福島県
滝根小白井風力発電事業なるものがある。
我が家から3.5kmほど離れた阿武隈高原牧場と、隣接する金山牧場というところに、2000kwの巨大風車23基を建てるというものだ。
敷地はいわき市と田村市にまたがっているが、田村市の議事録を見ると、「観光誘致になる」などと言って、市はむしろ積極誘致したようだ。
現在、すでに工事が進んでいる。今から止めるのはかなり難しいだろう。
建設地は一般には目に入らない場所にあるので、付近に住んでいる人たちも、工事の進捗状況などはよく分かっていないと思う。僕も、すぐ横をいつも通っていたのに気がつかなかった。
付近には人家もあり、近いところでは数百メートルというところだろうか。住民の健康被害が心配だ。
豊橋市の細谷風力発電所(1500kw1基)付近では、3km離れた家に住む人が不眠などの健康被害を訴えている。
「3kmも離れているから大丈夫だと思っていた。まさか自分が……と思ったよ。風車からの騒音は聞こえるが、夜中かすかに聞こえる程度なので、最初はなぜ起こされるのか分からなかった。低周波の被害は2kmくらいまでと聞いていたのに……。しかし、
現に私は3km離れていても苦しんでいる」
(参照:「南伊豆に今、何が起こっているのか?~ 渥美半島の風車被害から学ぶこと~」)
こうした訴えを、風力発電事業者は「あれはごく一部の人たちが騒いでいるだけのこと」「風車との因果関係は証明されていない」「500m以上離れていればまったく問題ない」などと言って退ける。
低周波は感じる人と感じない人の差が大きいという。低周波に敏感な人は、風車が回り始めてすぐに体調を壊すようだが、半年位してから自覚し始める人たちや、感じない人たちもいる。この場合、「感じない」ことが無害を意味するとは言えない。感じていなくても、身体には影響が蓄積されていて、将来それが何らかの形で現れる可能性もある。
因果関係が証明されることは期待できない。証明されたとしても何十年もかかるだろう。水俣病、アスベスト被害、薬害エイズ・肝炎……どれも、国が原因を認めたときにはすでに多くの人たちは命を落とし、健康を害した後だった。
「500m以上離れていれば」云々については論外だ。風車の建設基準を定めた法律やガイドラインは存在していない。風力発電事業者が持ち出すのは、環境省が平成16年6月に出した「低周波音問題対応の手引き書」なる文書だが、これを「建築基準の参照値」として利用してもらっては困る、という事務連絡が環境省から平成20年4月に出ている
⇒こちら。
内容は、以下のようなものだ。
1 参照値は、固定発生源(ある時間連続的に低周波音を発生する固定された音源)から発生する低周波音について苦情の申し立てが発生した際に、低周波音によるものかを判断するための目安として示したものである。
2 参照値は、低周波音についての対策目標値、環境アセスメントの環境保全目標値、作業環境のガイドラインなどとして策定したものではない。
3 心身に係る苦情に関する参照値は、低周波音に関する感覚については個人差が大きいことを考慮し、大部分の被験者が許容できる音圧レべルを設定したものである。
なお、参照値は低周波音の聴感特性に関する実験の集積結果であるが、低周波音に関する感覚については個人差が大きく、参照値以下であっても、低周波音を許容できないレべルである可能性が10%程度ではあるが残されているので、個人差があることも考慮し判断することが極めて重要である。
しかも、これらはあくまでも「感じるかどうか」についての話であり、実際に健康にどのような影響が及ぶのかなどはまったく分かっていないし、それゆえにガイドラインを決められるはずもない。
要するに
現時点では「正確なことなどなにも分からない」のである。
分からない以上、「安全だ」などと言いきれるはずもない。空論をかざして安全を主張するのではなく、実際に被害を訴えている人たちの声に耳を傾けるしかないではないか。
1500kw風車が1基建っただけでも、3km離れている家で不眠症状などを訴えている人がいる。他にも多数の人たちが実際に苦しんでいるという報告がある。これらを無視していいとする人の根拠はなんなのか。
実証主義者のかたは、データが出そろってからでないと議論を始めることもできないのかもしれない。
だとすれば、待つしかない。データはこれから少しずつ、長い時間かけて作られるだろう。そうした研究をしても「新エネルギーで温暖化防止」などという政府にすり寄った研究ではないから、研究者は儲からない。すでに政府が国策にしてしまった事業の問題点が明らかになる研究だから、邪魔される恐れもある。
ところで、滝根小白井の巨大風車建設予定地から2kmも離れていないところに、いわき市立小白井小学校、小白井中学校がある。
巨大風車群から2km以内に小中学校があるというケースは、全国でも稀なのではないだろうか。となれば、ここは貴重なデータを提供する現場になるだろう。2000kw×23基の風車が小中学校の2km以内にあっても生徒や教職員の健康にはまったく問題がなかった、あるいはあったというデータが10年後、20年後には出ているはずだ。
そう、この学校は人体実験の現場にされるのだ。
しかしそれは、はっきりした数値で表せる実験データにはならないだろう。風車稼働後、授業中、気分が悪くなる生徒が増えたような気がするとか、寝不足顔で疲れた様子の生徒が増えたような気がするといった程度のことであれば、「気がするだけでしょう」と片づけられるに違いない。
ましてや、癌の発生率が上がったとか、不妊症だと診断された、といったケースが将来出てきても、子供のときに巨大風車のそばで過ごしたことに一因があるなどと証明できるとは思えない。
曖昧なまま、時間が流れていく。ただ、多くの住民は「あれはまずかった」「建たなければよかった」と直感するようになっているだろう。
子供たち……人間より先に、もしかすると野生動物が兆候を知らせてくれるかもしれない。
小白井小中学校とは反対側(風下側)に約2km離れたところには、モリアオガエルの繁殖地として国の特別天然記念物指定を受けている平伏沼(川内村)という小さな沼がある。ここには毎年6月、木の枝からぶらさがる中華饅頭のような卵塊がたくさん見られる。
川内村では管理人を派遣して、毎年卵の数を記録している。
両生類に低周波がどう影響するのかは分からないが、風車稼働後に卵の数が激減するようなことがあれば、重要な警告になるだろう。
これも、もちろん現時点では仮説に過ぎない。
分からないことはたくさんある。しかしはっきりしていることもある。
巨大風車がもたらすものはマイナス要因ばかりであり、プラスはほとんどないということ。
すでにこの計画のために使われた石油は相当な量になる。1枚の長さが数十メートルの羽根を運ぶために、林道は拡幅され、地元の人たちが植林したブナは伐られ、送電線のために地下ケーブルが埋められた。
一体、なんのために?
