たくき よしみつ デジタルストレス王(キング) 鐸木能光

2009年6月2日執筆

ホッキョクグマと風車の絵

先日、WWFの会員をやめた。
WWFがこのところ二酸化炭素による地球温暖化説をさかんにPRしていることには失望していたが、それでも、全体として野生生物の棲息環境破壊を止める方向に少しでも機能しているのなら、毎年数千円の会費を納め続けることは無意味とは言えないだろうと思って、何年もの間、退会は見送っていた。
しかし、ここ数年のWWFのプロパガンダはあまりに異常で、ただのおっちょこちょいでやっているとは思えなくなってきた。
いちばん分かりやすいのは、誰もが一度は目や耳にしたことがあると思う「ホッキョクグマが絶滅する」という情報操作だ。
数年前からWWFは繰り返しこれを警告している。先日(2009年3月12日)も、また「気候変動や北極の急速な温暖化への対策を緊急にとらなければ、北極からホッキョクグマは絶滅する」という脅迫じみたアナウンスを行っている

ホッキョクグマが温暖化で絶滅するという話がいかに乱暴な情報操作かということについては、すでに多くのまともな説明がなされている。単純にデータを出せば、誰の目にも、これがいかに恐れを知らぬ嘘かは明白だ。
ビョルン・ロンボルグという統計学者(デンマーク)の著作『COOL IT!』(2007)の冒頭にホッキョクグマの話が出てくる。邦訳『地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す』(山形 浩生・訳、ソフトバンククリエイティブ)の「中身検索」がアマゾンで読める。 こちら


あるいは、濱田幸生さんのブログがとても分かりやすくこの情報操作を解説しているので、ぜひ一読してほしい。ほんの5分で、これから先もずっと騙され続ける人生を歩むのかどうかが決まるとしたら、重要な5分になるだろう。

リンク先にジャンプするのも面倒だというかたのために、この場でもダイジェスト的に解説しておくと……。

ホッキョクグマは、現在2万5000頭くらいいるらしい。
しかし、1960年代には世界で約5000頭にまで減っていた。生息数が減った主たる原因は、他の大型哺乳類同様、人間による狩猟だ。
その後、大幅に回復して、現在の2万5000頭にまで持ち直したのは、狩猟が規制されたから。
Googleで「ホッキョクグマ 狩猟」と検索すると、IFAW(International Fund for Animal Welfare)のページがトップで出てくる。(こちら
このページに、ホッキョクグマの生態や、人間の狩猟により絶滅寸前に追い込まれた歴史が解説されている。
要約すると、ホッキョクグマは狩猟によって数が減り、1800年代にはアラスカのセントマシューズ島で絶滅。その後も、アラスカでは航空機による狩猟で激減。
こうした事態を受け、1976年に「国際ホッキョクグマ条約」が締結され、ホッキョクグマが生息する地域の国は、ホッキョクグマの個体群の研究と管理に協力することが義務付けられた。
実際の制約のレベルや保護の対象は、国や州によって違う。
アメリカでは、「海棲哺乳類保護法(MMPA)」が1972年に履行され、アメリカ国民はホッキョクグマの狩猟記念品を米国内に輸入することができなくなった。
しかし、1994年にこの法律が改定され、カナダで趣味で仕留めたホッキョクグマの毛皮や体の(臓器以外の)部分の米国内への輸入は合法になった
カナダではホッキョクグマ猟の割り当てがあるのは先住民(イヌイット)だけだが、許可証を先住民ではない外国人に売ることができるという抜け道が用意されている。

