石鹸シャンプーの謎(2)

■石鹸シャンプーの謎(2)



〈前号の概要〉
 松山油脂合名会社という墨田区にある石鹸工場が作っている「アミノ酸せっけんシャンプー」を気に入ったが、「アミノ酸せっけん」の意味が分からず問い合わせてみた。しかし返事はなく、その間、インターネットの石鹸関連網頁などで調べてみると、他にも「アミノ酸せっけん」という表示の「石鹸シャンプー」があり、その正体はラウロイルサルコシンナトリウムという合成洗剤だった……。


 某メーカーの「石鹸シャンプー」に含まれている「アミノ酸せっけん」というのは、正式名称をラウロイルサルコシンナトリウムといい、「天然に存在する遊離アミノ酸、サルコシンのアミノ基をラウロイル基(脂肪酸由来、炭素数12)でN-アシル化したもののナトリウム塩であり、れっきとした合成洗剤」なのだということが分かりました。(「分かりました」といっても、化学的な認識はできていないんですが……)
 また、テレビでも宣伝していた牛乳石鹸の「新石鹸系シャンプー・エデン」なる商品も「植物性アミノ酸系洗浄成分」を謳っていますが、これも「両イオン界面活性剤の一種(他にベタイン系がある)」だそうです。
 日本消費者連盟若手の会・井田裕之さん(農芸化学専攻の大学院生だそうです)というかたが精力的に合成洗剤の害について発言しておられ、「アミノ酸石鹸」とは何か、訊いてみました。
 翌日にはもう電子メールで返事があり、こんな説明をしてもらえました。


「『アミノ酸石けん』の表示は化学的に不適切です。「石けん」とは、高級脂肪酸塩のことを指し、主に植物性油脂あるいは動物性脂肪の鹸化によって得られます。『アミノ酸石けん』といっても不適切でごまかしの多い表現なのでよくわかりませんが、高級脂肪酸でN-アシル化したアミノ酸誘導体のことを指すと思われます。脂肪酸のアミノ酸塩なる物質が実際に使われているとすれば、以上の石けんの定義を満たしますが、アミノ酸の性質上からして考えにくく、使用例の情報もありません。(某シャンプーに「アミノ酸石けん」として表示されていた)『ラウロイルサルコシンナトリウム』も、トイレタリー製品によく配合されるこの類の物質です。これらの物質は天然物ではなく『天然物の誘導体』、すなわち、『合成界面活性剤』の一種です」


 せっかく使い心地抜群の「石鹸シャンプー」を見つけたと思ったら、やっぱりまた詐欺だったのか……。
 すっかりしらけた気分のまま二か月ほど経過したある日、新潟の仕事場に松山油脂からFAXが入りました。


「鐸木能光様
 御返事遅れて申し訳ございません。御質問の趣旨に十分お答えできるか分かりませんが、以下回答します。
(中略)
1・アミノ酸石鹸とは、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の代わりに、アルカリ性のアミノ酸を作用させた化合物を指します。正式には「パーム核油脂肪酸カリウム石鹸」という代わりに「パーム核油脂肪酸L-アルギニン石鹸といいます。L-アルギニンとは、アミノ酸の一種で、弱アルカリ性です。脂肪酸は弱酸性、苛性カリ(水酸化カリウム)は強アルカリ性、一方、アミノ酸のL-アルギニンは弱アルカリ性なので、同じ石鹸でもアミノ酸石鹸のほうが肌にマイルドなのです。
2・石澤研究所の製品が手元になく、はっきりしたことは言えません。ただし、次のことは言えます。
 植物性アミノ酸は確かにありますが、これは洗浄成分ではありません。もし洗浄成分として謳うならば、「植物性アミノ酸を使ったアミノ酸石鹸10%配合」というべきでしょう。(以下略)」


 まさに、井田さんが「使用例の報告がない」と言っていた「脂肪酸のアミノ酸塩なる物質」そのもので、嘘偽りない「アミノ酸石鹸」だったわけです。
 これで少なくとも松山油脂の「アミノ酸せっけんシャンプー」がちゃんとした「石鹸」製品であることは分かりました。合成界面活性剤を無理矢理「アミノ酸せっけん」と言い換えた某社のシャンプーとは全然違っていたわけです。
 このことは井田さんにも報告しました。井田さんは「確かに石鹸の定義を満たしてはいるが、弱塩基と弱酸の塩はほぼ中性になり、化学論上は、水で高度に希釈した状態(つまり中性)でも加水分解しにくく、界面活性を失いにくいということが考えられる。中性だから肌にマイルドという論法には疑問が残るし、アルギニンのような窒素含有率が高いアミノ酸を安易に使うのは、河川や湖沼の富栄養化の原因にもつながるのではないか」というような疑義を表明していました。
 しかし、僕としてはそうした多少の疑問点よりも、実際の使い心地のよさに軍配を上げたいと思います。あらゆる石鹸シャンプーを試して、どうしても馴染めなかった女性数人が、このアミノ酸石鹸シャンプーの使い心地を絶賛しています。僕自身も、最初に使ったときから「おっ!」と思わされました。短髪の男性は石鹸でなんの不自由もないでしょうが、多くの女性にとって、シャンプーだけは石鹸生活最後の障壁だったのです。
 この製品は、「石鹸で髪を洗う」ことに抵抗なく入っていける画期的な商品ではないかと思っています。(続く)
 

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