ありがとう

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 この曲『ありがとう』が生まれるまでのいきさつが1冊の本になる。99年12月に刊行予定の『ありがとうの歌』(ポプラ社)だ。
 作詞者は広島県在住の栗栖晶さん。
 ことの起こりは、TBSラジオ『五木寛之の夜』でCD『狸と五線譜』が紹介され、僕がゲスト出演したときに聴いていた女性が、CDと本のプレゼントに応募したことにまで遡る。
 そのとき出版した『天狗の棲む地』という小説と、CD『狸と五線譜』をセットにして10名様にプレゼント……ということだったのだが、300枚ほどの応募葉書があった。
 その中に、広島出身のAさんという女性からの葉書もあったのだが、抽選からは漏れてしまった。
 応募葉書の中には、「お金を出してもこのCDを買いたいので方法を教えてください」とか「ライブはないのですか?」などという要望や質問が書き込まれたものも多数あった。
 そこで、番組ディレクターに頼み込み、外れた葉書も全部見せてもらったのだ。
 その中に「視覚障害者のために本の音声訳のボランティアをしている」という人からのものがあった。それがAさん。彼女を含め、気になった応募葉書を個人的にさらに10通選びだし、自費でCDをプレゼントした。
 Aさんはそれに感激し、追加で何枚もCDを注文してくれた。で、郷里の広島に帰った後、栗栖晶さんにCD『狸と五線譜』をプレゼントした。栗栖さんはこのCDをことのほか気に入り、「たくきさん だいだいだいすきよ ちゅう」などという熱烈なファンレターを出す。そして数年後、こんな手紙が来た。


 たくきさんひさしぶりー。くりすあきらです。げんきですかー。はるがきましたね。ひろしまは、いいてんきです。ぼくは、このあいだまたてれびにでました。ありがとうのしが、みんながすごいというので、しょうかいされたのです。だいぶんまえに、あきむらさんがあんがじえのしーりーを、おくってくれました。ぼくが大よろこびをするから、くれたのです。ぼくは、大よろこびをしました。このあいだ、ぐりこのあいすくりーむをたべて、しいでいぷれやーがあたったので、みみせんをして、あんがじえをきいています。やっぱりぼくは、たくきさんのおんがくが大すきです。
たぬちゃんはげんきですかー。よぼよぼたぬちゃんに、ながいきをするんよーというといてください。ぼくの大すきなたくきさん、ぼくのおねがいをきいてください。ぼくがかいた、ありがとうのしに、おんがくをつくってください。ありがとうのしは、ぼくがじんぞうがわるいので、おしっこのでが、わるくなって、ねつがでて、にゅういんして、しにそうになったときに、みんながしんぱいをしてくれたので、ありがとうのしをかきました。あきむらさんもしんぱいをしてくれたんよ。ぜんこくの人が、しんぱいをしてくれました。だから、たくきさん、ありがとうのしに、おんがくをつくってください。ぼくからのおねがいです。
ぼくのことをしんぱいしてくれた人にみせたら、おおよろこびをしてくれるとおもいます。(中略)
たくきさん、いやだーというたらいけません。あきらくんぼくにまかしとけーというてください。おねがいします。ぼくはびんぼうなので、おかねがないのです。だから、おかねもちになったときに、はらいますので、おんがくをつくってください。




 正直言って、とても悩んだ。凄く難しい注文だったから。
 下手すると、えらくベタベタしたものになりそうだった。僕としてはあくまでも「歌」として、自分でも好きになれるサラリとしたものにしたかった。世間はそうは望んでいないのだろうけれど。
 悩んだ末、『アンガジェ』の中にも収録した『Lady Goblin』をベースにしてボサノバ的な曲に仕上げてみた。おかげで、多くの人からは「難しくて歌えない」と言われてしまった。
 このへんの顛末は、別館「あきらくんの手紙」や、「草の根通信」の27号28号に詳しい。

 栗栖さんには自分で歌ったラフなデモテープを送ったのだが、いつかきちんとCDにしたいと思っていた。といっても、『ありがとう』だけのためにCDを作るのは難しい。今回、いい機会なので、最後にはこの『ありがとう』を入れることにした。
 悩みに悩んだのは歌手をどうするかという問題。実は、5人候補を挙げて、声をかけた。結局、最後は清水さんにお願いした。
 僕としてはもう少し「みんなのうた」風でもよいかと思ったのだが、彼女は「空気的」に歌いたいと言ってきた。こういう歌だからこそ、さっぱりと音楽的にやりたいというわけだ。対象と距離をおいた歌い方とでもいうか。
 意図はよく分かる。僕自身、純粋に音楽的に考えたらそうするに違いない。そこまで踏ん切れなかったのは、勇気がなかったからだ。彼女の「意志」で、最後は「これでいいのだ」と踏み切れた。
 きっと、この曲には様々な異論が出るだろう。難しくて歌えないという意見は今に始まったことではないが、もっとメリハリ効かせて元気よく歌ってほしかったとか、歌のお姉さん風にやればよかったとか……。でも、そういうのはすべて予測した上で、最後にはこうまとめてみたのだから、却下!

 栗栖さんにCD収録版の『ありがとう』をテープに入れて送ったところ、こんな返事が来た。


たくきさん、うれしいかった。ぼくのしが、ぜんこくの人に、きいて、もらえるんですね。
おとうさんがね、しあわせすぎて、ばちが、あたらんかのー。いうんよ。(中略)きれいなおんがくに、なって、きれいなこえで、うたって、すごいとおもいました。がいこくの、おしろのおひめさまみたいな、こえを、した人ですね。みんなが、よろこんでくれるとおもう。ぼくも、なんべんもきいています。たくきさんは、しみずさんと、ともだちなんですか。いいね。たくきさんと、しりあいになって、とくをしました。
あたらしいありがとうは、おんならしいおんがくになったね。しみずさんに、ありがとうというといてください。あきらくんが、よろこんどったよ。というといてください。CDたのしみにまっています。ゆめみたいです。たくきさんにあえてえかった。ぼくも、たくきさんの、やくにたつにんげんになりたいです。
カープが、よわいので、つまらん。ことかんゆうは、まくした、3まい目まで、あがりました。いま、1しょう1ぱいです。CDが、できたら、ことかんゆうと、じごくのそうべいの、たしまゆきひこさんと、田しませいぞうさんと、いな本ただしさんと、いわむらかずおさんには、あげようとおもいます。ありがとうのおんがくをほめてくれたからです。
しらんかおした人には、もうあげません。ごうりき先生は、たくきさんのおんがくが大すきです。先生は、おかねもちだから、かって、もらいます。あきむらさんもおかねもちだから、かってもらいます。たくきさん、いつかあえったら、ええね。またねくりすあきらより 7月9日
 
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