たくき よしみつ デジタルストレス王(キング) 鐸木能光

2010年3月07日執筆 8月4日加筆 12月20日校正

BS17(BS291,BS292,BS294,BS295,BS296,BS297,BS298)とはなんなのか?

地デジ難視聴対策用BS放送(BS17)のスクランブル(暗号化処理)は即刻解除せよ

BS294ってなんだ?
↑録画機が自動的に検出した、BS17(難視聴対策用BS)チャンネルの放送番組表


番組録画予約しようとしていて気がついた。録画機が今まで見たことのないチャンネルの番組をピックアップしている。BS294ってなんだ?
調べてみたら、BS17が放送開始していたのだった。
BS17とは、地デジ難視聴地域のために、首都圏のチャンネル(NHK総合、教育、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレ朝、テレ東の7チャンネル分)の放送をBSデジタルで放送するというもの。
で、このBS17というのは帯域を表す記述(物理チャンネル番号)で、当初はこう呼ばれていたが、今はもう誰も「BS17」とは呼んでいないようだ。「衛星(による)セーフティーネット」とか、「地デジ難視対策用BS」などと呼ばれている。
個別チャンネル番号でいうと、

BS291 NHK-G東京
BS292 NHK-E東京
BS294 日本テレビ
BS295 テレビ朝日
BS296 TBS
BS297 テレビ東京
BS298 フジテレビ

……となる。これが放送開始していたのだ。
ただし、画質はハイビジョンではなく、標準画質だ。しかも、B-CASによるスクランブル(暗号化処理)がかけられているため、スクランブル解除登録されたB-CASカードを使わないと受信できない。
つまり、「難視聴地域住民」と認定されたテレビ以外では受信できないようにしている。

↑このように、スクランブルがかかっていて見られない

この政策をおかしいと思わない総務省とは、どういう役所なのか。
PSE法騒動(中古家電を売ると罰せられるというとんでもない悪法施行を強行しようとした)のときも呆れ返ったものだが、相変わらずである。当然、誰かまともな人間がストップさせ、スクランブルなしの放送を開始するだろうと思っていたのだが、まさかそのまま強行するとは……。
「難視聴対策」の放送にスクランブルをかけてどうするのか!
公共放送であるNHKでさえスクランブルがかかって見られないのだ。
村内の友人宅は、地上波放送電波(VHF、UHF)は一切届かない山の中にある。衛星放送は受信可能なのでもっぱらNHK BSを見ていたが、ある日、やはりこの難視聴対策チャンネルに気がついた。さっそく彼もセンターに電話をしたが「おたくの住所はリストに入っていませんので……」の一点張りで、埒があかない。
「昔から電波入らなくて、地上波は見られないんですよ。それは村役場も把握していることです」
と説明したが、「お宅の住所がリストに入ってから、自治体の担当窓口に解除申請をしてください」としか言わない。
どこが難視聴対策だ! と、彼も呆れ返っていた。

さらに許し難いのは、放送エリアによってスクランブルを解除できるチャンネル(見られるチャンネル)を制限していることだ。
例えば、ここ福島県はまだ(2010年3月時点で)難視聴対策BSの受信申請さえできない(スクランブルが解除できない)状況だが、たとえ今後自分のいる地域が電波難民地区だと認定されて、住民側から役所に解除申請をして、ようやらさっとB-CASカードのスクランブルを解除できたとしても、テレビ東京(BS297)は見られない。
これは全国の多くの県がそうだ。BS297(テレビ東京)を受信してよいのは、北海道、関東の1都6県、愛知、大阪、岡山、香川、福岡に住む難視聴認定者だけであり、その他の府県では、難視聴住民であると認定されたとしても、「テレビ東京を見てはいけない」のである。

都道府県別ネットワーク一覧↑(クリックで拡大)

テレビ東京(BS297)だけではない。日テレも、TBSも、フジも、テレ朝も、「見てはいけない」県がある。
上の図は都道府県別でネットワークしているテレビ局一覧だが、このネット数に忠実に、難視聴対策BSで視聴できるチャンネルを限定している。
例えば、山梨県では日テレとTBSは見てもいいが、フジ、テレ朝、テレ東は受信してはいけない。
秋田、福井、徳島、佐賀県ではTBSを見てはいけないので、世界陸上は見られない。
こんなとんでもない差別政策が、なぜまかり通っているのか。

