たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年2月7日執筆  2003年2月11日掲載

フリーソフトという思想

今や、幸か不幸か(多分、不幸だ)、パソコンがないと仕事ができなくなってしまっている。
コンピュータそのものがなくても困るのだが、コンピュータはソフトがなければ使えないから、よくよく考えると「このソフトがないと仕事ができない」というソフトがいくつかあることになる。
僕の場合、テキストエディタ、メールソフト、画像加工ソフト、IME、ファイル操作ソフト、FTPソフト、TELNETソフトあたりは絶対に必要なもので、これらのどれひとつ欠けても仕事ができない。

テキストエディタ:QXエディタ(araken氏作。3000円のシェアウェア)
メールソフト:DATULA(オンシステムズ製品。2980円のシェアウェア)
画像加工ソフト:いちばんよく使うのはIrfanView(Irfan Skiljan氏作。フリーソフト)
IME:ATOK14(ジャストシステム製品)
ファイル操作ソフト:エクスプローラ(Windowsのシェル)+エクスプローラ拡張メニュー(Mt.Wide氏作。1000円のシェアウェア)
FTPソフト:FFFTP(Sota氏作。フリーソフト)
TELNETソフト:Visual TELNET 2000(Tomamu@$oya氏作。フリーソフト)

……こうして見てみると、ATOK14以外は全部フリーソフトかせいぜい3000円以下のシェアウェアだ。
ワードや一太郎などのワープロソフト、エクセルなどは持っているが、ほとんど使わない。ワードやエクセルが明日なくなっても(僕は)いっこうに困らないが、QXエディタがなくなったら途方に暮れるだろう。
あらゆる原稿はQXで書いているし(もちろん、今このコラムも)、HTMLを書くのも、狛犬のデータベースを作成するのもQXを使っている。

画像編集も、Photoshop、Paint Shop Pro、Fire Works、Illustrator、FLASHなどなど、有名ソフトのほとんどは持っているが、結局使うのはIrfanViewばかりだ。
特に、デジカメで撮影した写真画像をWEBサイト用に加工する作業は、IrfanView以外のソフトは面倒で使う気がしない。
トリミング→リサイズ(リサンプリング)→ガンマ補正と色補正→アンシャープマスク……というのが一連の流れだが、この作業をするのに、IrfanViewほど手早く、また高性能にこなしてくれるソフトを僕は他に知らない。
狛犬ネットの写真も、今はすべてIrfanViewで加工している。
IrfanViewは、画像だけでなく、音声や動画の再生にも対応しており、PhotoshopとアルバムソフトとMediaPlayerを一緒にしたようなものすごい統合ソフトだ。世界中にユーザーがいる超有名ソフトだが、日本ではまだまだ知られていないかもしれない。

それにしても、フリーソフトというものはなぜ存在するのだろうか?
資本主義世界の常識からは著しく逸脱している。IrfanViewを普通に商品として販売しても、僕は金を出して買うだろう。WEB用の画像加工においては、PhotoshopやPaint Shop Proよりずっと使いやすいからだ。
しかし、IrfanViewがフリーソフトでなければ、これほど世界中に広まっていたかどうかは疑わしい。Microsoft、Adobe、Macromediaなどの巨大ソフト企業に対抗して、オーストリアの一学生がベンチャー企業を興し、商品を売り出したとしても、つぶされていたかもしれない。

すごいものを作る。しかし、それで金儲けはしない。自分がそれを作ったという名誉だけでよい。
こう宣言するのは相当な勇気がいる。
ソフトビジネスというのは、成功すれば莫大な富を生む。フリーソフトの作者たちも、当然そんなことは分かっている。分かった上で、自分の技術を無料公開し、努力や才能に対する報酬を求めない道を選ぶのだ。ソフト会社の社員となるよりも、自分ひとりで作ったほうがよいソフトを作れるという確信もあるのだろう。

自分が作りたいソフトを無料で提供し、そのための費用や生活費は他の仕事で稼ぎ出す。ほとんどのフリーソフト作家にとって、金を稼ぐ手段としての仕事は、フリーソフトを作るという仕事よりずっとつまらない仕事だろう。
それでも、フリーソフト作家は、やりたくない仕事で金を稼ぎ、時間を見つけてはその金を注ぎ込んでフリーソフトを作り続ける。
これはもう、思想の違いと言うしかない。

音楽、文学、絵画、写真……ほとんどの文化が、デジタルファイルという形で商品化される今、アーティストの生き方も、今後は大きく分けて2通りに分かれていくような気がする。
ビジネスとしての成功を目指す者と、作品が広く共有されることを第一義に望む者という2タイプだ。

今年年男の僕は、もうすぐ48になる。還暦まであと一回り。その時間を考えたとき、「フリーソフトという思想」は大きな意味を持ってくる。
勇気を持てば、今の状態から一歩先に進めるかもしれない。その代わり、諦めなければならないものもある……という意味だ。

「フリーソフトの思想」と芸術創作活動……これは、自分にとってだけではなく、社会的影響という意味でもとても大きな問題を含んでいるので、改めてまた書きたいと思っている。


石都都古別神社の狛犬
■石都都古別神社(福島県石川郡石川町下泉)の狛犬
建立年月・昭和5(1930)年1月30日。石工・小林和平。
狛犬芸術最高峰のひとつ。

詳しくは狛犬ネット(http://komainu.net)へ。




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