たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2005年8月12日執筆  2005年8月16日掲載

小泉純一郎ロボトミー説?

衆議院が本当に解散してしまった。
解散直後の首相演説が非常に気になった。
「民間にできることを民間に任せるということの何が悪いのか」
「ガリレオは『それでも地球は動く』と言った」
などなど、首相は切々と国民に向かって訴えた。
ああ、まただよ。なんでこういう安っぽい演技だけはうまいんだろう。
嫌な予感がしたが、案の定、直後の世論調査では小泉内閣の支持率が上がっているそうだ。

僕は経済問題には疎いので、どなたかぜひ教えていただきたい。

1)郵政民営化法案に賛成した者も反対した者も、実際のところ、興味の中心は郵貯の膨大な資金であり、郵便事業や地方の郵便局問題なんてどうでもいいのではないか。
2)郵貯資金が民間に流れてよいということになれば、いちばん喜ぶのは欧米、特にリップルウッドなどに代表されるアメリカの投資会社ではないのか。旧長銀買収、新生銀行株式上場で得た利益は気が遠くなる額だったが、これが郵貯レベルの話にでもなればもはや気が遠くなるどころではなく、即死ではないのか。
3)郵政民営化の本当の狙いは、郵貯資産が「財政投融資」の名の下、特殊法人などによって恐ろしい無駄遣い、泥棒同然のたかりにあっていることを防ぐことにある、という説明もされている。しかし、政治家や役人のたかり構造を改革できないままで形だけ「民営化」しても、健全な資金運用などとうてい期待できないどころか、今以上の腐敗がはびこり、合法的な泥棒行為が可能になるだけではないのか。
4)「民間にできることは民間に」と言うが、では、バブル時代に民間企業である銀行や生保がやったことはなんだったのか。常軌を逸した過剰投資や土地買い占め行動の結果の倒産劇を尻ぬぐいしたのは誰で、その金はどこから出たのか。

メディアは、郵政民営化法案の中身を少しも解説せず、安物の時代劇仕立てのような情緒に訴える報道ばかりしている。
自民党内乱などと騒いでいるが、反対票を投じた者も賛成に回った者も、結局は、どちらにつけば自分の利益につなげるかという判断で動いただけではないのか。甘い汁を吸い尽くしてきた族議員と、体制側につくことで将来の安定した権力を得ようとする保守ならぬ保身議員との組織内抗争。
野党議員からさえも、「国民の資産を、たかり議員、泥棒官僚、ハゲタカファンドから守るためにはどうするか」という話が出てこない。自分の歩んできた道によほど自信がないのだろう。

小泉首相を「変人」と呼んだのは田中真紀子議員だったと思うが、今ではこの「変人」という呼称も、彼の行動を正当化、美化するための都合よい道具になってしまっている。
彼は本当に「変人」なのだろうか?

郵政民営化をいちばん待ち望んでいるのはアメリカの富裕層であろう。労せず手に入れられる海外資金のターゲットに、郵貯という国家予算級の獲物が加わる可能性がある。

ついでに言えば、首相が靖国参拝にこだわることをいちばん喜んでいるのも、アメリカの権力者ではないか。
日本がアジアでリーダーシップを取れず、どんどんアジアの中で孤立していくことは、アメリカにとっては軍事的に好都合だろうからだ。
日本がアジアの国々との信頼関係を築き上げていけば、アメリカの「俺がいなければ、おまえなんかいつ吹き飛んでもおかしくないんだぞ」という威圧が弱まる。アメリカにとっては、日本がアジアの中で孤立すればするほど、恩を売れる。
さらに言えば、靖国や郵政民営化であれだけ頑なな小泉首相が、なぜアメリカのイラク攻撃にはまっ先に賛同し、あっという間に自衛隊派遣という荒技を決めたのか。

こうした重要な局面、問題での決定や行動について、「変人だから」などという説明をしていたのでは、それこそ国の危機である。
最近、僕の周辺ではついにこんな冗談めいた話まで飛び出した。
「小泉首相はアメリカ訪問したとき、脳になんかマイクロチップでも埋め込まれたんじゃないか?」
首相ロボトミー説?
でも、ほんと、そう考えれば、いろいろなことがすべてつじつまあってくるように思える。

しかし、ここまで書いてきて気づいた。
小泉首相はコントロールパネル、ロボットのリモコンみたいなもので、本当に遠隔操作されているのは、日本国民全体なのかもしれない、と。
首相のパフォーマンスが盛り上がると、支持率も上がる。
ロボトミー首相どころか、ロボトミー国家?
……慄然&絶句。

●ヤマジノホトトギス(2005年8月11日阿武隈にて)


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