たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 デジタルストレス王

S100FS最大の欠点は「書き込み速度」と操作性?

大きさや値段はマイナスとは思わない

こんなにでかいが…… 35mmフィルム換算で28-400mmというズーム比でありながら、F2.8-5.3という明るさを誇る高性能レンズを搭載した超弩級デジカメ フジフィルム FinePix S100FSを持って多摩動物園に行ってきました。
最近、いちばん出番の多いPentax K100D+タムロン18-250mm/F3.5-6.3 と併用しながらのテストです。
レンズの性能だけを見ると、S100FSのほうが明るいし、専用設計である分、有利な気がします。
途中、休憩所でこの2台を並べてみました。大きさはむしろS100のほうが大きく、重さは、わずかにS100のほうが軽いです。要するに、一眼レフと同じ大きさ・重さと考えてください。
S100に対して「こんなにでかい必要があるのか」「この値段なら一眼レフが買える」といった批評がありますが、私はそれは欠点とは思いません。ズーム比は350mmくらいまでに抑えてもよかったと思いますが、これだけの広域ズームレンズなら、この大きさ、重さは仕方ないでしょう。実売価格7万円台(2008年3月時点)というのも、性能からすれば決して高いとは思いません。
手ぶれ補正機能もしっかりした印象で、400mmで撮っても、明るい日中屋外ならかなりきれいに撮れます。
S100で撮ったサンプル
Model - FinePix S100FS
DateTime - 2008:03:04 14:04:25
ExposureTime - 1/480 seconds
FNumber - 7.10
ExposureProgram - Normal program
ISOSpeedRatings - 400
ShutterSpeedValue - 1/481 seconds
MeteringMode - Multi-segment
LightSource - Auto
FocalLength - 62.80 mm
Pモードで、ホワイトバランスや露出などはAUTOで撮ったものです。色味が薄い感じですが、まあ、これだけ撮れれば普通には十分満足ですね。このオランウータン、相当遠くにいましたから。

最大の欠点は記録速度と操作性

しかし、動物のように動き回る被写体を相手にした場合、S100は非常に使いづらいカメラでした。
最大の欠点は書き込み速度の遅さです。連写の間隔は一眼レフを上回るくらい速いのですが、その後の書き込みのときにファインダーに「書き込み中」表示が出て、相当長い時間、撮影を中断せざるを得なくなります。
しかも、その間、ファインダーで被写体を追い続けることさえできないので、再開しようとしたら、相手はもう視界から消えている……という状況が何度もありました。なんでこんな設計になっているんでしょう。
コンパクトデジカメでも、書き込み中、シャッターは切れないものの、モニターが遮断されることはありません。
操作性も最悪で、例えば、省電力モードは電源OFFしかなく、モニターを切って待機モードというのがありません。一度電源が切れると、いちいち電源スイッチを入れ直すしかなく、その際、連写モードなどはリセットされてしまっているので、最初からモード設定をし直す羽目になります。
またメニューモードを出すとき、A200や多くの一眼レフは、メニューボタンを押しただけで、すぐにモニター画面にメニューが出ますが、S100は、ファインダー表示になっているときはファインダー内にメニューが出てしまい、モニターに出すにはいちいちファインダー/モニターの切り替えボタンを押さないといけないのです。 これもちょっと信じられない設計でした。
書き込み待ちは、当然のことながら1110万画素のときにいちばん長くなりますが、ほんとに半端じゃない待たされ方をします。
で、1110万画素の威力がどれだけあるのかといえば、これも非常に疑問で、原寸表示にしてパソコンモニターで見ると、階調が低く、高画素のメリットが生かしきれていないように感じました。
A3ポスターくらいに伸ばして出力した場合も、ほんとうに高画素の違いがどの程度出るのか疑問です。大きく伸ばした印刷物は離れて見るものですから、見た目の粒状感は、600万画素くらいに抑えて撮ったときとあまり変わらないのではないでしょうか。
要するに、私にはどうしてもこの1110万画素は、カタログ数値を出すための無理な設計としか思えないのです。600万画素くらいに抑えて最初から設計してあれば、画素ピッチにも余裕が出て、結果的にもっときれいな絵作りができると思います。メーカーの技術者もそんなことは百も承知の上で、「売るため」に、歪んだ設計をしているんでしょうが、S100のようなカメラは最初から素人を相手にしたカメラではないわけで、そんな素人だましの設計は徹底排除したほうが、むしろ信頼を勝ち得て、売れたのではないでしょうか。
一緒に持っていったK100D+タムロン18-250mm/F3.5-6.3で撮ったものと比較してみましょう。
S100FS
S100FS 1/350秒、F7.1、77.4mm
K100D+タムロン
K100D+タムロン18-250mm 1/250秒、F8、155mm


