都市部の災害危険度が高いのは明白
最初に指摘したいのは、
都市部で暮らすことの危険性が年々上昇しているという点です。
国は、今後30年の間に、関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が発生するとされる南海トラフ地震と、首都中枢機能への影響が懸念される首都直下地震が70%の確率で発生すると予測しています(
内閣府「防災情報のページ」)。
この数字を冷静に見つめ直してみてください。東京、名古屋、大阪などの大都市圏で大規模地震が発生した場合、「仕事が」とか「学校が」とか言っていられません。
人口密集地帯でライフラインが破綻すれば、間違いなく地獄絵になるでしょう。
これからの時代、いちばんの安全要素は「
空間の広さ」です。人口密度が低いこと。住居の周囲や建物の生活空間にゆとりがあること。電気や水道が止まってもなんとかしばらくは生き延びられる環境こそが最大の「保険」です。
それは都市部では望めません。どんなにお金を持っていても、コンビニで食べ物や水を買うこともできません。豪華なタワーマンションの部屋も、一瞬にして空中牢獄のような場所になりえます。
命を落とすことがなかったとしても、職場も、学校も、商業施設も、長期間にわたり使えません。
そうした危険の度合いが、空間にゆとりがある地方の生活では、ぐっと低くなります。
もちろん、目下問題になっている新型コロナウイルスなどの
感染症へのリスクも、人口密度の低い地域ほど感染の確率が下がることは言うまでもありません。
自然災害に遭う確率と生き延びる確率
中越地震で家を失った経験からは、多くのことを学びました。
まず、地震災害については予測が不可能だ、ということです。
前述のように、国は南海トラフと首都直下型地震が今後30年の間に70%(!)の確率で発生すると警告しているわけですが、ここ数十年に起きた大きな地震を思い起こしてみると、ほぼ「想定外」の場所で起きています。
中越地震は2004年10月23日に起きました。最大M(マグニチュード)6.8、最大震度7という規模の地震が連続して起きたのですが、これは日本で計測震度計が震度 7を観測した初めての地震でした。
私の家があった川口町の地震計は2,516ガルを記録しましたが、これは当時、世界最高の数値(世界新記録)です。そういう激烈な揺れが襲ったのですから、震源地ドンピシャにあった我が家が潰れるのも当然です。
この地震による死者は68人でした。
この68人のうち52人が「災害関連死」(避難生活中に、ストレス、肺炎、エコノミー症候群などで亡くなったケース)です。
こう言うと怒られるかもしれませんが、直接死が16人というのは、地震の規模に比べて奇跡のように少ないと思いませんか?
ここで、平成に起きた大きな地震を振り返ってみましょう。
阪神・淡路大震災
平成7(1995)年1月17日。震源:淡路島北部。震度7
(当時は計測震度計の適用外。後の現地検証で震度7とされた)、M7.3
死者・行方不明者:
6,437人
鳥取県西部地震
平成12(2000)年10月6日。震源:鳥取県西部。震度6強、M7.3
死者:
0人
新潟県中越地震
平成16(2004)年10月23日。震源:新潟県中越地方(川口町など数か所)。震度7、M6.8
死者:
68人(直接死16人、災害関連死52人)
新潟県中越沖地震
平成19(2007)年7月16日。震源:新潟県中越地方沖。震度6強、M6.8
死者:15人(直接死11人、災害関連死4人)
岩手・宮城内陸地震
平成20(2008)年6月14日。震源:岩手県内陸南部(仙台市の北約90km)。震度6強、M7.2
死者・行方不明者:
23人(内、宮城県内が
18人。岩手・秋田軒が各2人、福島県が1人)
東日本大震災
平成23(2011)年3月11日。震源:三陸沖。震度7、M9.0
死者・行方不明者:18,428人(内、宮城県内が
10,760人。死因の9割は津波による溺死)
熊本地震
平成28(2016)年4月14日。震源:熊本地方。震度7、M6.5
死者:273人(内、関連死が218人)
……これを見て分かることは、
大地震における危険度=震度ではない、ということです。
阪神・淡路大震災における死者数が多いのは、いうまでもなく神戸という大都市が被災したからです。都市部が大地震に襲われれば、火災に巻き込まれる可能性が高まりますし、建物が密集しているので逃げ場もありません。
過疎地であれば、大地震に襲われても、命を落とす確率は都市部に比べればはるかに低いのです。
首都直下型地震が発生したときの東京の被害は想像したくありません。南海トラフ地震でも、大阪や名古屋などの大都市での被害が大きいことは容易に想像できます。
土砂災害・水害
東日本大震災での死者の多くは、津波に呑まれての水死です。
津波に呑まれるという危険性は、言うまでもなく海岸に近い場所にあるわけですが、東日本大震災クラスの大規模地震で津波が発生した場合は、海岸からかなり遠くても、海抜が低い場所では水没してしまう可能性があります。
水に飲まれて死ぬ危険性は、津波だけでなく、台風や大雨による河川氾濫でも引き起こされます。
近年は「100年に1度の」異常気象災害という言い方が毎年のようにされています。
大雨では、川の氾濫だけでなく、土砂崩れによって生き埋めになるという危険もあります。
これらの危険度は地域というよりは「地勢」に関係します。端的に言えば、
海岸や川、崖や斜面に近い場所は潜在的に危険なのです。
津波や高潮の被害は海岸からの距離はもちろん、海抜で危険度がはっきり分かります。海抜50m以上ある土地で津波被害を受けることはまずありません。
しかし、川の氾濫は海抜とは関係がありません。普段は穏やかに見える河川があふれる事態は、その土地に長く住んでいる人でもなかなか想像できません。
また、都市部では、川がすぐそばになくても、下水があふれて浸水する被害もあります。
2019年10月の台風19号で、川崎・武蔵小杉の47階建てタワーマンションが浸水し、全棟停電になった事例は記憶に新しいところです。643世帯、1500人以上の住民が、長期間、電気も水道もエレベーターも長期間使えず、陸の孤島状態に置かれました。
私が住む日光市では、2015年9月の集中豪雨被害で、我が家の周囲でも川があふれて家が水没したり道路や橋が流されて通行不能になる被害が出ました。
このときの雨は確かに凄まじかったのですが、我が家は丘の上にあるので無事でした。下を流れる川が氾濫して道路のアスファルトが剥がされ、田圃の中にまで運ばれた凄まじい光景を見たのは何日も後になってからです。
今の家を選ぶとき、川との位置関係などまったく考慮に入れていなかったのですが、非常に重要なことなのだと痛感させられました。
我が家の近所の川も豪雨で決壊し、川沿いの道はその後1年近く不通状態だった↑
↓氾濫した水が道路のアスファルト舗装を深くえぐり取り、道の反対側の田圃の中にまで運んだ凄まじい光景(2015年9月)
異常気象という言葉があまりにも陳腐になってしまった近年、この程度の災害はいつどこで起きてもおかしくありません。
移住先の物件を選ぶときには、最低限、海岸、川、斜面からは離れている物件を選びましょう。また、いざというときの避難路が十分広く、周囲に建物が密集していない立地を優先させてください。