そもそも、BSデジタルやCSデジタル、インターネットを使えば、地デジなど使わなくても、全国津々浦々、どこにいても鮮明なデジタル放送が受信できる。極めて簡単な話だ。
ところが、それをやると、地上波の電波が遠くまで届かないことを逆手にとって地域利権を形成してきたテレビ放送業界を再編成しなければならなくなるため、総務省はひた隠しにしたい。国民にそのことを気づかせたくないから、地デジなどという無駄なことを推し進めている。

PSE法(中古家電を売ってはいけないという悪法)は、国民の一部が異を唱えたために改正された。難視聴対策BSのスクランブル解除も、多くの国民が声を上げればいいのだが、いかんせん、この問題は、都会に住む人たちにはほとんど関係がない。地方に住む人、特に、過疎地や山間部で暮らす電波弱者という、少数派の権利が蹂躙されているというローカルな問題なので、結局は政府や業界のいいようにされてしまう。
しかし、「自分には関係がないから……」と思っている都会の人たちにも言いたい。
難視聴対策BSに投入された金のもとをたどれば、税金であり、視聴料であり、私たちが購入した商品やサービスに含まれている広告費である。そういう金が投入されているプロジェクトなのである。
また、難視聴対策BSがあなたには直接関係ないとしても、この国が、平気で国民を差別する法律を施行していることは知っておいたほうがいい。
BSやCSという、すべての国民が平等に享受できる権利を区分けして、地域によって格差をつける。使えるインフラをわざわざ制限して、一部の企業利益を優先させる。
この国ではそういう施策がとられているのである。
民主党政権に代わっても、総務省の体質は変わっていない。
スクランブルをかけていなければ、全国でこのチャンネル(首都圏で放送している無料地上波放送)↑は見られるのである。
「なんだ。最初からこうすればいいだけのことじゃないか」と気づかれてはまずいので、必死に隠している。難視聴対策BSというものがある、ということを知っている国民がどれだけいるだろうか。スクランブルを解除するだけで、全国民が首都圏で無料放送している地上波テレビ放送を、今すぐに、どこにいても見ることができるのに、わざわざスクランブルをかけて見られないようにしている。

総務省のサイトには、「地デジ難視対策衛星放送対象リスト(ホワイトリスト)」なるものがある。このリストに含まれている地域の住民は難視聴対策BSを見ることを許可するので、申請して、難視聴対策BSのスクランブルを解除する手続きをしなさい、というものである。
福島県のリストを見ると真っ白だった。(2010年3月時点)
問い合わせ先の電話番号にかけてみると、美しい声の女性が出て「現時点では都内のホワイトリストができたばかりで、福島県はじめ、他の道府県のリストはこれから順次発表されていきますのでお待ちください」と言う。
なぜそんな馬鹿げたことをやっているのか。
難視聴対策BSは標準画質に落とした放送だから、地デジを見られる人は難視聴対策BSなど見ずに、地デジを見るに決まっている。地デジを見られない人のための「地デジ難視対策衛星放送」なのだから、暗号化などせず、誰もがどこでも受信できるようにすればいいだけのことだ。
「見てはいけない」という根拠はなんなのか。
同じ日本国民でありながら、見ていい人といけない人を作りだす根拠はなんなのか。
同じ県民でも、地デジの電波が入らない場所では首都圏の地上波を見てもよくて、すぐそばの電波が入る家では見てはいけないというのだ。しかも、県別に、見てもいい放送局といけない放送局を決めて、厳密にスクランブルをかける。
福井県民は日テレを見てもいいが、TBSを見てはいけない。沖縄県民はTBSを見るのはいいが日テレは見てはいけない。……そういうことを国が決めて押しつけるのである。

「こんな馬鹿な話はないですよね?」
担当窓口の女性「そうですよねえ。私もそう思います。誰でも見られるようにすればいいと思うんですけれどもねえ。もう決まってしまったことで、今から変わることはないんだそうです」

問い合わせ先の担当者でさえ「変ですよねえ」と認めているわけで、なんだか気の毒になってきた。
理不尽な仕事に従事しているなあ。これから先、たくさんの人からお叱りを受けるんだろうなあ。
難視聴対策BS(個別放送番号BS291,BS292,BS294,BS295,BS296,BS297,BS298)にスクランブルをかけなければ、彼女の仕事ははるかに軽減され、もっと役に立つ仕事ができるのに、こんなところでも無駄な金が使われているのである。

