たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2002年12月20日執筆  2002年12月23日掲載

ブロードバンドストレス

最近、駅前で白いコートを着た人たちが「今すぐ加入しましょう。この場でルーターをお持ち帰りいただけます」なんて声をあげている姿をよく目にする。ADSLへの加入者募集作戦らしい。
かつて、携帯電話機を駅前でただで配って加入者を増やしていた時期があった。今それが、「ブロードバンド」という商品に移っているのだろうか。

大統領選挙が終わったばかりの韓国は、「ブロードバンド普及率」世界一の国らしい。
ある報告によれば、今年(2002年)6月末時点で、ブロードバンド利用者は921万世帯。恐らく現在では1千万世帯を超えているだろうという。
同じ朝鮮半島でも、北側ではラジオの受信ダイヤルをハンダで固定され、国営放送以外受信できないようにされているのに、南側ではアメリカや日本をはるかに超えたIT環境を得て、世界中の情報に自由にアクセスできているわけだ。

テレビが普及したときと同じように、ブロードバンドは生活を激変させる可能性を秘めている。日本でも、恐らく、今「国策」として無理矢理進めているテレビ放送の完全デジタル化などより、ブロードバンド環境の整備を進めたほうが、はるかに意味があるだろう。
しかし、同時に裏側には様々な問題があって、そのひとつひとつに真面目に対峙しているだけで、ストレスがたまる。

インフラ整備の過程で出てくる矛盾や混乱(ISDNってなんだったの?)、コンテンツに関する利権争い(著作権ビジネスと知的財産共有促進の対立)などなど、大きな問題の他にも、利用者にとっては単純な規格不統一での混乱、不自由という問題が日常的に起きている。
ブロードバンド環境を手に入れれば、音声や動画などの巨大なファイルも楽々楽しめるはずなのだが、実際にはそう簡単ではない。

例えば、WEBで音を出すということだけをとってみても、とても面倒なことになっている。
現在、WEB上で音を配信するには、リアルオーディオ、WMA、MP3の3つのファイル形式が主流になっている。
リアルオーディオは古くからある形式で、初期のものは鉱石ラジオを聴いているようなしょぼい音だったが、何度もバージョンアップを重ね、その度に音質改善が行われた。
古くからある音楽配信サイトなどは、今でもリアルオーディオ形式を採用しているところが多い。

MP3は言うまでもなく音楽のネット配信革命をもたらした形式で、登場したときは驚異の圧縮率ともてはやされた。無圧縮のデジタル音声ファイル(CDオーディオやWindowsのWAV形式)に比べて約10分の1のサイズにまで圧縮できて、なおかつ音楽の種類によっては音質劣化がほとんど分からない。
しかし、ファイルを一旦ダウンロードして、ローカル側で再生するには向いているが、そのままオンデマンド(ネットに接続したまま)再生するには、ブロードバンド環境でもちょっと厳しい。

WMAは、Microsoftがリアルオーディオに代わるネット配信の音声ファイル形式として提唱したもので、ファイルサイズに対する音質という面では、いちばん優れているように思う。
CD通販サイトやレコード会社のサイトでも、試聴版はWMA形式で聴かせるところが増えてきた。インターネットラジオも、WMA形式が増えているようだ。

僕も、いろいろやってみて、WMAファイルをいちばん評価している。いくらブロードバンド時代とはいえ、あまりに巨大な音声ファイルをサーバーに置きたくない。妥協点として、FMラジオ並みの音質が確保できれば十分だと割り切っているが、そのレベルでファイルを作成した場合、MP3やリアルオーディオより、WMAのほうが優れている。
WMAは、Windowsユーザーの多くは、特に意識しなくても聴ける。Internet Explorerでは、ブラウザ自体が再生プレイヤーとして機能する。
ただ、MacやNetscape Navigatorでは、未だにWMAを再生できない環境が多いので、仕方なく、リアルオーディオ版も同時に作って、アクセスした人に選ばせるようにすることもある。タヌパック・コム(tanupack.com)の音楽サイトには、WMA、リアルオーディオ、MP3の3種類を並べて置いてある。

