川崎の仕事場に戻ろうとすると必ずアクシデントが起きるという話は先週の
「猫の墓場」で書いた。
その後もこのジンクスは続いている。先日、これから川崎に戻るためにクルマに荷物を積もうと運転席のドアを開けたら、床に何か落ちている。
なんと、バックミラーだった。
はああ?
よく見ると、ほんの1センチ×2センチくらいの部分が両面テープでガラスに直接貼り付いているだけで、それがポロリと取れたのである。触ってもいないのに。
新車で購入してもうすぐ丸5年。走行キロ数は5万キロ弱。
今までずっと、この小さな両面テープがバックミラーを支えていたのかと思うと脱力してしまった。
プジョー307というおフランスのクルマである。購入して最初の車検までの3年間は、小さなトラブルがいっぱいあった。真夏にエアコンが猛然と熱風を吹き出し、数分我慢していると「あ、間違えた。わりいわりい」とでも言うかのように、ようやく冷房に切り替わる。
フランス人にそのことを言ったら、「French car...」の一言で片づけられてしまった。
このふざけたというか、あまりに人間的な?欠陥は、何度修理に出しても原因不明で直らなかった。今は多少マシになったが、温度調整がお馬鹿なのは相変わらずで、オートエアコンなのに、頻繁に温度調節レバーに手を伸ばさなければいけない。こんなんならマニュアルエアコンのほうがはるかにマシ。
ディーラーのサービスマンの話では「どうも、内部での温度制御センサーの感知の仕方が、高中低の3段階しかないみたいなんですよね」とのこと。つまり、プラスマイナス3度くらいの誤差は正常範囲内なのかもしれない。
そもそも、欧州車のエアコンに細やかな配慮を期待するのは間違いで、冷気が出てくるだけでも感謝しなさい、と言う人もいた。
右方向指示器のコラムレバーがすぐに戻ってしまうという欠陥もあった。これはどんどんひどくなり、最後は、右に曲がってからすぐ左に曲がると、方向指示器レバーに触ってもいないのに、ハンドルを左に戻しただけで左の指示器がピコンピコン出てしまう。
これは2年くらいしてからリコールが発表された。
他にも、梅雨時にフロントガラスの外側下がくもる欠陥(フロントガラスの角度が寝過ぎていて、エアコン吹き出し口から出た冷気がまともにそこを直撃するため)や、左ハンドル用のワイパーをそのまま使っているため、助手席の視界は良好だが、肝心の運転席側は右端10センチ近く拭き残しが出て雨の日は恐ろしいなどなど、細かい問題がいっぱいある。
今はもう一台、オペル・ティグラという1400CCのかっちょいいハッチバッククーペを川崎での足代わりにしているが、これもまた、しょーもないところでちょろちょろつまらないトラブルが起きるのはプジョーと一緒である。29万円で買ったのだが、試乗のときからアイドリング中の車体のブルブル振動に驚かされた。今はエアコンのガス抜けに悩まされている。
それでも、どちらのクルマも、ハンドリングの応答性や安定感のよさ、フラットなトルク特性による加速のスムーズさなどは、国産の同クラス乗用車とはまったく別次元で、満足している。走る、止まる、曲がるに関しては文句がない。
たまに友人の車やレンタカー、代車などで国産乗用車に乗ると、100ートルも走らないうちに怖くなる。あのステアリングの遊びの大きさ、もわ~んとしたレスポンスはなんなんだろう。
国内自動車メーカーも、欧州に輸出するときはハンドリングや足回りを相当変えているというから、どうも日本人ドライバーの嗜好性の問題らしい。思ったように曲がってくれないクルマというのは危ないし、不必要に疲れると思うのだが、多くの日本人ドライバーは、ステアリングの反応がいいこと=危険、と勘違いしているようだ。
しかし、国産乗用車は、走る・止まる・曲がるがどれももどかしい代わりに、つまらないトラブルはそうそう起きない。どっちを選ぶか、ということなのか。
今の国産車には強烈に欲しいと感じるクルマがない。デザインに美とオリジナリティを感じられないことがいちばんの理由だが、今までの経験から、走る・止まる・曲がるという基本の部分で満足できないだろうと思うからだ。
