たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2006年2月17日執筆  2006年2月21日掲載

デジタル一眼レフ幻想

オーディオやカメラの趣味の世界では、作品の中身を楽しむより、道具を楽しむ人たちがかなりいる。その趣味に対して、僕は別に何も言うつもりはない。
最初にそのことをお断りした上で(マニアからねちこい反論がくるのよね)、デジカメの話をちょこっと書いてみる。

ニコンが事実上銀塩カメラをこれ以上作らないという宣言を出したときはそんなに驚かなかったが、コニカミノルタが、デジカメを含めて写真事業全般から撤退すると発表したときは、さすがに驚いた。
昨年、カメラ事業部の偉い人たちを前に、こういうカメラを作ってくださいよ、という話をしたばかりだったのに。

コニカミノルタは、技術革新とコストダウン競争についていけないことを撤退の最大の理由としていたが、これは100%メーカーの責任とはいえないように思う。
ユーザーが「よいカメラ」を選ぶ目を持っていなかったことも原因だろう。

コニカミノルタもそうだが、ほとんどのデジカメメーカーは、デジカメの撮像素子(CCDとかCMOSとか)は自社生産していない。CCDを作るメーカーは限られていて、中でもSONYの独壇場になっている。
光学系の要(かなめ)であるレンズにしても、カメラメーカーだから自社製品のレンズは自社生産しているだろうと思うのは間違いで、実際にはタムロンコシナといったレンズメーカーがOEM生産していることも多い。特にコンパクト機はそうだ。
それらを組み合わせてOEMで製造しているのはサンヨー……といった具合で、コンパクトデジカメの世界では、カメラメーカーといえども、自社の個性や技術をフルに発揮する環境がない。
でも僕は、そのことをさして、製造業者としての魂がない、などと簡単に批判するつもりはない。だって、安くするためにそうなっていったのだし、安くなければ庶民には買えないもの。

去年くらいから、デジカメ市場ではデジタル一眼レフと呼ばれるレンズ交換のできる製品が売れていて、メーカーの利益率でもコンパクトデジカメより大きくなっている。
しかし、今デジタル一眼レフを購入している人たちの何割が、本当に一眼レフを必要としているのか、僕は大いに疑問に思っている。

「部屋の写真を広角で撮りたいんですが、いいデジタル一眼レフを紹介してください」
と訊いてきた人がいた。
かと思うと、
「デジタル一眼を買ったんだけれど、孫の写真を撮ると、目が赤く光ってしまうんだよねえ」
などとぼやいている人もいる。
どちらも「一眼レフならいい写真が撮れる」という幻想を抱いていて、カメラの基本的な原理を理解しようとしていない。

まず、部屋の写真を広角で撮りたいという人。広角で撮るということは、広角レンズで撮るということである。今10万円前後で売られているデジタル一眼レフにセット販売されているズームレンズは、18~55mm/F3.5-5.6といった感じのものだ。
広角側が18mmといったら、35mmフィルムレンズでいえば魚眼レンズなみの超広角だが、デジタル一眼レフは35mmフィルムカメラよりずっと小さな撮像素子に映像を結ぶので、35mmフィルム用レンズの焦点距離とは画角が違う。(35mmカメラと比べて、ニコンのD50やD70は約1.5倍、キヤノンのEOS Kissは約1.6倍)。最も広角側の18mmで撮っても、35mmフィルムカメラでいえば30mm前後になる。まずこの点をしっかり覚えておきたい。

次に、こうした専用ズームレンズは総じて暗い。F3.5-5.6といったら、ストロボをたかずに室内撮影をすることはほとんど無理だろう。アマチュアはいちいち照明を用意して反射板で間接光をあてて……なんてことはしないから、内蔵ストロボを無造作にバシャッとあててしまう。それでは人間の顔がテカテカになるのはあたりまえだ。いくら高級一眼レフを使っても、内蔵ストロボをまともにたいて人間を撮ったら、素人丸出しの写真になってしまう。

35mmフィルムカメラ用の明るいレンズをつけて撮るという手もある。しかし、撮像素子が35mmフィルム1コマより小さいために、画像の周囲が切り取られる。結果、見かけの画角は前述のように1.5~1.7倍くらいになる。
仮に単焦点50mm F1.4をつけたとすると、75~80mmの中望遠レンズをつけているのとほぼ同じ。ポートレートにはいいが、万能な使い方はできない。
F2.8くらいの広角ズームレンズ(例えば16-35mmをつけると26-56mmの広角・標準ズームになる)などはよさそうだが、レンズの値段が20万円くらいするから、カメラ本体よりずっと高い。買える人は幸せ。どうぞどうぞ。

