オリンピックネタが続いたので、気分を変えて趣味の話を……と、デジタルカメラ談義を書いたのだが、読者のかたからいただいたメールを読むうちに、「フィギュアの採点」について、またまた書いてしまった。
しつこくてごめんなさい。僕も飽きているんです。来週はもうちょっと軽い話にしますんで、今週1回だけご容赦を。
読者のかたから、前々回の「人が人を採点することの難しさ」の中にあった文章についてクレームをいただいた。
書き方が雑で不正確だったので、謹んで以下のように訂正したい。
「より多くの審判から、他の選手より上の評価を得た選手が1位となる」。
え? 意味が分からない? ……確かに。ほんとに難解だ。
単純化すれば、「より多くの審判から1位だと認められた選手」ということなのだろうが、実際にはもっと複雑な手順を踏む。(最後に「参考」として資料的に付け加えたので、興味があるかたは参照してください)
ポイントは、
- 審判の点数の合計では順位が決まらない
- 各審判ごとに選手の相対順位を出し、それが審判別の順位点となる
- 各審判の順位点が平均されて総合順位点が出るわけではない
ということだ。
ほんと、しつこくなるが、前回の「スポーツの『勝負』とは何なのか?」でも書いた、今回のソルトレーク五輪女子フィギュア・シングルの結果をもう一度引き合いに出してみる。
優勝したサラ・ヒューズ選手のフリー演技での合計点数は103.8点(技術点52点+芸術点51.8点)で、2位のスルツカヤ選手の合計点数は103.9点(52.1点+51.8点)だった。芸術点では同点。技術点では0.1スルツカヤのほうが上回るので、審判が出した点数の合計で競うなら、フリーだけをとってもスルツカヤのほうがヒューズより上にくる。
(正式には技術点=テクニカルメリット、芸術点=プレゼンテーションというが、長いので便宜上こう表記しておく)
選手 |
|
審判1 |
審判2 |
審判3 |
審判4 |
審判5 |
審判6 |
審判7 |
審判8 |
審判9 |
合計点 |
サラ・ヒューズ(アメリカ) |
技術点 |
5.7 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.7 |
5.8 |
5.8 |
52.0 |
芸術点 |
5.7 |
5.7 |
5.8 |
5.6 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
51.8 |
合計点 |
11.4 |
11.5 |
11.6 |
11.4 |
11.6 |
11.6 |
11.5 |
11.6 |
11.6 |
103.8 |
順位点 |
1 |
4 |
3 |
4 |
1 |
2 |
1 |
1 |
1 |
1 |
イリーナ・スルツカヤ(ロシア) |
技術点 |
5.7 |
5.8 |
5.9 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.8 |
5.7 |
5.8 |
52.1 |
芸術点 |
5.6 |
5.9 |
5.9 |
5.8 |
5.6 |
5.9 |
5.7 |
5.7 |
5.7 |
51.8 |
合計点 |
11.3 |
11.7 |
11.8 |
11.6 |
11.4 |
11.7 |
11.5 |
11.4 |
11.5 |
103.9 |
順位点 |
3 |
1 |
1 |
1 |
4 |
1 |
2 |
3 |
2 |
2 |
上の表のように、ジャッジ別の順位点を並べると、ヒューズは1位が5人、2位・3位が1人、4位が2人。
一方のスルツカヤは、1位が4人、2位が2人、3位が2人、4位が1人だった。
これも単純に平均値を取れば、どちらも2.0ちょうどになるが、ヒューズのほうが1位を集めた人数がひとり多かったから勝ったわけだ。(実際には備考に記したようにもっと複雑な算出法だが、大まかに言えばそういうことになろう)
これこそまさに、「ジャッジひとりが1位を出すことの意味」がいかに大きいかという端的な例だろう。
(ちなみに、ヒューズを4位とした審判2人は、共にスルツカヤを1位としていて、逆に、スルツカヤを4位とした審判はヒューズを1位にしている)
フィギュアでは、出た点数を横に見ていても意味がなく、審判個人の点数を縦に見ていく(その審判が各競技者に最終的にどういう順位をつけたか)ことをしないと、結果が読めない。その「ひとりの審判が1位を出す」という結果については、(当たり前のことだが)その審判が完全に自分ひとりでコントロールできるわけだ。
また、(これは極めてうがった味方ですが)「高得点を出しても結果的には1位にさせないという微妙なコントロール」も可能だろう。あからさまに低い点数を出せば目立ってしまうが、一見高い得点を出したように見せて、結果として順位点は下げるという高度な「計算」もできるわけだ。
技術点と芸術点の合計が同じ場合、芸術点が高いほうが上とみなされる。
A、B、Cという3選手に
|
A選手 | B選手 | C選手 |
技術点 |
5.8 | 5.7 | 5.6 |
芸術点 |
5.6 | 5.7 | 5.8 |
……とつければ、合計点は同じ11.4だが、芸術点が高いC選手が1位に、A選手は3位になり、天と地の違いだ。
フィギュアの採点方法は実に難解であり、これを細部まで一般人に理解させるのは不可能だろう。フィギュア通の人は、それを理解していることで一種優越感を持てるかもしれないが、一般には「分かりにくさ」は不透明性の印象を増すばかりという結果にもなりかねない。
特に今回のヒューズの優勝は、獲得した点数から説明しても、万人が納得できるシステムとは言えないのではないだろうか。
……というのが、前回書きたかったことだ。
もちろん、これはあくまでも私個人の意見なので、現行のフィギュアの採点方法や順位点のルールを「フィギュアの醍醐味」であり、守るべき個性であるというご意見があっても、それはご自由だし、そのへんの部分で論争を展開しようという意図はまったくない。ましてや、「スルツカヤに金メダルを」とか、「採点に疑惑があった」などと言っているわけではないので、どうか誤解のないよう、お願いしますね。
さ、来週は絶対に軽い話を書くぞぉ。(もう書いてある)