次期首相である民主党の鳩山由紀夫代表は、首班指名される前の9月7日、都内で開かれた地球温暖化対策に関するシンポジウムで講演し、「温室効果ガス排出削減に関する2020年までの中期目標について、1990年比25%削減を目指す」と明言した。
このことは各メディアがその日のトップニュースで伝え、あたかも民主党政権の最大目標がCO2削減であるかのような印象を国民に与えた。
この発言の反響は日本だけではない。海外メディアにもいち早く取り上げられた。
英国BBCでは「Japan vows big climate change cut」と題してこの鳩山発言を報じている。
解説にはごていねいに「The ambitious target amounts to an emissions cut of about one-third from current levels in just 11 years, in a country that already uses energy efficiently.
The new government now has some serious thinking to do about how to turn rhetoric into reality.」
(この目標値は、すでにエネルギーを効率よく使っている日本という国で、あと11年の間に排出量を現状の3分の1にするというものだ。日本の新政府はその言葉を本当に実現できるのか真剣に考えたほうがいい)と結ばれている。
当然、こんなことは無理だから、欧米が日本に対して仕掛けている「排出権取引」という名の国際的大規模エコエコ詐欺の餌食に日本は喜んでなりますよと、率先して言い出したということだ。
欧米の政治家、企業は、笑いが止まらないだろう。これは今までの政府よりずっとちょろいぜ、と思ったに違いない。
鳩山氏はさらに、
「意欲的に温室効果ガス削減に努める途上国に対しては、先進国は資金的・技術的な支援を行うべきである」
「支援の具体策についても、将来『鳩山イニシアチブ』として、国際社会に問うべく、新内閣発足直後、直ちに検討を開始したい」
とまで述べた。
どうも鳩山氏は、金と技術を注ぎ込めば問題は解決できるのだというおぼっちゃま思考からまったく抜け出せないらしい。
この調子では、よほど周囲がしっかりしないと、欧米からいいように食い物にされ、日本の大切な財産がどんどんむしり取られていくだろう。
ついでに言えば、借金まみれの日本に、途上国への支援をこれ以上増やせる余裕があるとは思えないが、もし余裕があるのだとしたら、CO2がどうのではなく、工場排煙や自動車排ガスの脱硫技術や、もっと原初的には、井戸掘り支援であるとか、そういう分野で技術援助をするべきだ。例えば、石炭を安価に入手できる環境にある国であれば、石炭火力発電から出る排煙の脱硫効率を上げることがいちばん大切なことだ。京都議定書に参加していない中国では、未だに脱硫措置をしっかりしないまま石炭、石油をばんばん燃やしている。これはCO2の問題ではなく、排ガスの硫黄分や粉塵による大規模環境破壊を引き起こしている。
二酸化炭素温暖化説というのは(百歩譲ってまともに取り合ったとしても)「仮説の一つ」にすぎない。実体は単なる国際政治の道具である。そんなことは、欧米のトップたちはみんな分かっている。
政治というのはきれい事では進められない。鳩山氏には、清濁呑み込んだ上で、よりましな「政治判断」をするという芸当を期待できないようだ。というより、基本的な知識が欠けているらしい。彼の表情を見ていると、「分かった上で何かの計算で言っている」のではなく、どうも「本気で二酸化炭素温暖化説を信じ切っている」ように見える。
これは恐ろしいことだ。
彼にちゃんとアドバイスするスタッフは民主党内にいるだろうか。数人規模で分かっていたとしても、多勢に無勢で押し切られてしまうのではないか。
基本認識が間違っている人間が権力を持ち、「善意」で間違った政策を推し進めようとすることほど恐ろしいことはない。
脱官僚政治どころか、知識やずるがしこさでははるかに上を行く官僚たちに、自公政権以上にいいようにコントロールされてしまう可能性もある。
真剣な顔で「CO2を25%削減」と言い切った次期首相を、官僚たちはどう見ただろうか。
困ったおぼっちゃまだと苦笑すると同時に、これからは「環境」に絡めて税金を吸い上げるシステムをどんどん進めていけばいいのだと、改めて作戦を単純化させたに違いない。
「これは環境にいいですよ」「環境のためには絶対に必要なものですよ」と言いさえすれば、簡単に予算がつく。政治家への面倒な裏工作も入らない。こんな楽なことはない。
環境を守るための技術開発への援助ですから、水素エネルギー研究分野にはいっぱい予算をつけましょう。環境にいい車を安く買ってもらうために、補助金をつけましょう。日本中の建物の屋根には太陽光パネルをつけましょう。風力発電は狭い日本では建てにくいので、立地条件を緩和して建てやすいようにしましょう。「新」エネルギーで発電した電気は、税金を投入して高く買い取らせ、保護しましょう。出力変動に対応するためにはスマートグリッドや大規模蓄電池がどうしても必要です。新政府が率先してそうした事業を進めないと、地球温暖化はますます進んでしまいます……。
……こうした論法でどんどん無駄な税金が使われ、新しい天下り先ができていくのだとしたら、自公政権が放ったらかしてきた白痴政治の集大成、総仕上げを民主党政権がやる、ということになりかねない。
大切なことは、
- 限りある資源を無駄に使わない
- 自然の循環システムを壊さない
- 物理的生産増加ではなく、精神的満足度を重視した価値観への転換
ということである。
CO2温暖化説というのは、限りある資源を無駄に使うための言い訳に利用されている「ビジネス戦略」であって、これを理由に税金が投入される事業、それを後押しする立法は、自然破壊を進めるだけだ。
風力発電は最も典型的な自然破壊型エコエコ詐欺ビジネスだが、太陽光発電も似たり寄ったりではある。
ただ、日本のビジネスシーンを考えたとき、太陽光発電を今後の日本の工業発展に組み入れるという戦略は、国際的な経済力競争の中では有効かもしれない。これは欧米がアジアやアフリカに巨大風車を輸出しようとしていることの裏返しでもある。それが資源節約に役に立つかどうかは別にして、有力な輸出品目として技術力を育てるという「国家戦略」はありえるだろう、という意味だ。政治というのはそうしたずるい部分を持つ。「環境」を武器に、日本から金を吸い取れるだけ吸い取ろうとしている欧米先進国に対しては、そうしたずるさや、馬鹿を装って問題をはぐらかしたりすり替えたりする技術も必要かもしれない。太陽光発電ビジネスにはそうした側面が大いにあり、単純には論じられない。
しかし、風力発電はもぎ取られるばかり、日本の国土を破壊するばかりである。日本の経済界にとっても、プラス面はほとんどない。ごく一部の企業が税金投入のおこぼれにあずかって儲け逃げするくらいのものだろう。
民主党はまず、官僚たちが吸い取ってきた税金を奪い返すことに最大限の努力を傾けるべきである。温暖化防止だのなんだのという言葉はしばらく呑み込んでおいたほうがいい。分かっていないまま調子のいいことを言えば、日本を危機にさらすだけだ。
あと10年もしないうちに、CO2温暖化説がただの詐欺だったということははっきりするだろう。その10年で新政権がやらなければならないことは、他に山ほどある。