『日本のルールは間違いだらけ』(講談社現代新書) 立ち読み版

日本のルールは間違いだらけ    書 名:『日本のルールは間違いだらけ』(講談社現代新書)

   種 別:新書 256ページ
   著 者:たくき よしみつ
   版 元:講談社、2009.10
   価 格:740円+税
   ISBN :978-4-06-288017-6
   


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クイズ「世の中こんなにいい加減だった!」

 テレビをつければ毎日エコだのCO2だのの大合唱。おまけに画面の右上にはだいぶ前から「アナログ」なんて目障りな文字が出たまんま消えないし、一体どうなってんだ、この国は! とご立腹の皆様、こんばんは。
 世の中がいい加減だったり不真面目だったりインチキだったりするのは、何も今に始まったことではございません。コンビニで買ってきた100円ビール……あ、正確には「第3のビール」でも飲んで一息入れましょう。
 クイズ「世の中こんなにいい加減だった!」の時間です。
 おバカなルールが生み出すいい加減な世の中を、クイズに答えながら笑い飛ばしましょう。今日の解答者は、足立区からお越しの島岡次郎さんです。島岡さん、こんばんは。

「はいよ、こんばんは」

 島岡さんは左官業を営んでおられるそうです。頭のバンダナがお洒落ですね。

「手ぬぐいってんだよ、これは。現場終わってそのまんま来たもんでね」

 そうですか。商売ご繁昌のようでなによりです。では島岡さんへの第1問です。
■第1問・島岡次郎さんは昭和22年生まれの62歳だそうですが、では、現在の日本に、昭和22年以降の昭和時代に生まれた「島 岡次郎」という人はひとりもいない。○か×か。

「あ〜、ちょっとちょっと。その問題、おかしくね? 現実に俺、島岡次郎はここにいるわけでね。島岡次郎。昭和22年4月1日生まれ……」

 いえ。島岡・次郎さんではなく、島・岡次郎さんです。姓が島で、名前が岡次郎。岡山県の岡にジョン万次郎の次郎です。

「島・岡次郎? わざわざ俺の名前にかこつけた問題を作ってくれたってわけか。ご苦労さんだね。だけどまあ、こりゃ簡単だよ。なんとかはあるかないかってクイズの答えは、大体『ある』なんだよ。なぜかってえと、『ある』ってえのは実例を示して証明できるけど、『ない』ってことを完全に証明することは大変だからな。後でよく調べたら出てきたとか、そういうことがあるからよぉ。だから、この問題は×だね」

 ファイナルアンサ〜?

「うわぁ、それ言うのかよ? 照れるね。はい、はい、ファイナルアンサー」

♪ぶ〜〜〜! がちょ〜ん
 残念! 答えは○。島 岡次郎さんという人は昭和22年以降の昭和生まれの人にはひとりもいません。

「え? なんで? 日本全国虱潰しに調べたんか?」

 いえ、調べていません。でも、いないんです。なぜなら、戦後すぐの1946年(昭和21年)に当用漢字が制定されて以降、当用漢字にない字は名前に使えなくなりました。それでは不自由だということで、人名用漢字というものが何度かに分けて制定されましたが、「岡」という字が人名用漢字に収録されたのは、5年前の2004年9月のことです。ですから、1946年12月から2004年8月までに生まれた人の中に、「岡」という字を使った名前の人は一人もいないはずなんです。岡次郎さんだけじゃなくて、岡太郎さんも岡子さんもいません。

「え? 『岡』なんて、誰でも読める漢字じゃねえかよ」

 はい。ですが「岡」は当用漢字の後を受けた常用漢字にも入っていません。その代わり、遵・殉・恭・璽・匁・虞・朕・謁・彰・顕……といった漢字は常用漢字なんです。島岡さんは「璽」って読めますか?

「読めねえよ。それ漢字なのか?」

 では第2問です。
■第2問・衆議院議員選挙において、ある小選挙区で、当選者A候補は9万7000票を取りました。次点のB候補が6万5000票で惜敗率67%、最下位のC候補が3万3000票で惜敗率34%だったとします。惜敗率というのは、当選者の得票数に対して何%の票を得ていたかという数値です。次点のB候補は比例区で重複立候補していて、名簿登載順位は1位。最下位のC候補も比例区で重複立候補していて、名簿登載順位は3位でした。さてこのとき、次点落選のB候補が復活できずに落選、最下位で、惜敗率もB候補の半分しかないC候補が復活当選して見事国会議員になるということはありえる。○か×か。

「結局『璽』の読みはスルーかよ。まあ、そんな字、一生読むこたあねえだろうがな。で、なんだって? 今の問題。ややこしいな。Bは惜敗率67%で比例区名簿登載1位、Cは惜敗率34%で名簿登載3位なのね? で、Bが落ちてCが復活当選することはあるかと……。あっちゃあおかしいだろ、そんなもん」

 ということは×ですね? ファイナルアンサ〜?