↑2009年7月22日付 福島民友
この問題については以前から機会があるたびに訴えてきた。YomiuriPCの巻頭ニュース記事で書いたし、昨年夏には共同通信社から依頼を受けて、難視聴対策BSの許されざる格差政策問題点について書いたコラムが全国の新聞社に配信された。
以下、そのときの原稿を丸ごと再掲してみる。

 テレビをつければ毎日「エコ」の大合唱である。ところが、そのテレビの画面右上には「アナログ」の文字が出て、早く買い替えろと促す。
 アナログテレビは、今なお1億台以上あるという。この「普通に使えている」テレビが、2011年7月24日を境に、そのままでは映らなくなるという国策が進められている。
 巨額の税金を投入して国民の財産を奪い、大量の粗大ゴミを生じさせる「国策」が許されるのか。それに見合うメリットがあるのか。そうした当然の疑問に対する納得のいく答えが示されないまま、ここまできてしまっている。
 さて、今回は、別の視点の問題を提起したい。
 地デジとは「地上波デジタル放送」のことだが、実は、テレビの総デジタル化を強行する総務省自身が、地上波だけでデジタル放送を行き渡らせることはあきらめている。
 地上波(UHF波)が届かない空白地域は、ケーブルテレビ、高速通信回線、衛星放送を使って埋めていくという。
 衛星放送については、BS17チャンネルを使い、首都圏で放送されているNHK(総合・教育)と民放5局の放送を同時送出することがすでに決まっている。
 しかし、BS17チャンネルは、現在のBSチューナーやデジタルテレビ(BS1から15までの奇数番号チャンネルに対応)で受信できるのか分からない。しかも、この放送は暗号化され、暗号を解除して受信を許される世帯は、あらかじめ地上波デジタル放送が受信できないと認定された地域だけだという。
 さらには、受信地域に系列局を開局していない放送局の番組は受信させない方針らしい。例えば、北海道は首都圏と同じ5系列をネットしているので全局受信が許されるが、山梨県はJNN(TBS系)とNNN(日テレ系)の2系列しかネットしていないので、今のままでは他の3局(フジ、テレ朝、テレ東系)は「見てはいけない」というのだ。
 こんな差別が許されていいはずはない。明らかな憲法違反である。
 使えるかどうか分からないBSチャンネルで言い訳のような「難視聴対策」をし、そこにまで情報格差を押しつける差別をする。電波行政を担う者たちの感覚がここまでおかしくなっていることに慄然とする。
 既存のBSデジタル放送を使ってキー局が地上波同様の内容を放送すれば、日本全国、どこにいても同じ情報を得られ、テレビの情報格差は解消する。それをせず、デジタル衛星放送を通販番組で埋め尽くしているのは、地方局の電波利権保護が主たる理由だ。
 しかし、地方局も、従来のように電波による地域住民囲い込みに固執しているだけでは生き残れない。地方局連合を組織し、自局の制作番組をCSやBSで全国送出するといった前向きな戦略に転じるべきだろう。
 利権保護第一の電波行政をやめ、BSデジタルでのキー局番組再送出、インターネットを利用したIPテレビ放送の完全開放をするだけで、地デジはそもそも不要だった。地方局にはアナログ放送を一部残して、より濃密な「地域型放送」の道を探らせることもできたのではないか。
 今からでも遅くはない。これ以上の地デジの設備拡張は中止し、BS、CSの有効利用とIPテレビ放送の完全開放により、視聴者が自分のニーズに合わせて、多くのコンテンツを自由に享受できるようにすべきである。


しかし、これを全文掲載したのは福島民友ただ一社だった。その他数十社の地方紙はことごとく無視を決め込んだ。地方局との関係から、掲載しない新聞社が多いだろうとは予測してはいたが、ここまで徹底しているとは、がっかりさせられた。
この原稿が配信されて8か月経った今でも、ほとんどの国民は難視聴対策BS問題を知らない。メディアが報道しないようにしているのだから、知らないのは無理もない。
かくして、難視聴対策BS(BS291,BS292,BS294,BS295,BS296,BS297,BS298)という放送電波は、なるべく知られないように、ひっそりと発信され、さらにひっそり、こっそりと、B-CASカードによるスクランブル解除受付を始めているのである。
毎日見ているテレビの裏側には、こんなふうに理不尽な暗黒が潜んでいることを、少しでも多くの国民に知ってほしい。
(2010年3月7日執筆 8月4日加筆 12月20日校正)


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