徳大寺有恒氏が、ヒットシリーズ『間違いだらけのクルマ選び』の中で、故障が多いのに欧州車をベタ誉めし続けるのを見て、かつては「バッカじゃないの。簡単に壊れるクルマなんて、命がいくつあっても足りないじゃん」と思っていたのだが、今は彼の言いたかったことは120%理解できる。ああ、こういうことだったのね、と。
それにしてもバックミラーが駐車中にポロリとは許容限度をちょっと超えているなあ。
走行中だったら命に関わる。
今までのトラブルには苦笑しながら対処してきたが、今回はほとほとげんなりしている。
構造的に見て、ディーラーに修理に出したとしても、また両面テープでくっつけるだけだろう。それではまたポロリと落ちるに決まっている。
超強力(と書いてある)両面テープ、瞬間接着剤、2液性のエポキシ接着剤などなど、いろいろ試してみたが、どれもすぐにまた取れてしまう。
仕方ないので、DIY店でアルミの薄い板を買ってきて、それをルーフの内張の裏側にまで突っ込み、ミラーはなんとかその板に小さなビスで固定する……という処置に挑戦中である。接着剤が固まるのに1日として、全工程数日はかかりそうだ。うまく取り付けられたとしても、見栄えは絶対によくない。
なんでこんな理不尽な苦労をしなければいけないのかと腹が立ってくる。
多分、これは右ハンドル車だけなのではないかと思う。
左ハンドル用のバックミラーは、ちゃんと車体にビス留めや溶接でがっちりくっついているのではなかろうか。その部品(ミラーを支えるアーム部分)が右ハンドル用にはそのまま使えないため、右ハンドル用に新たに部品を作ることをせず、ミラーの先っぽだけを両面テープでとめてしまったような気がする。
というのも、欧州車の右ハンドル仕様はことごとくそうした無理をしているからだ。
ワイパーなどは、右と左のアームを逆方向に曲げたものを作ればいいだけのことなのに、それをしないで左ハンドル用のままにして輸出している。
結構深刻なのはペダルの配置。プジョー307は幅が広いのでそれほど気にならないが、小型の206はアクセルがタイヤハウスのために中央寄りになってしまい、普通の感覚でブレーキを踏むとアクセルも一緒に引っかかって踏んでしまう。206の試乗のときはこれを交差点でやってしまい、いくらブレーキを強く踏んでもクルマがズリズリと交差点内に出ていくという恐怖を味わった。
オペルティグラも横幅がかなり狭いので、同じ欠陥を持っている。購入直後は何度もひやりとする場面があった。
ペダル配置(オフセット)の問題は、シャシー部分のデザインに関係するのでおいそれとは右ハンドル用対策ができないのだろう。
でも、ワイパーやバックミラーは、右ハンドル車用部品を作ればいいだけのことなのだ。なんで作ってくれないの? バックミラーのアームなんて、たかがプラスチック成形の安いものじゃないの。ワイパーのアームだって、ちょっと逆に曲げてくれればいいだけじゃないの。
それなのにそれなのに、横着というより、なめられているとしか言いようがない。
フランス人のイギリス嫌いは有名だが、「あいつらのためにわざわざコストのかかる新部品なんか作ってられるか」と思っているのかしら。
明治時代、日本はなんでもかんでもイギリスの真似、言いなりになって工業化、近代化を進めた。そのために日本が今負っているデメリットは計り知れない。
狭い軌道幅ゆえに福知山線事故は起きたという指摘はすでにしたが、右ハンドルのクルマもそうだなあ。
ポロリと落ちたバックミラーと格闘しつつ、「クルマは左、人は右」を決めてしまった責任者を恨んでみたりする。
ん? いや、これは、多少、逆恨みかもしれない。やっぱり文句はフランスに言うべきか。
川崎に戻ったとき、気になってティグラのバックミラーも見てみた。
!!!
オペルよ、おまえもか!
あろうことか、ティグラのミラーも両面テープでガラスにちょこんとくっついているだけなのであった。取れてからでは遅いので、クルマの中に、瞬間接着剤を1つ積んだ。
ああ、胃に悪いなあ。