さてさて、ホッキョクグマの生息数が減っているというニュースのソース元としては、IUCN(国際自然保護連合)のホッキョクグマ専門チームが2001年に発表した研究がよく出てくるが、この研究発表によれば、ホッキョクグマの個体群20グループのうち、半分以上は個体数は横ばい。増えているグループと減っているグループが数グループずつというもので、決して「絶滅の危機に瀕している」というような内容ではない。
最も詳細に生息数が観察されているハドソン湾西側のホッキョクグマを例にとれば、1960年代には500頭にまで追い込まれていたのが、1987年には1200頭に回復。その後、2004年には950頭にまで減ったが、個体グループ別の調査では、減ったグループは寒冷化した地域のクマだという。
で、この減少が仮に(百万歩譲って)温暖化のせいだとしても、17年で250頭だから、年に15頭くらい減った計算だが、この地域では毎年平均49頭のホッキョクグマが射殺されている。
他の地区も合わせれば、全体では300〜500頭が射殺されている。この中には、原住民が伝統的生活のために狩猟している数も入っているだろうが、狩猟許可証を原住民から買い取って、趣味のために狩猟している数も相当入っているだろう。
毎年、人間が射殺しているクマの数(平均49頭)が、全体の減少数(平均15頭)よりずっと多いのだから、人間が射殺しなければ、ホッキョクグマは今でも増え続けているわけだ。
WWFが本気でホッキョクグマの生息数減少を心配するなら、温暖化がどうのというでたらめを言う前に、原住民以外の外国人が狩猟許可証を買い取り、趣味でしとめたホッキョクグマの毛皮を国外に持ち出す(自国に持ち帰る)ことが合法化されたことに対して抗議し、射殺されるクマを救えばよい。それだけだ。

こうした具体的なデータが存在しているのに、意図的に歪曲し、都合のいい形だけで(5000頭が2万5000頭に回復したことは言わずに、1200頭が950頭に減ったことだけをグラフにしたりして)発表し、その最大原因を狩猟だと言わずに、もうすぐホッキョクグマは絵本の中にしか存在できなくなる、などというとんでもない話を作り上げる。
果ては、湾岸戦争のとき、アメリカの広告戦略会社がアメリカ政府の要請を受けて作った「油まみれの海鳥」の捏造映像と同じ手法で大衆をコントロールする。(このへんのことは、写真入りで解説している濱田幸生さんのブログが分かりやすい)
うかうかしている間に、世界はまた戦争前の情報操作社会になってしまった。

ちなみに、ビョルン・ロンボルグは、かつてはグリーンピースの活動家で、その後、コペンハーゲン環境評価研究所の所長に就任する。
彼は地球温暖化による環境破壊を警告しようと世界中から膨大な資料を集め、論陣を固めようとした。しかし、逆に、元の資料にあたればあたるほど、CO2による地球温暖化脅威論が間違っていることがどんどん明白になる。
ついには、自説が間違っていたと認め、1998年にデンマークの主要紙に記事を載せた。
それに対する学者たちの反発は大変なもので、デンマークだけでなく、欧州中のアカデミーを敵に回したような形になったが、彼はひるまず、2001年には『The Skeptical Environmentalist』(「懐疑的環境論者」。日本では、邦題『環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態』として2003年、山形浩生訳で文藝春秋から出版されている)を出版し、さらに大論争に発展する。

デンマークといえば、日本ではドイツと並ぶ「環境先進国」のイメージが強い。
世界的な風車メーカーVestasもデンマークの小さな機械工場から出発している。
そんな国で、グリーンピースから転身して、CO2温暖化論に異を唱えたロンボルグは、当然、孤立無援だ。
しかし、それでも日本よりははるかにマシだと思えるのは、彼がしっかり新聞紙上などで研究や記事を発表できたことだ。
日本ではどうか。
地球上の生命活動を支えているのは、生態系や自然現象の循環システムがエントロピーを宇宙に捨てる仕組みを持っているからである、という、人間が生きていく上で最も基本的で重要な科学を体系立てた「槌田エントロピー理論」で有名な槌田敦氏は、2009年5月27日、日本気象学会を提訴した。(経過や背景についての解説は こちら
これは、「CO2温暖化説には無理があり、むしろ因果関係は逆(気温が上がればCO2は増える)」とした槌田論文を、日本気象学会が再三にわたって掲載拒否をしたこと、学会の定期大会での講演申し込みも拒否したことに対しての精神的苦痛を受けたことに対するもの。
もちろん、「精神的苦痛」は訴訟の上での名目であり、意見や研究発表を封殺するという、アカデミズムにとって最も卑しい行為を告発する目的での提訴だ。
槌田氏は気象学会の会員であり、学会の定款は、会員が機関誌への論文掲載や定期大会での研究発表をする権利を認めている。
デンマークで、ロンボルグは少なくとも研究を発表し、問題提起ができたが、日本では「不都合な真実」を発表されては困るグループが、権力を使ってまともな意見や研究発表を封殺している。
やましいことがないなら、堂々と正しいデータを出して、正しいことを言えばよい。それができないので、メディアによる情報コントロールという手段に出る。

