たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年6月29日執筆  2002年7月1日掲載

素人と商売人


何かを調べようとするとき、インターネットほど便利なものはない。
世の中には、調べたいことがたくさんある。
お腹にベルトを巻き付けてビビビビっとやるアブなんとかは本当に効くのか?
炭酸ガスが増えると南極の氷が溶けて海水面が上昇するというのは本当か?
純米酒にあらずんば日本酒にあらず説はもっともか?
ワインに入っている亜硫酸塩が身体に悪いってのは本当なのか?
アーシング(バッテリーのマイナス端子につなぐ線を増やして、燃費向上やオーディオの音質改善などを狙うこと)って本当に効果があるのか?
日本はなんでトルコに負けちゃったのか?
Be The Reds Tシャツは、パチモンのほうが色落ちしないって噂は本当か?

知りたい知りたい知りたい。
知りたいので今日もGOOGLEに検索語を入れてネットの海を徘徊する。
……と、突然こんな言葉にぶつかった。

「所詮、この世の中、ほとんどは素人か商売人で占められている。もっともらしい言葉も、たいていはそのどちらかから出ていると思ったほうがいい。事実をきちんと把握していて、しかもそのテーマに対して金銭的に中立な立場を保てる人間なんて、ほんの一握りなのだ」

なるほどなあ、と思った。

例えば、テレビを知らない現代人はいない。でも、テレビ放送がどういう仕組みで成り立っているのか、きちんと説明できる人は極めて少ない。
「ねえ、お父さん。テレビって、なんで絵が映るの?」
「それはね、電波がビビっと飛んできて、この箱の中に入って、それで絵になるのだよ」
「電波って何? どうしてビビっと飛んでくるの?」
「それはね……うむむむむ……」
電波工学の専門家でもない限り、答えに詰まりそうだ。
しかし、テレビという商品はほとんどの家庭に1台以上はあるし、みな当たり前のように接している。

テレビを買い換えようと電気店に行ったら、店員に××社のテレビを勧められた。カタログを片手に、なんだかよく分からない専門用語や数値を並べ立てられてしまう。
「テレビなんてみんな同じだと思うでしょう? それが違うんですよねえ、やっぱり。この機種は、色分解素子にスーパーパラグアイチラベルトというのを使っていましてね。もう、全然他社には真似できない技術なんです。テレビに関しては××社がいちばん進んでいるんですよね。業界では有名です」
ふうん。そうなのかぁ……。
でも、実は、その販売店に××社から気合いの入ったマージンが流れているのかもしれない。あるいは、倉庫にそのモデルが売れ残っていて、早く売らないと次の新型が出てしまうから、必死で売っているのかもしれない。
これが商売人の発言の典型例。

テレビを買い換えたら、なるほどすっきりした映りで、なかなかのものだった。大枚はたいただけのことはあったと大満足。
翌日、隣の友人宅に遊びに行ったら、テレビの映りがひどい。そこで友人に進言する。
「どこのテレビ? △△社かぁ。あそこは駄目だよ。やっぱりテレビは××社のがいちばんさ。業界ではみんな知っていることだぜ」
「へえ、そうなの? よく知ってるねえ。じゃあ、うちも××社のやつに買い換えようかなあ」
……なんてことになる。
でも、実は、そのテレビの映りが悪いのは、アンテナ線が接触不良なだけかもしれない。
しかも、××社のテレビは、△△社からOEMで流れていたりして……。
これが素人の発言の典型例。

インターネット時代になり、今までは公にならなかったような雑多な情報が世界中を駆けめぐっている。ネットを通して流れる情報はデジタルだから、コピーも改竄も簡単。
でも、その中に、本当の情報はどのくらいあるのだろうか。
もっともらしい情報は、必ず疑ってみる必要があるだろう。自分の経験や直感、理性を総動員してもよく分からないことは、とりあえずはペンディングにしておくという余裕がないと、間違えたときに、被害を増幅させてしまうかもしれない。

ところで、世の中で、判断を間違えてほしくない職業はたくさんある。
医者なんて、患者の命を預かっているわけで、素人でも商売人でもあってほしくない。
政治家もそう。素人や商売人が間違いを起こさないよう、適切な法律を作り、それをきっちり守らせるのが政治家の仕事だと思うが、どうも違う。一般人より思い込みの激しい素人で、かつ、一般人より金を集めるのがうまい商売人が政治家になっているような気がしてならない。
その逆。つまり、社会性のあるテーマについてあくなき探求心を持ち、調べあげ、理解する能力を持つ専門家タイプ。かつ、金儲けなんて下品なことだと感じる潔癖な人間にこそ、政治家になってほしいのだが、そうした人材が集まるシステムに作り直さないと駄目だろうなあ。まずは、「政治家は絶対に儲からない」という仕組みにしないと。



熊野奥照神社の狛犬


■写真 熊野奥照神社(青森県弘前市田町)所蔵の寛文4(1664)年の笏谷石狛犬。弘前には同タイプの狛犬が3対残っている。恐らく東北地方では最も古い狛犬のひとつ。紐のような尻尾がキュート。
(撮影:鐸木能光 http://komainu.net
挿画 'a bug'
(c)tanuki http://tanuki.tanu.net









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