「また来たよ。はいよ。×だね。ファイナルアンサー」

♪ぶ〜〜〜! がちょ〜ん

「え? またはずれ? しかしダセえ効果音だな、がちょ〜んって」

 残念。これは2003年の衆院選のとき、大阪13区で実際にあったことです。公職選挙法って面白いですね。では次です。
■第3問・電車のレールとレールの間の長さを軌道幅といいます。自動車のタイヤとタイヤの間の長さはトレッドといいます。そこで問題です。山手線の軌道幅は、軽自動車・ワゴンRのトレッドよりも狭い。○か×か。

「軽自動車? ああ、うちの車も軽トラとワゴンRだよ。金ねえからなあ。軽自動車こそ究極のエコカーだよ。な〜にがハイブリッドだよ。あんな200万もする車、庶民は買えねえよ。大体、日曜にしか運転しねえようなやつがエコカー乗ってますって威張りくさって、笑わせるなっての。俺みてえに、仕事で毎日乗らなきゃなんねえ人間は軽なの。田舎もそうだよ。軽自動車こそ、日本を支えてきた究極のエコカーだっつ〜の」

 ファイナルアンサー?

「馬鹿か。まだ答えてねえよ。えーっと、あんたら知らんだろうがね、今の軽は広いよ。昔の軽とは違うからね。広々快適空間ってやつよ。でもよ、座席が2つ並んでいるだけだからな。電車とは比較にならんわな。そりゃまあ、山手線のレール幅のほうが広いだろ。だから……×か」

 ファイナルアンサー?

「はいはい。ファイナルアンサーだよ。今度こそピンポ〜ンだろ?」

♪ぶ〜〜〜! がちょ〜ん

「嘘だろ〜。軽自動車のトレッドのほうが山手線の軌道幅より広いってか?」

 そうなんです。山手線のレールとレールの間は1067ミリ。1メートル6センチ7ミリです。一方、軽自動車のワゴンRのトレッド、タイヤとタイヤの間は前輪で1295ミリあります。1067ミリより狭いトレッドの軽自動車は現在生産されていません。
 というわけで、残念ながら島岡さんの成績は3問全問不正解。残念賞として、講談社より、現代新書の新刊『日本のルールは間違いだらけ』を差し上げます。
 福知山線事故は大隈重信の責任か? 世にも怪奇な物語「やまいちおんなの幽霊」とは何か? 「自公政権は本当なら2003年に終わっていた」というのはどういうことか? トルコ共和国からの留学生ヌスレット・サンジャクリさんの主張が日本の歴史を変えたドラマとは何か? 実に面白そうな話が満載です。本日のクイズの解説も、この本を読むと、さらによ〜っく分かります。

「おいおいおいおい。これって、もしかしてその本の……」

♪ぴんぽ〜ん!


(月刊『本』 2009年11月号掲載)


『日本のルールは間違いだらけ』 内容紹介

■はじめに
 日本人は几帳面で、ルールをよく守る国民だと言われる。確かに、実に細かいことまで決まりを作り、一旦決めたことは律儀に守ろうとする。
 しかし、「そもそもルールが間違っている」としたら?
 我々が日頃、信頼しきっている規制や規格が、驚くほどいい加減だったり、当然のことと思っている常識に、なんの根拠もなかったりすることは少なくない。
 例えば、信号機。青から黄、赤に変わるときのタイミングは交差点によって違う。これはドライバーなら経験的に知っているが、それだけでなく、地域によって変化の「法則」そのものが違う。右折可の青矢印から赤に変わる際、一旦黄色を出す信号と出さない信号があるのだ。私はこの「曖昧信号機」に殺されかけたことがある。
 ワープロやコンピュータで日本語を扱う時代になり、1978年に最初のJIS漢字規格が制定されたが、収録された6355字の漢字のうち、実に1%にあたる60以上の漢字は、漢和辞典にも載っていない「嘘の字」である。
 従来、出版物に陰毛の写った写真を掲載すると摘発されたが、1991年に、突然この規制が事実上消滅するという説明不能の事態が起きた。お上が「今日から陰毛の写ったヌード写真を解禁します」と決めたわけではない。なし崩し的に起きたこの珍事は、どう説明できるのだろうか。

