タヌパック短信18

●筆名変更その後


 筆名を漢字表記に変えたことには、あちこちから思わぬ反応がありました。
「今月はタヌパックお休みかなと思ってしまいました。いつのまにかたくき よしみつという文字で捜していたのですね。鐸木さんに変わったのは残念です。平仮名でもつかこうへいさんみたいに売れている人もいるのに……」
 これは草の根の読者の一人からのお葉書。タヌパック短信のロゴが漢字名に変わっていたのは、僕もびっくりしました。松下センセが気を利かしてくれたのでしょうか? 
 先月号でも話に出した、僕のデビュー作担当編集者が先日電話をくれたので、そのとき、筆名変更の話をしたら、涙を流さんばかりに喜んでいました。
「いやー、よかったぁ! これで肩の荷が下りた感じがするワ。僕はたくきさんの筆名についてはずっと責任を感じていたんだ。そうかあ、よかったよかった……」
 漢字表記の鐸木能光が公に出た最初は、JALIネット(Japan Literature Net)というインターネットのサイトへの参加者としてです。
 これは筒井康隆さんら五人の作家が発足させたもので、発起人は筒井さんの他に、小林恭二さん、堀晃さん、薄井ゆうじさん、佐藤亜紀さん。ここにいとうせいこうさん(やっぱり平仮名ばかりだとどこからどこまでが名前か一瞬見分けられないな)、井上夢人さんが外部からのリンクという形で加わり、僕は八人目の参加者になりました。
 JALIネットの「参加作家一覧」のページに表示されている鐸木能光という文字を、暫く感慨深く眺めてしまったものです。どうもまだ平仮名のほうが見慣れていて、自分で自分の名前に違和感を感じています。

●『アンガジェ』小説・CD同時発表!

 一、二か月に一度くらいの割合で、お袋から電話がかかってきます。別に遠い場所に住んでいるわけではなく、車で二十分くらいの同じ川崎市内にいるのですが、普段はほとんど話すこともなくなりました。実際に顔を合わせるのは一年半に一度くらい。
 電話の度に「ちゃんと書いている?」と訊かれます。次の本はいついつに出るよと言うと「よかったわねー」と喜んでくれますが、必ずその後には「まさかしつこい性描写なんかないんでしょうね」と続きます。セックスシーンの有無なんて、作品の本質には関係ないんですが、こういうのはとても面倒くさい。家族や親戚をモデルにしたようなキャラクターも書きにくい。
 発売されたばかりの『アンガジェ』は、僕の作品の中では例外的に性描写がふんだんに出てきます。もちろんいわゆるエロ小説を書いたつもりはないんですが、またお袋がなんか言うだろうと思うと、ちょっと憂鬱。
『グレイの鍵盤』のときと同じように、今回もギターデュオKAMUNAによる同名のCDを作っています。この原稿を書いている十一月二十二日現在、仕上がっているのは収録予定曲十曲中四曲。まだ二曲はメロディーも確定していないという始末。CDの納期だけが年末と決まっていて、あと一週間で原盤を完成させなければなりません。
 最後まで決まっていないのはタイトル曲の『アンガジェ』。
 実は、『アンガジェ』というのは、かつて僕が結成していたバンドの名前です。その後、いろいろあって、ソロとしてテイチクレコードからデビューする話が決まったとき、デビュー曲にこの『アンガジェ』というタイトルを付けました。ところがこのデビュー、寸前のところでディレクターが問題を起こして流れてしまい、『アンガジェ』も幻のデビュー曲としてお蔵入りしてしまいました。そのときレコーディングのために用意したパート譜(楽器ごとの譜面)がまだ手元に残っています。
 その譜面を見ながら、ギター用にまったく違う曲として再生させようとしているんですが、うまくいかない。
 前作『カムナの調合』のときもCDを作るつもりが力尽きてしまいました。その代わり初ライブをやり、そのときは書き下ろしで『カムナの調合』という新曲も披露しました。これがなかなかよい曲なので、今回、エレクトリックと生ギターの二つのバージョンを録音。CDの最初と最後に配置します。本当ならこれがタイトルナンバーならしっくりくるわけです。そうしちゃおうかなあ……。『カムナの調合』はライブに来た人しか聴いていないわけだから、分からないもの。……なんか、だんだんズルしたくなってきた。
 でも、中身はきっちりいいものになっているはずです。今回はジャケットも全部自腹切ったので、価格を少し高く(といっても世間並みに)しました。

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