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書 名:鉛筆代わりのパソコン術 著 者:たくき よしみつ 版 型:B5版単行本 版 元:サイビズ(97/4) 価 格:1,800円 ISBN :4-916089-09-X |
■■はじめに■■
なぜパソコンはワープロより使いにくいのか?
●日本はパソコン植民地か?
パソコンを「高級ワープロ」のつもりで購入した人というのは少なくない。最近のワープロ*は高機能化してパソコン並に多彩な芸当をこなすようになったが、扱えるデータ量の多さや処理速度においては、パソコンに水をあけられる一方だ。大容量の文書を一括して扱え、レーザープリンターで高速印刷ができるという点だけでも、パソコンはワープロ専用機を圧倒している。だから、日常的に大量の文書を執筆し、管理していかなければならない「文章のプロ」や文系人間ほど、パソコンを「執筆用具」として必要としている。
ところが、そうした思惑で買ったパソコンなのに、使ってみると操作性は悪く、肝心の処理速度も、場合によってはワープロより緩慢でいらいらさせられることに愕然とする。そもそも、ワープロでは簡単にできていた縦書き執筆環境さえ、パソコンではなかなか実現できない。「縦書き対応」と謳っているワープロソフトも、使ってみると画面は見づらく、視点移動は不自然で、とてもサクサク執筆できる環境ではない。ワープロよりはるかに高性能なCPUを搭載しているはずなのに、入力が重たく、引っかかる感じがしてリズムに乗れない――。
なぜこんなことになるのか?
理由は大きく分けてふたつある。
ひとつは、パソコンがアルファベットを使う横書き文化圏からやってきた無骨な機械だからだ。
ナイフとフォークで江戸前寿司を食うのは難しく、いらつく。同じように、アルファベットという表音文字しか存在せず、書式も横書きしか想定していない国で生まれたハードとソフトが、そのまま縦書き&漢字文化の日本で使えるはずはない。
日本語ワープロ(専用機)は日本で生まれ、最初から「日本語を書く」という目的のために作られている。しかしパソコンは英語文化圏で生まれ、アルファベットを使うソフトにちょこちょこと手を入れて「日本語でも使える」ように化粧直ししただけのものだ。使いにくくて当然なのである。
例えば、WINDOWS95の中のエクスチェンジという通信関連ソフトに付属している「アドレス帳」は、相手方の氏名や会社名を50音順に並べることができない。なんと文字コード順に並べてしまうのである。だから、「や」行の安井さんは「あ」行の安藤さんより前に並ぶ。
もちろん、古河さんが「ふるかわ」さんなのか「こが」さんなのかも区別できない。「こが」さんなら、田中さんの前に入れなければならないし、「ふるかわ」さんなら、田中さんの後に入れなければならない。アルファベットしか使わない人たちにはそんなことは考えもつかない。英語なら、Michaelを「ミシェル」と読もうが「マイケル」と読もうが「ミヒャエル」と読もうが、並ぶ順番は文字のアルファベット順でいいのだから。
漢字表記のデータを50音順にきちんと並べるためには、文字とは別に「読み」の入力が必要になる。つまり、データベースとしてはフィールドがひとつ余計にいるわけだ。当然、日本で使うためにはフィールドをひとつ増やしたアドレス帳を用意しなければいけない。ところがそうした対応を怠り、単純に「日本語化」しただけのソフトを「日本語版WINDOWS95」として発売してしまったわけだ。
かくして、アドレス帳のリストが増えていけばいくほど、実用上はでたらめに並ぶ名前の中から目的のデータを選び出すのはどんどん困難になる。たとえ後から対応したとしても、フィールドの数が違うのだから、それまで入力してきたデータがすんなり引き継げるとも思えない。こんなものを押しつけておいて平気だというのは、日本という国がパソコン文化においては完全な植民地としてなめられているということに他ならない。
ワープロソフトなども、アメリカで生まれたソフトを日本語化したものは総じて使いづらい。文章を縦書きで入力・表示するとか、1ページの中に縦書きと横書きが混在するという発想がアメリカ人にはない。文字にルビを振るなどということも思い及ばない。
レイアウトにしても、欧文には「○字×○行」という考え方がほとんどない。原稿の量は「○語」という数え方が一般的で、1ページや1行に何語入るかは成り行き任せだ。だから、原稿用紙のます目を埋めていく発想の日本人には、アメリカ生まれのワープロソフトはなかなか馴染めない。
今ではワードなども一応はルビ振りもできるし、○字×○行の書式設定ができるようになっている。だが、後からくっつけた機能なので、設定項目の体系がまとまっていない。本来なければいけない「書式設定」というメニューの中になくて、別のところにひっそり隠れていたりする。操作体系がまとまっていないために、マニュアルも依然として分かりづらい。
だからこそ未だにワードより一太郎のほうが好きだというユーザーが多いのである。
●あなたは本当に高機能ワープロソフトを必要としているか?
