たくき よしみつ の デジタルストレスキング デジタルストレス王

2003年6月20日執筆  2003年6月24日掲載

インターネットライブ!

去年に引き続き、KAMUNAが7月1日(火)に代官山のお洒落なお店でライブをやる。
去年と違うのは、インターネットで生放送するということ。
インターネットライブ!!!
へええぇ~~~……である。
そういう時代なんだなあ、と、改めて感心。

視聴者の数からいえば、超マイナーな「放送」だろう。地方のFM局よりずっと小規模に違いない。
しかし、全世界の人が見られるという意味では、やはりすごいことである。
アメリカにいる友人も、「オハイオにいながら、よしみつのステージが見られるとは思ってもいなかった」と、今から楽しみにしてくれている。

別にKAMUNAだから中継するわけではない。出演するこの店では、毎晩、ステージのライブ映像を全世界に発信しているのだ。目下のところは「実験サイト」ということになっているらしい。
視聴するためには、まず、発信しているブロードバンドコンテンツ配信サイトの会員IDとパスワードを得る必要があるが、これは現在無料で、形だけのもの。
次に、最新版のReal One Playerがインストールされている必要がある。
リアルプレイヤーは、インストールするといろんなものを自動ダウンロードしようとしたり、しつこく常駐しようとするので鬱陶しい。インストールしたら「ツール」→「環境設定」→「自動サービス」を開き、全部の項目をOFFにしてしまったほうがいい。
リアルプレイヤーではなく、ASF(Windows Media Playerなどで再生可能)形式ならいいのだが、ここは贅沢は言えない。インターネットライブをやるというだけですごいのだから。

視聴できる環境にするまでに少しだけ手間がかかるが、一度環境を用意してしまえば、毎晩この店のライブが無料で観られるのだ。なんとすごいことであろうか。
画面は葉書より二回りくらい小さいが、画質も音質も十分鑑賞に堪えるもので、少し前のストリーミングコンテンツよりははるかに上質だ。回線がADSL以上なら、音飛びなどもない。

これが「ブロードバンド」の力なのだなあと痛感させられる。
地上波デジタル放送なんかにお金をかけているより、ブロードバンド環境を整備して、こうした番組を増やしたほうがずっといい。
毎晩、日本各地のライブハウスからインターネットを通じて生の映像が発信されるようになったら、どんなに素晴らしいだろうか。
しょーもない番組をハイビジョンで見るより、自分の気に入ったアーティストを葉書大の画面で楽しむほうがはるかに幸せだ。

これが進むと、音楽著作権ビジネスはますます変革を迫られるだろう。
あるピアノバーのオーナーは、毎晩出演するアーティストが演奏している曲目についてきちんと著作権料を支払わないなら、店のピアノを差し押さえると「その筋」から脅されたそうだ。
カラオケ店が支払っているのだから、ピアノバーも当然支払わなければならないというのは道理ではあるのだろう。機械がその楽曲を再生しているか、人間が「再生」しているかの違いに過ぎないのだから……という論理だ。
しかし、そうした話を聞くにつけ、著作権ビジネスとはなんなのだろうと疑問に思わざるをえない。

ピアノバーでのピアニストの演奏は、通信カラオケマシンがMIDI音源を鳴らしているのとはまったく違う文化だ。もちろん、その伴奏で歌う歌手も同じことで、演奏には当然オリジナリティが生じ、固有の芸術活動が生まれる。客はそれに対して対価を払っている。
演奏家が、音楽活動を続けるために不本意なアルバイトを続け、身体を酷使しながらライブ活動を続けている一方で、あらゆるところから徹底的に「権利料」を徴収しようとするビジネスがある。
これはあくまでも「法律論」ではない。感情的に、生理的に、やりきれない思いがするということだ。
インターネットライブにしても、今後はこれによって儲けようとする動きや、放送利権の分散・流出を怖れて妨害する動きなどなど、様々な思惑がぶつかり、紆余曲折を余儀なくされるだろう。単純に「すごいすごい」と喜んでいられるのは今だけかもしれない。

「ピアノを差し押さえるぞ」と脅された店のステージには、アメリカと日本を行き来して精力的に音楽活動を続けている実力派の歌手がときどき出演する。その歌手の自作曲は、日本ではほとんど知られていないため、過去、何度も盗まれたそうだ。
テレビを見ていると、CMの後ろで自分が作った曲を他のアーティストが歌っている。デモテープをあちこちに持ち込んでいるうちに、どこかで盗まれたのだ。
そのアーティストは、法廷闘争をする気力はないという。盗んだ側があまりにも強い力を持っていて、勝ち目がないからだ。
パワーゲームの中での「著作権」は、原作者を守らず、盗人を守ることのほうが多い。

こうしたことが、音楽業界では日常茶飯事になっている。
やりきれませんねぇ。
ま、暗くならず、明るい方向で考えていきたいものです。
今回はともかく、インターネットライブ! すごいなあ……と。
(もちろん、東京近郊のかたは、インターネットライブなんてしょぼいものではなく、ぜひお店に足をお運びの上、「生」をお楽しみくださいませませ。)
松子と杉作
■松子(右)と杉作(左)
いつもライブの前にはどっちにするか迷う。
松子は表板がドイツ松、杉作はスプルース(杉)



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