タヌパック短信 27

●「ありがとうの歌」ができるまで



 文字コード問題の話が続いているうちに、いろいろなことがありました。
 ちょっと古い話になってしまいますが、前にもご紹介した広島の詩人・栗栖晶さんとのやりとりをまた報告いたします。
 彼からは、その後、「テレビに出るから見てね」というような手紙が一度来ただけで暫く手紙も途絶えていたのですが、この春、突然、今まででいちばん大きな封筒が届きました。中には絵と詩と手紙が入っていました。
 手紙はこんな感じです。
{たくきさんひさしぶりー。くりすあきらです。げんきですかー。はるがきましたね。ひろしまは、いいてんきです。ぼくは、このあいだまたてれびにでました。ありがとうのしが、みんながすごいというので、しょうかいされたのです。だいぶんまえに、あきむらさんがあんがじえのしーりーを、おくってくれました。ぼくが大よろこびをするから、くれたのです。ぼくは、大よろこびをしました。このあいだ、ぐりこのあいすくりーむをたべて、しいでいぷれやーがあたったので、みみせんをして、あんがじえをきいています。やっぱりぼくは、たくきさんのおんがくが大すきです。
たぬちゃんはげんきですかー。よぼよぼたぬちゃんに、ながいきをするんよーというといてください。ぼくの大すきなたくきさん、ぼくのおねがいをきいてください。ぼくがかいた、ありがとうのしに、おんがくをつくってください。ありがとうのしは、ぼくがじんぞうがわるいので、おしっこのでが、わるくなって、ねつがでて、にゅういんして、しにそうになったときに、みんながしんぱいをしてくれたので、ありがとうのしをかきました。あきむらさんもしんぱいをしてくれたんよ。ぜんこくの人が、しんぱいをしてくれました。だから、たくきさん、ありがとうのしに、おんがくをつくってください。ぼくからのおねがいです。
ぼくのことをしんぱいしてくれた人にみせたら、おおよろこびをしてくれるとおもいます。(中略)
たくきさん、いやだーというたらいけません。あきらくんぼくにまかしとけーというてください。おねがいします。ぼくはびんぼうなので、おかねがないのです。だから、おかねもちになったときに、はらいますので、おんがくをつくってください}

「ありがとう」の詩というのは、こんな感じです。

 ありがとう

ありがとうといわれたら
しあわせになります
でもありがとうは
なかなかいうてもらえません
しんせつにせんというてもらえません
どりょくせんというてもらえません
ありがとうはしんどいことなのです
だからぼくは
しんせつにしてもろうたらすぐ
ありがとうということにしました
ぼくのために
どりょくしてくれたんじゃけん
ありがとうといいます
ありがとうはしあわせのあいさつです

 その夜のうちに、アルバム『アンガジェ』の中の『Lady Goblin』という曲をベースにして『ありがとう』という曲を作り、録音して送りました。こんな手紙を添えて。
「 くりすあきら様
 おてがみありがとう。
 くりすくん、どんどんメジャーになっていきますね。この「メジャー」というのは、たんに「ゆうめい」といういみだけではなく、かいているものがよりおおくの人のこころをとらえるというようないみです。「ありがとう」のしにはそうした「おおきさ」をかんじました。
 それをあまりきにしすぎてしをかくと、ぎゃくにしのせかいが、ほかのだれかが「しごと」としてやっていることとにてきてしまい、ちいさくなってしまうこともあります。
「いやだーというたらいけません」とのことなので、わすれないうちにきょくをつけました。あまりうまくできなかったのですが、きいてみてください。
(中略)
 そうそう。ばんそうにはタヌもさんかしていますよ。ギターやドラムといっしょに、「ひこひこひこひこ」というかんだかいおとがはいっていますが、これがタヌです。なかなかいいこえでしょう。タヌはなかなかうたがうまいです。
 でも、かなしいことですが、タヌは1がつ17にちにてんごくへいってしまいました。よぼよぼになってからもずいぶんながくいきていたし、さいごはぼくたちにみまもられて、たたみのうえでのだいおうじょうというやつでしたから、しあわせなたぬきだったとおもいます。(後略)たくき よしみつ」
正直なところ、「ありがとう」の曲を栗栖さんが気に入ってくれるかどうか、自信がありませんでした。
 作曲としては、これは相当難しい仕事に入るものでした。べたべたとした感じにするのはいやだったし、かといって誰も歌えないようなかっこいい曲でも困るし……。
 媚びずに、伴奏なんかはジャズ系の難しいコードも使いました。フラット13thとか……。
 彼がこの曲を気に入ったかどうかは、また来月号で……。
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