たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2006年11月17日執筆  2006年11月20日掲載

ライター稼業25周年

先日、週刊テレビライフの若い編集者が「会いたい」と言うので、他の打ち合わせの合間に、新宿で1時間ちょっとだけ会って話をした。
今年入社したばかりの23歳だという。残念ながら、男性。
WOWOWでやっている『リトルブリテン』という番組について訊きたいという名目だったが、それはこじつけで、単純に僕に「会いたかった」らしい。
実際、話をしている1時間ちょっとの中で、『リトルブリテン』のことはまったく話題に出なかった。

それにしても23歳!
実はテレビライフは来年創刊25周年だそうである。僕はこの雑誌が創刊されるときからずっとつきあっている。
創刊号でいきなり起きた「TBSに出入り禁止事件」とかも知っている。
レコードデビューに失敗して、とりあえず何か仕事をしなくてはということでテレビライフ編集部にアンカーマン(原稿を最終的に書き上げるライター)としてフリーで入り込んだのが26歳のときだった。

今は完全なアイドル系芸能雑誌になっているテレビライフだが、創刊当時、編集長は「テレビ界の『FOCUS』をめざす!」なんて気勢を上げていた。(そのおかげで、創刊号でいきなり大きな問題を2つも起こしたのだけれど)
僕は当初アンカーマンだったが、そのうちにタレントの取材などもやってくれと言われるようになった。
これはすごく抵抗があった。本来、俺はデビューして、売れて、取材される側であったはずなのに……という思いがあったからだ。
さだまさし氏や秋元康氏にインタビューなんてのは、特に抵抗があった。年代も同じ。デビューは先を越されたが、俺のほうがはるかに才能があると密かに自負していた。
引き受けたのは、そんな状況の中でも、なんとか再デビューのチャンスを掴みたいとあがいていたからだ。

インタビューの仕事も数をこなすようになると、いつしか編集部内では「大物相手のインタビューはたくちゃんにやらせるのがいちばん安心」という評価が定着してきた。
三波春夫、笠智衆、岡本太郎……大物というとこの3人が思い浮かぶ。今思うと、いい経験になった。
三波春夫氏にはなぜか気に入られ、翌日、自宅アパートの留守番電話にはご本人の声が録音されていた。
「昨日はどうもありがとう。豊和と同い年ということで、なんだか他人に思えなくてね。ついつい気になって電話してしまったんだけど……」と、1分くらい録音されていた。
三波さんはインタビューを受けると必ずこうしたフォローをしていたのかもしれないが、びっくりした。
笠さんは自宅の最寄り駅である大船駅にわざわざ出迎えに来てくれていた。改札口で笠さんが待っている図というのはかなり衝撃的だった。
岡本氏は青山のアトリエを訪ねたのだが、どんな話をしたのか、なんだかあまり印象に残っていない。

当時、「インタビューしづらい」とか「どう突っ込めばいいのか分からない」と思われていた人たちへのインタビューも、たいていは僕におはちが回ってきた。
日影忠夫(沖雅也の自殺の1年半後に)、樹木希林、亀和田武(無名作家がいきなり夜の番組の司会者に抜擢されたということで)、森田健作、ナンパーマン(覚えている人、どのくらいいるか)、カール君(これは人間じゃなくてカール・ルイスに似せた人形。ついには人間じゃないものにまでインタビューする羽目に)、アンサちゃん、たみちゃん……。

お笑い芸人のインタビューもなぜかよく頼まれた。
明石家さんま(東京進出直後)、小堺一機(『いただきます!』第1回収録直後に)、シティボーイズ、たけし軍団(結成直後)、柄本明、竹中直人(デビュー直後)……。
明石家氏や小堺氏は僕と同年代。あの頃20代だったのが、今や50代。
先日会った編集者は23歳だから、テレビライフが創刊されたときはまだ生まれてもいなかったことになる。
「竹中直人が作家の顔真似とかで出てきたとき……」なんて話をしても、「え? 竹中さんって、役者さんですよね?」なんてきょとんとした顔で訊いてくる。
となれば、テレビ東京がまだ「東京12チャンネル」だった頃、『モンティ・パイソン』が日本で初めて放映されて、そのCMあけの穴埋めにタモリが「4か国麻雀」とかのネタでテレビに登場して……というような話は、さらに通じないわね。
う~~。

それにしても、ざっと思い出しただけでも結構いっぱいいるもんだ。そんなに長いことあの編集部に出入りしていたっけ……と思う。
今は、小さな囲みコラムを連載しているが、実は、テレビライフ編集部がどこにあるのかも知らないのである。

いちばん印象深かったのは、NHK(だったと思う)が、「老い」をテーマにしたドラマをやったのに際して、その番宣を兼ねて出演者たちにまとめてインタビューしたとき。
その4人とは、浜村純、花沢徳衛、中村伸郎、殿山泰司 の4氏。
……と書いて、これって、昔、書いた気がするなあと思い、調べてみたら、やっぱりあった
最近、ほんとに物忘れがひどい。

実は、先日会った23歳の編集者にもこの4人の老優にインタビューしたときの話をしようと思ったところ、この4人の名前を一人として思い出せなかったのだった。
「ほら『祭りの準備』で色ボケのじいさんの役をやった……ほら、関西のお笑い系司会者と同じ名前の……あれ、ほら、ほれ……。う~ん、じゃあ、銀座の料理屋のボンで、頭つるつるでさあ……あ~じれったい、じゃあ、『ジアンジアン』で一人芝居『授業』のロングラン公演をやっていた、ほれ……。え? それも知らない? ああ~、じゃあ、共産党員で戦争中は特高にいじめられて……あ、もっと分からないね、はいはい」

情けない。ほんとに情けない、この老いっぷり。
一昨日も、ウサギの水を換えようと思って、階下の洗面所の前まで行って、いざ容器に水を入れようとしたら、手にしていたのはウサギのトイレだった……。

ほんとは、来年は「芸歴25周年」とか「レコードデビュー25周年」ということで、過去の栄光のヒット曲を流しながら盛大な祝賀パーティをやっているはずだった我が人生。どういうわけか、木造6軒長屋の仕事場で、ひっそり「ライター歴25周年」を迎えている。
でも、まだ諦めきれないのである。25周年ならぬ執念で、50代メジャーデビュー。

ん……誰ですか? 今、「ああ、これは物忘れだけじゃなくて、完全にボケてるわ」と言ったのは。


アンサーのデビューシングル
●幻のデビューシングルジャケット
(この直後に解散し、テレビライフのライターをやり始めた)





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