■はじめに
「2011年7月24日までにアナログテレビ放送は終了し、デジタルテレビ放送に移行します! アナログテレビについては、デジタルチューナーなどを取り付けなければ視聴できなくなります」
……これは、総務省のWEBサイトにデカデカと掲示されている文言である(2009年8月現在)。
しかし、当初から放送業界では「2011年のアナログ停波は絶対に無理だ」と断言する人たちが少なくなかった。
1億台以上あるとされるアナログテレビを全部粗大ゴミにできるはずがない。2011年までにすべての視聴者がデジタル対応できるはずがない。地デジ送出基地局の建設が間に合うわけがない。……理由はいくつもあげられた。

不吉な予兆が続いている。
地デジ推進役の「地デジ大使」が酔っぱらって、真夜中の誰もいない公園で少しだけ羽目を外した事件があった。総務大臣は「最低の人間だ」と激怒したが、世間はむしろ大臣のその言葉に呆れた。
その後を受けたキャラクター「地デジカ(ちでじか)」は「スクール水着を着ている」と揶揄されてネット上でパロディが続出し、いじり倒されている。
地デジカに対抗してアナログテレビを守るヘタレキャラ「アナロ熊(あなろぐま)」なるものまで登場した。
そう、「地デジ化にだまされてはいけない」という声があちこちで噴出しているのだ。
地デジ対応テレビが予想以上に普及しないのは、多くの人が「今までのテレビで何も困っていない」からだが、実は、理由はそれだけではない。
今まで、テレビといえば、大きさの違いこそあれ、基本的には「同じもの」だったが、今や、テレビはひとつではない。
地上波アナログ、地上波デジタル、BSアナログ、BSデジタル、CS、110度CS、ケーブルテレビ、ひかりテレビ、スカパー!光、アクトビラ、ワンセグなどなど、多くの種類の「テレビ放送」がある。それらを視聴するためのシステムは異なり、実に複雑怪奇なシステムに変貌してしまった。おそらく、現代の「テレビ事情」をきちんと説明できる人は少ないだろう。
そもそも、BS、CS、ケーブルテレビ、IPテレビ(ひかりテレビやアクトビラなど)を使えば、「地上波」でデジタル放送をする必要などない。すでに高画質放送を実現できる手段が豊富に存在するのに、なぜ有効に使わないのか。
BSやCSは通販番組やゴミ番組で埋め尽くされている。高解像度チャンネルでショボイ映像の通販番組を見る意味がどこにあるのか。
また、地デジに限らず、デジタル放送を見るにはB-CASカードというやっかいな「通行手形」が必要で、録画やコピーがとてつもなく面倒になっている。一旦録画したデータをディスクにコピーして保存したり、他のメディアに移したりといった単純な管理をすることにさえ、ガチガチに制限され、残されたわずかな手段を行使するにも相当な知識や最新機器の購入を強いられる。
たかだかテレビを見たり録画したりするだけのことに、なぜこれほど悩まされなければいけないのか。こうした「面倒くささ」こそ、「まだ買い換えなくてもいい」と思わせる要因になっている。
大きくてきれいな画面を楽しめるのは結構なことだが、誰もが大型の高画質テレビを欲しているわけではない。買い換えるにしても、シンプルで小型のテレビを望む人はたくさんいる。テレビは小型でいいが、録画は思いきりできなくては困るという人もいる。
こうした要望に、家電メーカー、放送会社、政府は、なぜ真摯に向き合わないのか。背景にはどんなカラクリ、思惑があるのか。
本書はそうした複雑怪奇な現代テレビ事情を解明し、これ以上政府やメーカーにだまされないためのガイドブックである。
これからテレビを買い換えようとしているかたも、すでに買い換えて地デジのクリアな画像を楽しんでいらっしゃるかたも、ぜひ一読してみていただきたい。
テレビについて知らなかったこと、知って得することがたくさんあるに違いない。