たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2004年7月16日執筆  2004年7月20日掲載

参院選比例区の研究

7月11日の参院選は、民主党が一応「勝った」という形にはなっているが、現実には何も変わりそうもないという結果となった。
直前予想では、「自民大敗45議席・民主躍進57議席(推薦含)」という予測を出したところもあるし、当日11日の日中には「テレ朝出口調査では自民46で惨敗。日テレ出口調査でも47で惨敗。小泉首相退陣も」などという速報がネット上を駆け抜けた。
結果はそこまで行かず、自民党は49議席。改選議席をわずかに下回っただけ。公明党は改選議席10議席に1議席上乗せして11議席にしたので、与野党の勢力図としては選挙前と何も変わらない。これは、結果としては「与党の勝利、野党の敗北」と言っていいだろう。

民主党が増やした議席は、野党内の勢力図を多少書き換えたにすぎない。
共産党は前回の衆院選同様、選挙区では1議席もとれなかった。全選挙区に候補者を立てて自公候補をアシストしたという構図は今回も変わらない。
前回の衆院選後に書いた「『与党218 対 野党262』という試論」には大きな反響があった。
共産党票が死に票を大量生産して現政権を結果的にアシストする構図は今後も続くようなので、今回はいちいち書かない。その代わり、参院選独自の比例区について考えてみた。

ご存じのように、参院選の比例区と衆院選の比例区はルールがまったく違う。衆院選では党があらかじめ用意した名簿順に当選者が決まっていくので、事実上、比例区リスト上位記載者は、選挙をやる前から当選が決まっている。
一方、参院選比例区では、投票者は「政党名または候補者名」を書く。当選はそれらを合計して「党」が取った総得票数によって配分されるが、当選順位は個人名投票の得票順に決まっていく。だから、党がどんなに当選させたいと思っても、人気のない人は当選しない。
逆に、個人的に知名度・人気の高い候補者を揃えれば、党全体の得票数が増えるため、比例区にはタレント候補や話題の候補を揃える傾向がある。

批判を怖れずに言えば、「タレント候補」と呼ばれる人たちは、自分が当選することよりも、本来必要な得票数にいかに上積みし、他の候補を当選させられるかに存在意義がある。党は、比例区候補として擁立したプロスポーツ選手やタレントたちに議員としての資質を期待しているわけではない。その「有名人」がどれだけ票を集め、党全体の票を伸ばせるかという点だけに期待している。
今回、タレント候補と呼ばれた人たちは、その役割を果たしたのだろうか?

それを見る前に、まず、各党別に「個人名で投票した人/党名で投票した人」の比率を出してみた。以下のようになる。1行目2行目は、

党名 比例区における当選者数(改選議席数)
総得票(党としての得票率)

である。

自 民 当選15(改選数17)
16,797,687票 (30.03%)
政党名での得票 11,604,565
個人名での得票 5193122
個人名比率 0.309

民 主 19(14)
21,137,458票 (37.79%)
政党名での得票 17,345,037
個人名での得票 3,792,421
個人名比率 0.179

公 明 8(7)
8,621,265票 (15.41%)
政党名での得票 2,490,182
個人名での得票 6,131,083
個人名比率 0.711

共 産 4(8)
4,362,574票 (7.80%)
政党名での得票 3,782,176
個人名での得票 580,398
個人名比率 0.133

社 民 2(2)
2,990,665票 (5.35%)
政党名での得票 2,054,295
個人名での得票 936370
個人名比率 0.313

……こうなる。
改めて驚くのは、公明党への投票における「個人名投票率」の高さである。71%というのは、民主党(18%弱)の3倍以上、共産党(約13%)の5倍以上だ。
公明党がいかに統制のとれた選挙をしているかということの現れだろう。
また、今回の場合、自民党が激戦区で公明党に選挙協力をしてもらう見返りとして、比例区では公明党候補者に入れてくれというような指令がだいぶ飛び交ったらしいから、その結果も反映されているのだろうか。比例区に「公明党」と書くのは抵抗がある自民支持者も、個人名ならそれほど抵抗がなかったのかもしれない。
ちなみに公明党比例区で当選した8人の得票数を見てみると、

