料金回収代行業者と名乗る会社から、身に覚えのない有料WEBコンテンツ利用などに関する請求書が突然届くという詐欺。つい先日、僕のところにも届いた。
請求額は2万円台のことが多いらしい。僕が受け取ったのもちょうど2万円台の金額が記入されていた。
何かの名簿を手に入れ、片っ端から同じ内容の請求書を送りつけるらしい。振込先には企業名の銀行口座が指定されている。連絡先の電話番号も明記されているが、下手に電話をしたりしようものなら、こちらの電話番号をキャッチし、ますますしつこくつきまとってくることもあるという。
被害件数は大変な数に上るようで、各地の生活センターや警察のサイトでは、必ずこの手の架空請求詐欺に注意する呼びかけをしている。

恐らく、報告されていない被害額も相当なものだろう。身に覚えがなくても、もしかしたらWEBサーフィンをしているときに、怪しいサイトに迷い込み、そこで有料コンテンツを購入する操作をしてしまったのではないか、などと思うのかもしれない。
絶対そんなことはないと確信していても、暴力団と関わり合いたくないから、2万円くらいなら支払ってしまおうと思う人もいるのかもしれない(実際には逆効果で、支払ったら「お得意様」リストに移され、ますます食い物にされる)。
こんなところでITが利用され、犯罪者に金が集まる。困ったものだ。

もうひとつ初体験したのが、ネットオークション。
「ヤフオク」(ヤフーオークション)はもちろん存在としては知っていたが、今まで覗いてみたことはなかった。
僕のヤフオク初体験は出品ではなく購入。入手したのは車のステアリングで、落札価格は3000円。入札者は僕一人だった。多分、この商品にこの値段では魅力があまりない、ということを意味しているのだろう。(気に入っているので、値段的にはまったくOKなのだが)

いろいろ見てみると、ヤフオクを趣味ではなく、副業としている人がたくさんいるようだ。
例えば、自動車部品ばかり、千何百回も売買している人がいる。500円で入手したものを2000円でまたオークションに出す……などを繰り返し、差益で儲けるわけだ。ちりも積もれば山となる。辛いバイトに明け暮れるよりは割のいい商売なのかもしれない。仕入れ値より安くは売らなければいいわけだから、株や為替よりも確実に儲かりそうだ。
出品者に地方の人が目立つのは、商品をストックしておける土地代が安いからだろう。兼業農家の跡取り息子などが、空いている部屋や納屋を倉庫代わりにして「ヤフオクビジネス」をしている図が目に浮かぶ。

業者が広告代わりに利用している例もたくさんある。やはり地方の業者が目立つ。
この場合は、売っているものは新品。最低価格がそのまま販売価格ということが多い。
雑誌などに広告を出すことを考えれば、広告費ほぼ無料で全国に告知できるのだから、こんなうまいシステムはない。店頭に置いてあれば何年も売れないような特殊な商品であっても、全国レベルでは探している人が必ずいる。その両者を結びつける情報部分が、言ってみれば「ただ」。これぞインターネットの力だ。
もちろん仲介しているYahoo!Japanも手数料などで儲かる。
なるほどなあ。これも立派なITビジネスなのだなあ、と感心させられた。
かなり危ない商品(中には前売りチケットの予約番号などという形のないものまで)も流通し、とかく問題にされることが多いヤフオクだが、批判するだけではなく、そこに渦巻くネットビジネス予備軍のエネルギーを感じてみることも悪くない。
ITで元手のかからない広報活動をして、宅配便的フットワークのよい物流で商品を再流通させる。最終的に動く商品は1つでも、その商品を巡って複数の人間が想像を膨らませ、計算をし、心を躍らせる。情報流通の段階で、すでにひとつのレジャーが生まれているかもしれない。その「情報レジャー」部分も大きなビジネスを形成する。
これこそ、IT時代ビジネスモデルのひとつではないか。

ヤフオクのトレードゲームで小銭を稼ぎながら、田畑を守っている兼業農家の跡取り息子たち。きっと、少なからずいるに違いない。僕には彼らの姿が結構いとおしい。
国の無策・悪政で農業を圧迫され、専業農家では食べていけなくなる。農業を続けるには、早朝と勤め帰り、休日の時間を割り当てるしかない。それでも苦しいから、さらに副収入を得るため、夜中にパソコンに向かう。
転売できそうなものを安く落として、利益分を上乗せして出品する。その姿は、それこそ「畑違い」ではあるが、今の僕と同じだ。
自分にしかできない仕事、能力を最大限に要求される仕事では金が入らない。食べていくために、クオリティの高い仕事をし続けるために、底辺のITトレードビジネスに身を沈める。
ああ、同じ仲間なのだと感じ、勝手な共感を抱いてしまった。

頑張ろうIT雑草たち(除、犯罪者)。こうした「底辺」の力が結集することによって、この国のIT潜在力が少しでもしたたかに、力強く育つようにと祈りたい。

夜の越後岩沢駅
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(c) Takuki Y. http://takuki.com


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