タヌパック短信 36

■石鹸シャンプーの謎(1)


 さて、石鹸生活の勧め三回シリーズの最後は「シャンプー編」という予定でしたが、この原稿を書くためいろいろと調べていくうちに、実に興味深い事実が次々に分かってきました。とても一回では書ききれないので、何回かに分けて書きます。
 そもそも、久々に石鹸を語ろうと思ったきっかけは、最近、非常に優秀な石鹸シャンプーを見つけたことにあります。松山油脂合名会社(東京都墨田区)の「アミノ酸石けんシャンプー」という商品で、今まで使ってみたどんな石鹸シャンプーよりも洗い上がりが気持ちよく、「これだ!」と惚れ込んでしまったわけです。
 このシャンプー、まずパッケージングが簡素で、うちの近所の大型ドラッグストアでは、詰替用のものしか置いてません。有害廃棄物にならない容器(一応、ねじ式の蓋がついていて、別容器に移し替えなくても使える)に単色刷の説明文が印刷されているだけ。
 その説明文はこんなものです。

●豊かな泡立ちとさっぱりした使用感が特徴のパーム核油せっけんに、皮膚刺激を抑える目的でアミノ酸せっけんを配合。環境性と安全性をベースに、頭髪と頭皮だけではなく、肌にもマイルドな無添加タイプのせっけんシャンプーです。
●合成界面活性剤やパラベンをはじめ一切の表示成分を含んでいないため、肌の弱い方や赤ちゃんにもお使いいただけます。
●品質を保つために、イオン交換水を使用しています。
●洗浄成分は天然の原料だけを使用。流されたせっけんは微生物によって生分解され、自然環境を守ります。


「石鹸シャンプー」と謳っている商品でも、合成洗剤が配合されているものがいくつかあります。石鹸成分を少しでも入れてあれば「石鹸シャンプー」と表示してしまうわけです。
 ちなみにボディソープや液体せっけんなどという商品も、純粋な石鹸である場合のほうが圧倒的に少ないのです。
 で、僕がひっかかったのは「アミノ酸せっけん」なるものの正体でした。
 石鹸というのは、「高級脂肪酸塩」のことを指し、主に植物性油脂や動物性脂肪の鹸化によって得られます。
 実際には脂肪酸ナトリウムか脂肪酸カリウムのことで、それ以外のものは普通は石鹸とは呼べません。
 そこで、松山油脂に電話をして「アミノ酸せっけんとはどういうものですか?」と訊いてみたのですが、電話に出た女性は、「研究室の者に訊かないと分かりません」とのこと。そこで、FAXに質問項目を記して送ることにしました。こんな内容です。

1 そもそも「アミノ酸せっけん」とはどういうものでしょうか? 「パーム核油せっけん」は、「椰子の実油を原料にした石鹸」ということでいいのですよね? 「石鹸」とは、脂肪酸ナトリウムか脂肪酸カリウムのことだという認識を持っておりますが、「アミノ酸せっけん」というのは、何かそれ以外のものの通称なのでしょうか? 原材料による呼称の違いということでしょうか? それとも製造法による違いでしょうか? 脂肪酸ナトリウム/カリウム以外のものだとしたら、正式名称はあるのでしょうか?
2 石澤研究所の「ISL植物シャンプー」に、「洗浄成分中、せっけん90パーセント、植物性アミノ酸10パーセント」という説明があります。これもよく分からないのですが、貴社製品の「アミノ酸せっけん」はこれと同じものと解釈してよろしいのでしょうか? この「植物性アミノ酸」が「洗浄成分」となるという意味がよく分からないのですが。
(以下略)


 会社に電話をし、このFAXを入れたのは二月十三日のことでした。回答があったのは四月六日です。
 二か月近く反応がなかったので、これはもう回答はないだろうと思い、自分でインターネット等を通じて調べていました。すると、石鹸と合成洗剤に関するQ&Aコーナー(書き込みができる掲示板)や、石鹸製品について詳細なリポートをしている網頁がいくつかありました。
 そこで得た情報。
 まず、メーカーは不明ですが、生協などで売られている「石けんシャンプー」の中に、「アミノ酸石鹸」を謳った商品があり、そこには「洗浄剤・ラウロイルサルコシンナトリウム(アミノ酸石けん)」という記載があるとか。
「アミノ酸せっけん」の正体はこれだったのか? だったら、「アミノ酸石鹸シャンプー」に表示されている「合成界面活性剤やパラベンをはじめ一切の表示成分を含んでいないため~」という文は虚偽なのか? 
 もしかして、あの文は「表示成分であるパラベンや合成界面活性剤は含んでいない」という意味で、表示成分(指定成分)以外の合成界面活性剤は含んでいるという意味なのか?
 花王やライオンなどの大メーカーに騙されるならともかく、墨田区の小さな石鹸工場よ、おまえもか……。
 暗澹たる気分になりましたが、実は松山油脂は「シロ」だったのです。
 結論を先に言っておくと、アミノ酸せっけんシャンプーは「石鹸」でした。いわゆる合成界面活性剤は含んでいなかったのです。その点で、「洗浄剤・ラウロイルサルコシンナトリウム(アミノ酸石けん)」と謳った他社製品とは一線を画するものです。
 以下、詳細は次号にて。
 
 

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