シロクマと風車の絵。
この二つは、当面、とても恥ずかしい図として記憶しておくべきだ。
シロクマの絵や写真を見たら、僕はこう思う。
きみたちは食物連鎖の最上位にいる、最強の肉食獣なんだってね。でも、人間の銃には勝てない。撃たれないように気をつけてね。
風車の絵や写真を見たら、僕はこう思う。
うわぁ、そばに行ったら頭痛くなりそう。こんなもので儲けようとする連中のために、貴重な資源が浪費されているのか。やりきれないなあ……。

さて、話を冒頭に戻そう。
WWFの会員を辞めた。その理由をWWFに告げたところ、以下のような回答が届いた。
(原文のまま引用)

温暖化、もしくは気候変動と呼ばれるものに対して、懐疑的である科学者の方々の中でも、地球の平均気温が上昇している事実そのものを否定する方々はもはやほとんどいません。人為的な二酸化炭素の排出が気候変動の原因であるということについては、未だに反論を持っておられる科学者の方々もいますが、そうした方々が示される仮説では、過去100年前から現在へかけての温暖化/気候変動を説明することができないというのが、世界の大多数の科学者の見解であり、主張の差異は縮まっております。

何より、温暖化/気候変動が進めば、まず最初に被害をうけるのは世界の生物的・社会的な弱者であり、たとえ一部の地域において(少なくとも初期は)便益が生じるとしても、この問題を放置することは、特に日本という豊な国に住む者としては倫理上到底許されることではなく、生物多様性の保全を掲げているWWFの使命からしても看過できるものではありません。

むしろ、この問題がとるに足らない問題であるという風潮を、一般の方々向けの書籍の中で、科学界ではすでに使い古された議論を書き連ねて世間を誘導しようとする方々がいることこそが、非常に問題であると考えております。穿った見方をあえてすれば、そうした方々は、ご自身の研究をもって、科学者としての議論で科学の世界で戦うことはせず、一般書において注目を集める主張を展開して目立つことで、主張を「売っている」とすらいえます。そのような方々が展開される主張は、自然保護を使命とする団体として、決して受け入れることはできません。



こう回答してきた担当者(おそらく文章からして40代以下の若い世代と想像する)が、巨大風力発電プラントが実際には発電事業全体にとってお荷物であり、エコカー売りまくり作戦よりずっと悪質な詐欺的経済行為であることに思い及ばないことは想像できる。
しかし、彼が、ホッキョクグマに代表されるデータ操作、とんでもない情報コントロールを知らないはずがない。なぜなら、WWFにとってはそれは専門分野であり、データを読み間違えるはずがないからだ。
となると、これはもはや、様々な組織の中で、多くの人たちのまともな理性的な判断が狂い始めているとしか考えようがない。
少し考えればおかしいと分かる程度のでたらめであっても、メディアが毎日言い続ければ、人間は洗脳されてしまうということなのだろう。あるいは、おかしいと思っても、それを言えない。言えば袋だたきにあうと思うと、不都合な真実にはなるべく目を向けず「これはもはや論争以前の常識だ」と、自分に言い聞かせる。詐欺師が自己暗示にかかるように、そのうちに、本当に自分でもそう思いこむ。
……これはまさに、戦前の日本に戻ったということだ。
「大東亜共栄圏の実現は、絶対的な急務であり、必然である」という論法で、不戦論者は特高によって次々に投獄されたり拷問されたりした時代。今まさに、あの社会が蘇ってきているのだと思うと、戦慄を覚える。

このところ、ネット掲示板やブログのコメント欄に、「風車の低周波健康被害はデマだ」という書き込みが大量に、かつ、一斉にされているという。おそらく、風力発電業者が動いているのだろうが、中には、洗脳されてしまった「善意の狂気」による行為も、少なからず入っていることだろう。
戦前の愛国青年団のように。

私たちは今、今までの方法で行き詰まった金持ち・権力者たちが仕掛けた「エコウォーズ」という戦争に巻き込まれている。この戦争に反戦・不戦を唱え、「もっと冷静になって、現実を見よう」と主張すると、逆賊として攻撃を受けるという社会に生きている。
かつての戦争前の社会より、ずっと巧妙に仕掛けられた、やっかいな情報コントロール社会に。





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