でも、それだったら、明るいレンズを積んだ高級コンパクト機を使ったほうがいいのではないか。広角側でF2.0~という明るいズームレンズを搭載した高級コンパクト機(実際には、コンパクトとは言い難い筐体なので「レンズ一体型高級機」とでも呼ぶべきだけれど)はいくつかある。パナソニックのLumix DMC-LC1や、ソニーのDSC-F828がそう。
どちらも広角側は35mmフィルムカメラ換算で28mm相当の広角撮影ができ、その際の開放F値は2.0と明るい。
F3.5とF2.0では、室内撮影や曇天時の撮影での自由度がまったく違う。
「室内の広角写真」を撮るなら、僕だったらこういうカメラを選ぶ。
F828などは発売からずいぶん時間が経ち、値段も安いところでは8万円台くらいまで下がっている。一台ほしいところだが、今はちょっと余裕がない。

一眼レフが高級コンパクト機より優れている点は、撮像素子が大きく、余裕を持った画質で撮れることだが、その差は、ディスプレイで見たり、葉書大くらいに印刷した程度ではほとんど分からない。
僕もデジタル一眼レフを一台持っているが、それは「画質がいいから」ではない。「一体型高級機よりも明るいレンズを使うため」にだ。
もっぱらF1.4/50mmの単焦点レンズをつけっぱなしにしている。用途は暗い神社境内での狛犬撮影、室内での人物ポートレート、物撮りなど。
背景はしっかりぼけてくれるし、かなり暗いところでもノーフラッシュで撮れる。この威力はもう、レンズ一体型機では真似ができない。

でも、面白い写真、シャッターチャンスが重要な写真は一眼レフでは撮りづらいことが多い。撮りますよと身構えると、モデルも緊張するから自然な表情にならない。そもそもあんな重たい物、しょっちゅう持ち歩く気はしないし。
一般のユーザーには、小さくて気軽に撮れるカメラのほうがいい。ファインダーなんかなくてもいい。フレームに被写体が入っていることさえ確認できれば、あとはガバガバたくさん撮る。下手な鉄砲もなんとやらで、いっぱい撮れば、中にはいいショットがある。
大袈裟に構えなくていいから、モデルも撮られていることを意識しない。結果として自然な表情や面白いショットが撮れる。
こうした撮り方を楽しむには、「小型軽量で、広角単焦点の明るいレンズ、レンズ部分は回転するデジカメ」というのが、ひとつの理想なのだが、残念なことに、この条件に合った現行商品はほとんど見あたらない。
かつてはSONYのU-50というのがこの条件にピッタリ合っていて、僕ももっぱら普段はこれを使っているのだけれど、製造中止になってしまった。
今、この条件に近いデジカメを探すと、ペンタックスOptio Xというのがかろうじて見つかる。F2.6-4.8 35mm換算で 35.6mm~107mm(光学3倍)というズームレンズがついているが、こういうモデルは本当は単焦点レンズでもいい。望遠は諦めて、広角で明るい単焦点レンズにすればもっと魅力がはっきりするのに、残念。
このカメラ、操作性に難ありという意見もあるようだが、貴重な存在になっていることは確か。
あまり売れていないようだが、こういうモデルを支持しないと、本当に消えてしまう。
ためしに一台ほしいところだが、U-50が電池カバーの蓋がバカになりつつも(セロテープでくっつけている)まだ使えるので、ぐっと我慢している。

本のタイトルにもしているが、僕はデジカメ「ガバサク理論」というのを提唱している。
難しいことを言わずガバガバたくさん撮る。ガバッと寄って撮る。撮った後はそのままにしないで、サクッと補正・修正してやる。
僕にとって写真の魅力は、何がどのように写っているかであって、画質ではない。
高解像度だからいいとか、細部ににじみが出ているからダメだ、というわけではない。もちろん、きれいに撮れればそれに超したことはないけれど、素人はなかなかそうもいかないから、ガバッと撮った後はサクッと直してきれいにしちゃいましょう、という発想だ。

高いカメラを使えば高品質な写真が撮れるのはあたりまえ。それはそれとして、いかに心に響く写真を撮れるかが勝負。
デジタル一眼レフに幻想を抱く前に、コンパクト機で面白い写真を撮る方法を追求したほうが、趣味としてはずっと楽しいし、気が楽だし、お金も使わなくて済むと思うのだがなあ。



ガバサク談義
新コーナー デジタルカメラ ガバサク談義 始まりました


●ガバッと寄って撮る
(歳とってこんなきちゃない顔になってしまったゴロくん。
撮影者:かみさん SONY DSC-U50で撮影 F2.8 1/8秒)


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