道路の建設などと違い、それによって生活が便利になるわけではない。地元の建設業者や地権者には、少しは金が落ちるかもしれない。工事の人たちが寄ることで、食堂や商店も一時的には売り上げが伸びるかもしれない。
……だが、それだけだ。代償として、健康被害の不安を抱え、環境は破壊される。むろん、この風車によって「きれいな電気」が作られるわけではない。人々を不幸に陥れる汚れた電気を、必要のない電力会社に法律で無理矢理買い取らせるだけだ。東電も、本来そんな面倒な電気はほしくない。ほしくないけれど、国によって買電義務を負わされてしまったから買うしかない。買う以上は「クリーンエネルギーを使っています」というPRに使う。赤字を少しでも埋めるために、グリーン電力証書などというものにも協力する。あるいは風力発電事業者を子会社にして、決算上の穴埋めをしやすくする。そんなことをすればするほど、自分の首を絞めることになるはずだが、ボタンの掛け違いがどんどん矛盾を大きくし、後戻りできにくくさせている図なのだろう。
ビジネスとして成立しないのだから、遅かれ早かれ全国の風力発電事業者は倒産するに違いない。
そうなったとしても、最後まで傷を負わず、おいしい思いをするのは、新エネルギー開発を旗印にして天下り先をたくさん作って税金をむさぼった官僚たち。資材を売り抜ければ、商社も儲かったまま食い逃げだろうか。風力発電会社や関連会社の出資元をたどっていくと、必ず10電力会社と大商社に行き着く。
20年後(僕は生きていないだろうが)、阿武隈山系のあちこちに、巨大な風車の残骸が風雨にさらされているに違いない。人間の愚かしさと醜さを語る物証として。
建設地から2kmも離れていないいわき市立小白井小中学校
校庭の桜はまだ咲いていない(2009年4月9日撮影)
風車建設現場
向こうに見えている裸地も建設現場
風車建設工事のために濁ってしまった沢
Googleの地図で確認したいかたは↓こちら
より大きな地図で 滝根・小白井風力発電事業建設地周辺 を表示
風力発電被害に関するミニリンク集
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ノーウィンドファーム・ネット こちら
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南伊豆に今何が起こっているのか? ~ 渥美半島の風車被害から学ぶこと~ こちら
TOPページ「風力発電問題 南豆の和」 こちら
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風車病とは? こちら TOPページ 黙殺の音 低周波音 こちら
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伊豆熱川(天目地区)風力発電連絡協議会のブログ こちら
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ドンキホーテの会 第一回発電風車シンポジウム【低周波について】 こちら
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これだけは止めなければ─エコビジネスの裏に潜む悪魔─(阿武隈日記) こちら
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朝日新聞の風力発電被害の記事 こちら=
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強風で風車が一瞬にして粉砕した映像 ↓こちら
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風力発電はこれでいいのか 汐見文隆(医師)公式サイト こちら=
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「温暖化の脅威を語る気象学者のこじつけ理論」 by 槌田敦 ……を転載したブログ 言の葉の幹を捜す
「境目を造る環境」から「響き愛の環響」へ こちら=
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段が峰の自然(段ヶ峰の風力発電を考える朝来市民の会) こちら
ο09/03/05 松阪市議会・一般質問(松阪・白猪山の風力発電)の内容(松阪市議会議員 海住恒幸 Report) こちら
ο保坂展人衆議院議員が提出した風力発電施設に関する質問主意書の内容 こちら
および、それへの
政府の答弁書 こちら
οブログ 弁護士の法的独白「風力発電の電気購入について」 こちら
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マスコミに踊らされないための地球温暖化論入門 こちら
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福井県敦賀市市議会議員今大地はるみさんのブログ(風力発電事業関連の報告あり) こちら
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ブログ”黙殺の音” 低周波音 こちら
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朝日新聞の記事「風車新設各地で反対 周辺住民へ説明不可欠」(編集委員・武田剛) こちら
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白滝山パトロール(ブログ) こちら