 律儀な国民性ゆえか、この国では、本来「手段」であるルールそのものが目的化してしまうことがよくある。
 時代の流れや状況の変化によって目的を達成できなくなったルールは、その運用方法も含めて変えなければならない。しかし、ルールの制定や運用に携わっている責任者たちは、単に「これは規則だから」と繰り返すばかりで、それ以上のことをしようとしない。
 また、政治家や官僚に代表される権力者たちは、自分たちの都合のいいようにルールを作り、あるいは変更する。それができない場合は、ルールの解釈を歪曲させたり、曖昧に適用したりする。
 曖昧さがすべて悪いとは言わない。曖昧な世界ゆえの心地よさもあるだろう。
 子供が生まれると神社にお参りに行き、結婚はキリスト教会で挙げ、死ぬと坊さんから戒名をもらう。こういう曖昧さ、いい加減さは、平和の極意かもしれない。宗教を巡って殺し合いをするよりはずっといい。
 ただでさえ閉塞感が漂い、息苦しいこのご時世、キツキツの説教はごめん被りたい。
 でも、曖昧精神でなんでも乗り切れると思うと大やけどをするだろう。そろそろ取り返しのつかない破綻が目前まで迫っているんじゃないだろうか。
 5000万件の年金データが消えました。ごめんなさいね……で済んでいるのを見ても、これはもう、「曖昧な国民性」などと呑気なことを言っている場合じゃない。いくらなんでも限界を超えている。

 というわけで、このへんで少し「我に返って」みてはどうだろうか。
 我々を取り巻くものが、いかに欠陥だらけのルールで運用され、あるいは曖昧なままに放置されているのか、ごく日常的な問題から少しずつ確認してみよう……というのが本書の趣旨である。小さなほころびを起点にしていろいろ調べていくと、見落としていたこと、知らなかったことがたくさん出てくる。
 また、ルールの欠陥にはいくつかのパターンがあることにも気づく。
  1. そもそもそんなルールは必要がない
  2. ルールに明らかな間違い(バグ)があり、使いものにならない
  3. ルール制定時に将来を見通せなかったために、現代では通用しなくなった
  4. ルールそのもの、あるいはルールの解釈が曖昧で、まともに運用できていない
  5. ルールの目的や成立過程に悪意や作為があり、公正・公平でない

 欠陥ルールを検証していくと、大体この5つのパターンのどれかにあてはまる。「愚ルールの五法則」あるいは「ルール五悪の法則」とでもしておこうか。これを軽く念頭に置いて読んでいただくとよいかと思う。

 本書では、我々が日常生活をする上で避けては通れない身近なルールを中心に論じている。日本語、交通、風俗、法律、選挙……。どれも普通に接しているものだが、身近すぎるために、その大きな欠陥に気づきにくい。
 まさかこんなことになっていたとは……という発見がたくさん登場する。
「面白く」読んでいただけると確信しているが、読み終えたあなたが、楽しいと感じるか、怖ろしいと感じるか、怒り出すか……そこまでは分からないし、責任を持てない。
 法律論や学術書ではないので、その程度の「曖昧さ」は、どうぞお許し願いたい。

■目次

はじめに

第一章 日本語のルールはこんなにおかしい

「筆順」をテストされるケータイ絵文字世代
ローマ字が書けますか?
OHNOかONOか?「大野」家の家族会議
クイズ 常用漢字はどれ?
糞太郎という名前
「掴」という字は誰が作ったのか
JIS漢字の1%は「存在しない」文字
「つちよし」の無念・「はしごだか」の反乱
失われた年金にも絡んでいた「コードのバグ」

第二章 交通ルールのバグで殺される

信号機に殺される
「左側通行」ルールで日本はどれだけ損をしたか
左ハンドル車崇拝という恥ずかしい歴史
日本では危険な左ハンドル車
自分の通勤電車の軌道幅を知っていますか?
福知山線事故は大隈重信の責任?
上越新幹線脱線事故は「賞賛されるべき」事故だった

第三章 性風俗は曖昧ルールの九龍城

「風俗」って何?
あるトルコ人青年の主張
店舗型風俗店が消滅すれば重大犯罪が増える
裸の革命戦士・樋口可南子
「猥褻」を司法が判断する愚
殺人に使われた包丁を作った職人は罰せられるか?
Winnyは本当に「悪魔のソフト」なのか?

第四章 法律はお上のご都合次第

メーカーの製品開発力を殺した酒税法
消費税内税表示義務化の闇
「電気用品安全法」という名の大量破壊兵器
成敗されたPSE法

第五章 公職選挙法という不条理

2009年の衆院選挙で民主は本当に「圧勝」したのか?
自民党大物候補たちを救った日本共産党
自・公政権は本当なら2003年に終わっていた
幸福実現党12億円、共産党6億円の供託金没収
共産党候補に出てもらわないと困る自公連合
参院選比例区におけるタレント候補の役割
ネット上での言動を禁止される政治家たち
ネット時代の新公職選挙法はかくあるべし
あなたの1票は本当に「1票」の価値を持っているか?

あとがきにかえて──裁判員制度は無理である


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