S100FS 1/640秒、F7.2、102mm

↑顔だけトリミングして縮小表示

↑原寸表示
K100D+タムロン
K100D+タムロン18-250mm 1/500秒、F9、250mm

↑顔だけトリミングして縮小表示

↑原寸表示
こんな感じです。
オオカミの写真などは、おお、一眼レフと遜色ない写りではないか! と感心させられます。
色味が薄いのは、いろいろ好みもあるでしょうから一概には言えません。使い込むに従って、露出を常にマイナス側にして使うとか、色味を濃く調整するといったことでかなり改善される部分もあるはず。(ただし、色味調整も試しましたが、それほどの変化は見られませんでした。色味が薄い、抑えめの色づくりは、このメーカーのポリシーなのか、それとも小型CCDに画素数を詰め込んだ結果なのか……多分、両方でしょう)
ともかく、7万円台のレンズ一体型カメラでこうした超望遠が楽しめるメリットはとても大きいと思います。
しかし、オリンパスのSP580UZなどの小型モデルよりはるかに重く、でかいのですから、せめて操作性はしっかり煮詰めてほしかったですね。
S100FSは実に勇気のある設計で、こうした製品が出てくること自体にはメーカーに拍手を送りたいのですが、ここまでやったからには、なぜもっと素人相手の設計を切り捨てた、「使える」カメラにしてくれなかったのかと悔やまれます。顔キレイモードなんて、このカメラを買おうと思う人たちはおよそ魅力を感じないでしょう。
そんなところに労力をつぎこむなら、フラッシュの角度を変えて天井ストロボができるようにするとか、画素数を抑えてCCDの画素ピッチを目一杯取るといった方向に目を向けてほしいものです。
書き込み中にファインダーが遮断されてしまうというのは論外で、一体何を考えているのかと思います。
それと、AFが合いにくい、遅いのも気になりました。超望遠時は、明るいときでもなかなか合いません。これも、一眼レフの安心感とはほど遠いもので、困ったなあと思います。補助光ONにしておけば、派手に補助光が出るのですが、それでも合わないことが多々ありました。
実は、このカメラ、7万円台なら買おうと思っていたのです。が、試用してみて踏みとどまりました。K100D+タムロンがメイン、サブにA200を持っていく、という今のスタイルに取って代わるだけの安心感がないからです。一眼レフのサブ機とするにはでかすぎるし……。
これ1台でなんでも撮れるのであれば、この重さ・大きさは我慢できますが、シャッターチャンスに弱いというのは致命的です。
多分、この改良型は世に出ないまま終わるのではないでしょうか。そんな気がします。他に類を見ないカメラだけに、本当に惜しい! 今なお、ほとんど使っていないLC1を手放してこれを買おうかな、という気持ちはあるのですが……。
(2012年9月20日追記)
……と思ったのですが、なんと、後継機種と呼ぶべきものが出ましたね。
フジフィルムのX-S1。これは期待できそうです。フジフィルムの「他がやらなくても俺がやる」精神はすばらしい!

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