たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年1月16日執筆  2004年1月20掲載

専守防衛と戦車

先週に引き続き、自衛隊の話。

自衛隊がイラクに持っていくという兵器を写真で見た
文字ではなく、こうして写真で見せられると、なるほど「戦地」に行くのだなあと分かる。
今回のことで、いよいよ日本が海外で戦争をする一里塚を築こうとしていると危機感を抱いているのは僕だけではないと思うが、実際には自衛隊はとっくに戦争に参加しているのだという指摘もある。多くの日本人がそれを自覚していないだけなのだろう。

先週のこのコラムで、自衛隊に戦車は必要なのかということを少しだけ書いた。
島国日本で、戦車が登場するような野戦が起きる可能性はあるのか。
自衛隊の戦車のうち何台がどこに配備されているのか、正確には知らないが、北海道や富士山裾野の演習場などに多そうだ。そもそも日本には戦車が幅を利かせられるような場所が少ない。
戦車が対峙するものは、やはり戦車を中心とした陸軍だろう。空軍ではない。
となれば、専守防衛を大原則とする自衛隊が戦車を持つということは、日本に外国の陸軍が上陸する可能性があるということになる。
誰が、どこから、どうやって?
北海道の戦車は、外国軍が北海道に上陸してきたときに迎え撃つためのものなのか?
そういう可能性を、国の偉い人たちは本気で考えているのか?

島国日本に戦車を上陸させるには専用の船が必要である。
陸上への兵力展開を主目的にした軍用輸送艦のことを、強襲揚陸艦というそうだ。
陸戦用兵士と付随装備、戦車や重砲、あるいは攻撃用ヘリコプターなどを搭載できる。
そういう船が日本のどこかに着岸し、そこから軍隊が上陸してきて初めて、自衛隊の戦車の敵となりうるものが日本国内に現れる。
くどいようだが、そういう事態がありえるのだろうか?
第二次大戦のときでさえそうはならなかった。爆弾の雨を降らせられ、核爆弾2発でとどめをさされた。あんな悲惨な経験をしていながら、分からないはずはない。
陸続きのヨーロッパなどとは違って、日本は海に囲まれている。そこにわざわざ船で戦車を運び込むような戦争を、誰がまともに考えるだろうか。
百万歩譲ってありえたとしても、それを自衛隊の戦車がどうやって迎え撃つというのか?
どこかの海岸に敵の戦車や歩兵軍団、海兵隊が上陸したとして、自衛隊の戦車はそこにすぐ到着できるのか? (どう考えても空から行ったほうが早そうだが)
いや、百万にひとつ、日本に外国軍の戦車が上陸することがあるとしたら、そのときはすでに日本全土が完全白旗状態であるに決まっている。

日本国内で自衛隊の戦車が外国軍を相手に「活躍する」状況はまずありえない。物理的に考えてありえない。
しかし、その逆はありえる。
自衛隊の戦車を海外に持ち込むことは、物理的に可能だ。
戦車を陸揚げできる船を揚陸艦というと書いたが、自衛隊はこの種の船を持っている。
「揚陸艦」と「おおすみ」あるいは「しもきた」という組み合わせでキーワード検索を行えば、情報がたくさん出てくる
ちなみにこの「おおすみ」型揚陸艦は、LCACという、戦車を陸揚げできるホバークラフト型の上陸用船艇を2隻搭載できる船内ドッグを持ち、ヘリコプター空母にも改造可能という船だが、表向きは単に「輸送艦」と呼ばれている。

自衛隊は海外で戦闘行為をする外国軍に燃料補給などの支援をしてきた。
自衛隊は今回、人道支援という名の下に海外に兵器を持ち込む。
自衛隊は戦車を持っている。
戦車は日本国内で使うことはまずありえない。
自衛隊は戦車を上陸させるための揚陸艦も持っている。

……さて、この次にくるものは何か?
普通に考えていけば誰でも見当がつく。

自衛隊が合憲かとか、イラクに派遣される自衛隊員の命は安全なのかとか、そんな議論を繰り返す前に、もっと明白な事実を直視し、追及すべきではないか。
自衛隊の戦車はなんのためにあるのか?
戦車を運ぶ船はなんのためにあるのか?

戦車も揚陸艦も、日本人がお上に納めた税金が使われている。日本国民はそれを許している。
この期に及んでも、多くの日本人は、日本が戦争に加担することに対して、極めて無自覚だ。
かつて日本がアジアを侵略したときも、「支援」という言葉が使われた。可哀想なアジアの国々を助けてあげるのだ、と説明された。
あるいは「防衛」という説明もされてきた。国を守るために戦うという論理。
○○が欲しいから攻撃しますよ、といって始める戦争はないのだ。

2つの狛犬
■2つの狛犬
左は台座に「大東亜戦完捷祈願」と刻まれた昭和17年建立の狛犬(福島県東白川郡棚倉町八幡神社)、右は同じく「(サンフランシスコ)講和記念」と刻まれた昭和26年建立の狛犬(同じ棚倉町・御霊神社)
(c)狛犬ネット(http://komainu.net)



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