パソコンのワープロソフトが使いにくいもうひとつの原因は、高機能を追求するあまりに、複雑で巨大なソフトになってしまっているということにある。多機能になればなるほど、本来の「文章を書く」という行為がかえってやりにくくなっているのだ。
一太郎やワードは確かに優れた「印刷ソフト」ではあろうが、単に文章を書くということだけならあんな大袈裟なソフトはまったく不要である。大きくなりすぎたあまりに、反応が遅く、トラブルも多い。
長い文章を書く者にとって、ファイルの事故はいちばん怖い。その事故の確率は、ソフトの複雑さ、重さと比例してくる。巨大なワープロソフトを貧弱なハード環境の上で動かすのは、裸足のまま地雷原の上を歩き回るようなものだ。
メモリ16MB程度のマシンにWINDOWS95を積み、一太郎やワードをプリインストールして売っているなどというのは、私に言わせれば大型車に軽自動車用のタイヤを履かせて売るようなものだ。いつ事故が起きてもおかしくない。ノートパソコンに至っては、標準で8MBしかメモリを積んでいないで「WINDOWS95インストールモデル」として売っていたりするが、言語道断である。事故どころか、はなからまともに動くはずがない。
一太郎やワードなどの高機能ワープロソフトは、今では本格的なDTPソフトに迫る高度な印刷表現ができる。しかし、作ったデータをそのまま印刷所に持ち込めるかというと、そうはなっていない。日本の出力センターや印刷所では、このWINDOWS全盛時代に未だにマッキントッシュのDTPシステムが中心だ。アメリカから出張してきたビジネスマンが、日本にはWINDOWSのデータを扱う出力センターがほとんどないことを知って慌てふためくという話も聞く。そのまま印刷データとして扱えないのに、業務用DTPソフトとなんら変わらないほど高機能化していく巨大ワープロソフトの存在は皮肉としか言いようがない。
改めて問いたい。あなたは高度な文字修飾やレイアウト機能を本当に必要としていますか? そのために肝心の「書く」という根元的な行為が圧迫されるなら、本末転倒だとは思いませんか?
この本は、パソコンを鉛筆代わりに楽々使いこなす方法について述べたものである。そのための方法として、
1)パソコンの環境そのものを、より日本語執筆に特化させる
2)巨大ワープロは「印刷ソフト」「DTPソフト」と考え、執筆のためには軽量でカスタマイズ性の高いエディタソフトを使う
……という2点を主軸に話を進めていく。
この本が、眠りかけている数えきれない数のパソコンを生き返らせ、あなたにとっての愛しく、忠実な秘書、手に馴染んだ筆記用具を作り出す手助けになれば幸いである。
■■はじめに■■
●日本はパソコン植民地か?
●あなたは本当に高機能ワープロソフトを必要としているか?
■■第1部・そもそもキーボードで日本語を書くとはどういうことか?■■
■1■ 日本語環境構築を怠ってきた日本のパソコン界
●英文タイプライターで日本語を書くという無理
●大発明「親指シフト」を殺してしまった犯人は誰だ?
●3種類の入力方式
■2■ 使いにくいキーボードを使いやすくする方法
●太すぎる万年筆、薄すぎる鉛筆で書くストレスを我慢できるか?
●キーボードユーティリティでキー配列を入れ替える!
●日本語入力ソフト(IME)は何がよいか?
●出にくい記号類は辞書登録する
●マウスを使わず、キーで操作する
★絶対に覚えたいキー操作一覧
■3■ 悩む前に知ろうファイル形式の知識
●ファイルの秘密・フォルダの概念
●文書形式の違い
●フロッピーディスクの種類
●不要な改行コードを削除する「取れたぬ君」
●バックアップの3つの意味
●ファイルの複製を保存することの重要性
●フォルダと拡張子による整理
●形式は必ずテキスト形式で
■■第2部 執筆環境整備に不可欠なオンラインソフト群■■
■1■オンラインソフトの大きな世界
●プレインストール・オールインワンタイプパソコンの落とし穴
●なぜWINDOWSはこんなに使いにくいのか?
●オンラインソフトは両刃の刃
■2■すべてはLHAから始まる
●フリー公開された偉大なる標準アーカイバLHA
●WINDOWS3.1はファイルマネージャ拡張メニューで劇的に使いやすくなる!
●95ではまずLHASAを入れよう
■3■いざ!オンラインソフトの世界へ!!
●オンラインソフトをインストールする前に
●いつもLHASAを使う場合
●オンラインソフトの整理の仕方
■4■ 執筆環境整備に欠かせない定番オンラインソフト
●世界一働き者のハムスター「チューチューマウス」
●ボタン型ランチャー
●ソフトの起動方法は二重三重に作っておこう
●クリップボード履歴ソフト
●拡張子DOCの自動判別
●シェアウェアの今後を考える
■■第3部 縦書き編集ができる最強のエディタQX ■■
■1■ 「書く」だけならワープロソフトは不要である!
●小説家はワープロソフトでは書かない?
●「縦書きできます」ワープロの嘘
●エディタこそ最速・最強の電脳筆記具だ
■2■ QXエディタとの運命的出逢い
●私の「縦書きへのこだわり」史
●秀丸を超えた新世代エディタQXの登場
●QX独自の先進機能あれこれ
■3■ QXのインストールと初期設定
●QXのインストール
●「ふすま紙」と「常駐リスト」
●画面のデザインを決める
■書式設定■
●QXの基本操作
●QXの編集機能
●QXでの印刷
■■第4部 マクロが広げるQX無限の可能性 ■■
■1■マクロとは何か?
●QXのマクロ
●マクロキットのインストール
●マクロの実行
■2■ 便利なマクロあれこれ
●付属のサンプルマクロ
●ハチコウさん作の78QXマクロ
●その他のマクロ
■3■ 強力な文字列検索ソフト・QGREP
●GREPとは?
●QGREPの使い方
●QX+QGREPを簡易データベースとして使う
■4■ QXのキーカスタマイズ
●キーカスタマイズはエディタ使いこなしの基本
●「キー設定」画面からのキーカスタマイズ
●ツールバーのカスタマイズ
●INIファイル直接書き換えによる徹底的なカスタマイズ
■5■ 私のQXキー設定を大公開
●私のポップアップメニュー
●私のツールバー
●私のキー設定
●QXに関するサポート、質問など
●謝辞
■付属CD−ROMの内容と使い方
■あとがきに代えて〜パソコン・アレルギーになりかけている人たちへ。
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