しかし、中にはそれでも「聴けません」と言ってくる人がいる。
実は、リアルオーディオもWMAもMP3も、今では様々な圧縮レートがあり、圧縮率やその方法によっては再生できないことがあるのだ。
Internet Explorerのバージョン6では聴けたけれどバージョン5では駄目だったとか、Macなのにリアルオーディオ版が聴けなかったとか、Macだけれど、Mac版のMediaPlayerをインストールしたら、WMA版のほうだけが聴けてリアルオーディオ版は相変わらず聴けなかったとか、実に様々な組み合わせの報告がある。
その度に検証して、どうやらこの圧縮率がいちばん互換性があるらしいなどと見当をつけるのだが、次にファイルを作成するときには、また状況が変化していたりする。

WEBページを開いたときに音が出るような仕組みも、ブラウザによってソースの記述方法が違うので嫌になる。
Internet Explorerでは、BGSOUND という独自のタグがあり、単純に
<BGSOUND SRC="hogehoge.wma">
などと1行書いてやればブラウザ自体が音を再生してくれる。WAVやMP3だけでなく、WMAファイルにも対応している。
しかし、Netscape Navigatorではこの BGSOUND というタグは使えず、EMBED というタグを使うことになる。
どちらでも再生できるように BGSOUND と EMBED タグを並記したり、Java Scriptでブラウザを自動判定して切り替えるなどのやり方もあるのだが、あるバージョンのNetscape Navigator ではエラーになりハングするなど、どうしてもトラブルが出てくるので、今では諦めてしまった。Internet Explorer の人だけ聴ければいい。Netscape Navigator や Opera の人はごめんなさいね、と割り切ることにしたのだ。音の再生にこだわったがためにブラウザがハングしたのでは元も子もないからだ。

ブラウザの種類やOSの種類、またバージョンの違いは、音の再生だけではなく、レイアウトそのものにも大きな影響がある。特にスタイルシートへの対応や解釈には実にいろいろな違いがあり、WEBページデザイナーを悩ませている。
ブロードバンド環境が整備されていっても、そうした末端部分での環境(規格の共通化や整備)が進まないと、効力は半減してしまう。

さらに言えば、MediaPlayerにしてもRealPlayerにしても、無料配布と引き替えに、広告バナーが並んだり、無理矢理自社サイトにアクセスさせようとしたり、いくら外しても起動するたびにシステムに常駐しようとしたり、スパイウェアもどきのしつこさ、行儀の悪さに辟易させられる。
WMAの規格は素晴らしいものだが、MediaPlayer というソフトに関しては、バージョンアップするたびに不要に巨大化していて、システムへの負担が半端ではない。
単に音楽CDを再生するだけなら、昔からあるCDPLAYER.EXE(Windowsのフォルダにある)を使ったほうがずっとメモリを食わないし、CPUへの負担も少ない。
MediaPlayerで音楽CDを再生すると音飛びが激しくて聴くに堪えないときでも、CDPLAYER.EXEを使えばなんの問題もなく聴けるということがある。
しかし、音楽CDの再生をCDPLAYER.EXEに関連づけしても、MediaPlayerをバージョンアップしたり、WinAMPをインストールしたりするたびに関連づけが勝手に変更されてしまったりすることがあり、いたちごっこのようになる。
こうしたことでユーザーがいちいち知恵を絞り、ソフトメーカーの思惑と対抗しなければいけないという状況もまた、大きなストレスだ。

果たして、パソコンユーザーは、こうした様々なストレスに耐え続けられるのだろうか?
本格的なブロードバンド時代が到来しても、ストレスが増え、前よりも不幸になったと感じる人が出てくるに違いない。

三十番神社の江戸狛犬
■おかっぱ頭の特徴を残す、江戸時代の名品狛犬

新潟県三条市条南町、三十番神社。建立年不明(江戸中期?)
(詳しく見たいかたは→http://komainu.netへ)





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