たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2006年8月11日執筆  2006年8月15日掲載

祭りの後

先日、村の元校長先生・佐藤センセの工房で子供たちが竹製の「スタードーム」を作るというので、覗きに行ってきた
途中、差し入れを買うために道沿いの臨時売店に寄ったところ、この過疎の村ではまず見ないほどクルマが停まっていて驚いた。
いわゆる「れげえのおじさん」風の人が店の主人と談笑している。その人のクルマのフロントガラスには満月祭のパンフレットがはりつけてあった。
ああ、今日は満月祭なのか……と気がついた。

ここでも何度か書いた「獏原人村」で、毎年8月の満月の日に行われる満月祭。ウッドストックのミニ版のようなものだといえば分かりやすいだろうか。
電気も電話も引けない山奥の土地に、このお祭りのときには全国、いや、全世界から1000人を超える人たちが集まってくるという。今年は1500人集まったらしい。

獏原人村は地鶏放し飼いによる卵販売で生計を立てているマサイ&ボケ夫妻(去年はテレビ朝日系の『銭金』に「原人ビンボーさん」として出演していた)と、「大塚愛伝説」の主人公・大工の愛ちゃん一家が住んでいるだけで、普段は静かな場所だ。
長い間電気なしの生活を送っていた彼らも、最近ではソーラー発電という文明の利器のお世話になり、そこそこ家電製品も動かしている。

たどり着くのは大変で、普通のクルマではガリガリと腹をこすること必至の荒れた山道を4kmほど登っていかなければならない。
そんなところに、よくもまあ千数百人も集まってくるものだと、呆れてしまう。

僕はまだ満月祭の本番は体験したことがない。あの悪路の果てにクルマが殺到して身動きがとれなくなるという図を想像しただけでビビってしまうのである。デリケートな心の持ち主である僕は、人間的なエネルギーが噴出するカオスの世界って、苦手なのよね。

今年は、たまたま、祭りの4日前と3日後に原人村を訪れた。最初は、原人村の入り口にある獏工房に行ったのだが留守だったので、じゃあ、愛ちゃんちが完成してからまだ見てないので行ってみようと、雨で荒れに荒れた山道を四駆でえっちらおっちら登っていった。愛ちゃんは在宅していたが、マサイ夫妻は珍しく留守だった。
祭りの期間は用事があって来られないからと、先乗りしてキャンプにやってきた家族3組が「マサイ、留守みたいね」と、あたりまえのようにテントを張り始めていた。

祭りの3日後というのは昨日(8月10日)のことで、打ち合わせと称してタヌパック阿武隈までやってきた編集者を案内した。
今度はマサイ夫妻は在宅だったが、愛ちゃんが留守だった。
祭りが終わっても帰らない連中が10人くらいまだうろうろしているとかで、マサイ夫妻と藤棚の下でお茶している間にも、向こうのほうではラーメンズの片桐そっくりの(つまり腰まで髪を伸ばした)男が裸で悠然と歩いていたり、トップレス&スキンヘッドの韓国女性が意味不明の歌を歌いながらうろうろしていたり、いつもの原人村とはちょっと違う空気が流れていた。

「あれ、誰?」
とマサイに訊くと、
「知らないよ。祭りに来る人のほとんどは知らない人だもん」
とのこと。
「知らない人」が自分ちの庭先にテント張ったまま帰らず、毎日ふらふらしてても、それは原人村としては風景のひとつであって、別段不思議なことではないらしい。
いなくなったときも、「ん? そういえば見なくなったね。帰ったのかな」でおしまいなのだろう、きっと。
怪しい歌を歌うスキンヘッドの女性が歩き回る庭先で、マサイ&ボケ夫妻は、いつも通り鶏に餌をやり、午後のお茶を楽しむのであった。

家に帰ってテレビをつければ、親が子供を虐待死させただの、飛行機自爆テロが寸前で阻止されたものの、おかげで空港では赤ん坊の哺乳瓶も厳重チェックだの、疲れるニュースが立て続けに流れる。

本家?のウッドストックは、1969年8月15日から3日間、ニューヨーク州サリバン郡べセルにある農場で開かれた。集まった人たちは40万とも50万とも言われる。3日間の間に、死者が2人(一説には3人とも)、出産が2件あったそうだ。
規模はだいぶ違うが、満月祭がウッドストックに勝っているのは、毎年続いているということだ。
満月祭の歴史には、かなり危うい事態も何度かあったらしいが、今のところ死者は出ていない。
来年からもずっと、警察や消防の世話にはならないで続いてほしいものだ。



●満月祭の間、愛ちゃんちは風呂屋になる




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