浜四津 敏子 1,822,283
弘友 和夫 996,188
谷合 正明 835,983
荒木 清寛 816,115
風間 昶 787,886
浮島 智子 773,749
浜田 昌良 33,310
鰐淵 洋子 17,173

……となる。
6位浮島候補と7位浜田候補の得票差はなんと74万票!もある。
恐らく、公明党は事前に「比例区6人当選」を目標にしていて、6人についてはきっちり票割りの指示を出していたが、残りは「あわよくば……」という目論見だったのだろう。
鰐淵候補の17,173票というのは、もちろん、比例区・選挙区を通じて、ダントツの最低得票数当選である。公明党がいかに今回の選挙で「大勝」したかを如実に示している。

自民党と民主党を比較してみると、自民党の個人名投票率は31%、民主党は18%で、自民党のほうがはるかに「個人名投票」が多い。
実際には、1位竹中平蔵候補の722,505票の次は秋元 司候補の305,613票で、「有名人候補」として集票マシン的活躍ができたのは竹中氏ただひとりだったようだ。
一般に知名度が高いと思われる候補たちだけの結果を拾ってみると、

党内順位 候補者名   得票数  自民全得票数における割合
1位   竹中 平蔵   722,505  0.0430
6位   山谷 えり子  242,063  0.0144
9位   荻原 健司   194,854  0.0116
----------------------------------------------------
16位   神取 忍    123,521  0.0074 (落選)
23位   古葉 竹識   96,789  0.0058 (落選)

荻原氏などは早速と当確が打たれていたが、結果としては15人の当選者中9位で、「平均点以下」の成績。党が彼に期待した集票マシンとしての役割は見事に裏切られた。落選した神取氏や古葉氏にいたっては、むしろ「有名人を出してくればいいというもんじゃない」という反感を買い、マイナス効果しかなかったのではないか。
今回の比例区では、タレント候補と呼ばれる人たちはずいぶん減ったようだが、これを機に、立候補させるほうも投票するほうも、次からはもっと冷静になってほしいものだ。

ところで、「有名人度」では、北海道選挙区の鈴木宗男候補、大阪選挙区の辻元清美候補には大変な注目が集まった。二人とも落選はしたものの、実は獲得票数はハンパではない。

北海道選挙区
4位 鈴木 宗男 485,382  0.1746 (落選)
(選挙区全投票数 2,778,472)

大阪選挙区
4位 辻元 清美 718,125  0.1967 (落選)
(選挙区全投票数 3,650,632)

北海道選挙区で投票した人の17%強が鈴木候補に、大阪選挙区の約20%(5人に1人)が辻元候補に投票しているのである。
仮に、鈴木候補の獲得投票数48万5000票あまりを比例区にもっていけば、自民党では1位の竹中平蔵候補722,505票に次いで第2位である。
辻元候補の71万8000票あまりは、社民党党首・福島瑞穂候補の640,832票より多い。
また、日本全国で「竹中平蔵」と名前を書いた人と、大阪府内だけで「辻元清美」と書いた人がほぼ同数だったということでもある。もちろん、辻元候補の「72万票で落選」は、最多得票数落選である。
皮肉な話だが、もし自民党が鈴木宗男候補を、社民党が辻元清美候補をそれぞれ公認して比例区に立てていたら、(もちろん、反感マイナス票効果もあるに違いないが)「集票マシン」としての役割は結構果たして、もうひとりずつくらい当選者を増やしていたかもしれない。
まあ、それは言い過ぎだとしても、票数を見る限りでは、少なくとも単純に「それみたことか」「落ちて当然だ」とも言えないのだ。ここが選挙の怖いところだろう。

それにしても、次回の総選挙が3年後だとしたら、3年間、日本はもつのだろうか?



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